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忘れられない恋のひとつやふたつ、誰にだってあるんじゃないだろうか。それが成就したにせよ、失恋したにせよ、忘れようとしたところで忘れられない、燻っている感情ってものが。
高校1年生の春、入学したばかりの頃に目に留まった彼女の姿。俗に言う、一目惚れってやつだったのかもしれない。目が合った瞬間ビビビッときたというか、雷にうたれたような衝撃を受けたというか、なんというか。とにかく俺にとって初めての経験だったそれは、運命ってやつを感じさせたのだ。
なんともラッキーなことに彼女とは同じクラスで、すぐに普通の男友達として接してもらえるような関係にはなれた。しかし、そこから先に進むには告白をするしかないわけで。俺は1年生の夏、思い切って彼女に告白をした。好かれているという自信はあったし、脈ありなんじゃないかと思っていた。だから、付き合うことにはなったのだけれど、数ヶ月後にはフラれてしまった。理由はよく分からない。たぶん俺が部活優先なのが気に入らなかったんだろう。
そんなわけで、幸せな高校生活のスタートを切り損ねた俺は、3年生になった今でも彼女のことを引き摺っている。我ながら、なんとも未練がましい男だと思う。しかし、俺だって努力したのだ。彼女のことを忘れようと、告白してきてくれた女の子と片っ端から付き合ってみたり、誘われた合コンに行ってみたり。けれども、なぜかいつも脳裏に彼女の姿が過るものだから、俺はちっとも前に進めなかった。こんなことがあっていいのだろうか。


「木葉さん、顔死んでますよ」
「うるせー」
「また名字先輩のことでも考えてたんですか」
「お前ってホント…ヤな後輩だよな…」


俺がフラれたのは赤葦が入学していない頃の話だというのに、いつの間にか(恐らく木兎あたりが何の気なしに言ったんだろう)失恋話を耳に入れていて、ついでにそれが誰かということまで既にバレているというのは非常に解せない。ついでに言うと、俺がいまだに絶賛報われない片想い中だということにも気付かれているから、本当に腹立たしい。3年生の連中にもバレバレだし(あの木兎にもバレているなんて信じたくない)、俺ってそんなに分かりやすい行動取ってるっけ?と首を傾げている。
朝練の時にそんなやり取りをしたせいだろうか。今日は教室に向かう廊下で名字に出会った。普通に、おはよ、と挨拶を交わす。ちらりと合った視線はすぐに逸らされて、俺には、擦れ違う瞬間にふわりと鼻孔を掠めたシャンプーの香りだけが残された。ああ、くそ、これだけでいちいちドキドキすんなよ、俺。
何が、とか、どこが、とか、そんなことは分からない。それでも好きなものは好きなのだ。一度フラれているのでもう一度告白する勇気はさすがにないけれど、それならばこの感情はどうやって処理すれば良いのだろうか。そんなことを考え続けて早2年。俺はなかなか一途な男だと思う。


「いい加減もう1回告白すれば?」
「はあ?何が楽しくて自分から2回もフラれに行かなきゃなんねぇんだよ」
「また付き合えるかもしんないじゃん」
「フラれたのに、か?」


昼休憩、隣のクラスの小見と猿杙が俺のクラスへとやって来て一緒に昼飯を食おうと部室まで引っ張って行くので何かと思えば、とんでもないことを言ってきたものだから思わず顔を顰めてしまった。お前ら、俺がフラれたの知ってるよな?また傷を増やせっていうのか?ん?
ちなみに2人は、現在名字と同じクラスだ。そんな提案を吹っかけてくるからには何か俺にとって良い情報でもあるのかと尋ねてみても黙って苦笑するだけだし、告白するメリットなんてどこにもなさそうだ。俺はそこまで美味くもないパンを齧りながら、しねぇよ、と呟いた。
ちょうどその時、ドタバタと騒がしい足音が聞こえ始めて何事かと振り返ると、バーン!と激しく開いた部室の扉の向こうには木兎と、なぜか名字の姿。なんでこのツーショット?ていうか手繋いで登場って、何?これ何の嫌がらせ?


「連れてきたぜー!」
「あの、木兎君、ちょっとよく意味が分からないんだけど…」


得意げな木兎と状況が飲み込めていないらしく戸惑った様子の名字はいまだに手を繋いだままでイライラする。その手、離せよ。別に名字は俺のものじゃないし、こんなこと言える立場でもないってことは分かっているけれど、どうしても言いたくなってしまうのは仕方のないことだと思ってほしい。俺は名字のことが好きだって、お前も知ってるはずだろ、木兎。


「俺、教室戻るわ」
「いや、お前がいなくなっちゃダメなんだって!」
「はあ?わけわかんねぇこと言うなよ」
「木兎に任せたのが間違いだったな…とりあえず木葉と名字さんは部室残って!木兎、帰るