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※「再愛」続編


英太から(2度目の)プロポーズをされて早1ヶ月。私達の間に何か変化があったのかときかれれば、答えはノーだ。それまでと同じような日常を繰り返しているだけで、結婚式は?とか、そもそも婚姻届は?とか、そういう話すらしていない。今更焦って行動する必要はないと思い何も言わなかったのだけれど、そろそろ何かしら動きがあっても良いのではないだろうか。
忙しい仕事に追われていた平日を終え、今日は土曜日。私も英太も休みなので、ゆったりと朝食を終えてコーヒーブレイク。私は正面に座る英太に、思い切って切り出してみることにした。


「英太、あの、ききたいことがあるんだけど」
「ん?何?」
「そのー…プロポーズはすごく嬉しかったんだけど、これからどうするつもりなのかなーって…」
「え。俺、言わなかったっけ?」


はて、と。何かを考えるように首を傾げた英太は、過去の記憶を遡っているようだった。言わなかったっけ?ときかれても、結婚絡みの話なんてプロポーズ以外は何も思い当たる節がない。もしも私が事故に遭う前に何か話をしていたのだとしたら、申し訳ないけれどその記憶はどこかに飛んで行ってしまっている。


「あー、いや、言ってないならその方がいいや」
「え?どういうこと?」
「まあその話は心配しなくていいから」
「ちょっと…全然納得できないんだけど…」


とても意味深なことだけ言って、それから英太は何も教えてくれなかった。心配しなくていいと言われても、正直心配しかない。英太は優しいし私のことを何よりも優先して考えてくれる人だけれど、どこか肝心なところが抜けていることが多いし、少しだけ頼りないのも事実なのだ。
結局、その日は折角の2人そろっての休日だったのにいつも通りのんびり過ごすだけに終わってしまって、このままずるずると婚約者としての時間を過ごし続けるのかなあと思っていた。けれども、その予想は大きく外れることとなる。


◇ ◇ ◇



プロポーズをした直後、いや、その前からずっと考えていた。どうやったら名前に喜んでもらえる結婚式ができるだろうか、と。ここまでの道のりはなかなかに長いものだった。だからこそ、一生に一度、それこそ何があっても絶対に忘れることのできないような結婚式にしてやりたい。
そう思ってはいたものの、俺1人の力ではどうすることもできなくて。そこで頼ったのが高校時代の仲間達だった。俺達のことの顛末を全て知っているソイツらに相談し、これでも必死に考えた。名前になんとなく今後の予定を伝えたつもりでいたけれど、どうやらそれは俺の勘違いだったらしく、それならばいっそのことサプライズにしたら良いと思いつき、あれよあれよと言う間に迎えた作戦決行の日。
名前にとっては何の変哲もないいつもの休日だろうけれど、俺は内心そわそわしていた。不自然さを感じさせないように、できるだけナチュラルに外に連れ出すという任務を遂行しなければならないからだ。いつも通り、自然に、自然に。そう呪文を唱えると逆に緊張してしまうのだから困ったものだ。


「英太、買い物行く?」
「え?あ、おう」
「どうしたの。なんか今日、いつもと違うよ?」
「気のせいじゃね?そんなことより、ほら、買い物行くんだろ」


腑に落ちていない様子ではあったがなんとか名前を連れ出すことに成功した俺は、次の作戦に出る。と言っても、車に乗ってしまえばこちらのもので、俺はとある場所を目指して車を走らせた。いつもとは違う道を走っていることに気付いた名前は、どこ行ってるの?と何度も尋ねてきたけれど、教えてはやらない。
数十分ほど経過したところで漸く辿り着いた目的地はとあるレストラン。


「英太…ここ、来たことある…?」
「え?」
「違うか…」


過去の記憶がないはずの名前から、まさかそんな発言が飛び出すとは思わなくて驚いた。確かにこのレストランは思い出深く、実は俺が名前に初めてプロポーズした場所だったりする。初めてのプロポーズの場所も違う形でいいから名前の記憶に留めておいてほしい。俺の小さな我儘だった、はずなのに。ほんの少しでも記憶の断片として残っていることが嬉しかった。


「中、入ろう」
「え?でもお昼ご飯には早いし…」
「いいから」


車を降りて強引に手を引く。準備中の看板も無視してドアを開けると、そこにはにこやかな笑みを浮かべた店員さんが待ち構えていた。いらっしゃいませ、お持ちしておりました、という言葉に疑問符を浮かべている名前だけれど、全て計画通り。あとの準備は店の人にお任せだ。
何?なんなの?え?と、戸惑う名前とは一旦離れ、俺は自分の準備に取り掛かる。きっと一生で一番幸せな時間まで、あともう少し。


◇ ◇ ◇



朝から英太の様子がおかしいことには気付いていたけれど、一体何が起こっているのか。いまだに状況が飲み込めていない。見ず知らずのお姉さんに着替えさせられ化粧を施され髪をセットされ、私は着せ替え人形状態だった。


「できましたよ」


そう言われて鏡を見てから気付いた。ああ、これは英太が準備してくれた私へのプレゼントなんだと。せっかく綺麗にしてもらった化粧が落ちてしまわないように、私は必死に涙をこらえる。


「準備、できた?」
「英太…何これ。びっくりするでしょ」
「びっくりさせたくて内緒にしてたからな」


私を迎えに来てくれた英太はタキシードに身を包んでいて、純白のドレスを身に纏った私をエスコートするにはちょうど良すぎた。髪まできっちりセットされていて、いつもとは違う男の色香ってものを感じる。ほんと、ずるいなあ。
行こうか、と差し出された手を取って。私はこの瞬間、お姫様になった。
扉の前に立って、開かれた先には両親やきょうだいだけでなく、見知った顔が沢山。結婚おめでとう!とクラッカーを鳴らされて、恥ずかしいけれど擽ったくて嬉しい。あの牛島君までもが私達のためにかけつけてくれて、おめでとう、と言ってくれることが、もはや奇跡に近い。


「名前ちゃん綺麗だヨ〜!」
「ありがとう」
「準備した甲斐ありましたね」
「みんなで準備してくれたんだね…ありがとう」


英太と皆が協力して今日まで準備をしてくれたらしく、忙しい中で私達のために悩んだり考えたりしてくれたのだと思うと、やっぱり涙腺が緩んでしまう。ダメだなあ、幸せすぎてすぐに泣いちゃいそう。そんな私に気付いたのか、まだ泣くなよ、と隣で笑う英太は、私と同じくとても幸せそうだった。
それもそのはず。私が記憶を失うよりずっと前から、英太はこの日を思い描いていたはずだから。待たせてごめんね。それから、待っていてくれてありがとう。


「これからもよろしくな」
「こちらこそ…よろしくお願いします」


大好きな人達の前で、大好きな人との永遠を誓う。こんなに幸せなことって、きっとない。するりと左手の薬指に嵌められた指輪は、いつの間にサイズをリサーチしたのかぴったりで、いつから計画していたんだろうと不思議に思って。もしかしたら、私が事故に遭う前から用意してくれていたのかもしれないという考えに至った。
結婚式はチャペルがいいな、とか。可愛いドレスが着たいな、とか。本当は色々夢も願望もあった。けれども、そんなのどうでもよくなるぐらい、これ以上のものはないと思わせてくれた英太と皆には感謝の気持ちしかない。
こうして紡がれた思い出の1ページは、私の記憶に深く刻み込まれた。今日から英太は旦那様。これから一生かけて、思い出を増やしていこうね。きっともう、忘れたりしないから。
薬指から記憶を紡ぐ

寧々様より「中編「再愛」の後日談か、2人が付き合う馴れ初め」というリクエストでした。馴れ初めと迷いましたが、今回は後日談にしてみました。本編であまり幸せオーラを出すことができなかったので、せめて番外編では幸せな2人を描きたくて…ベタな展開ではありますが微笑ましい気持ちになってもらえたらなと思いながら書きました。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.10.06


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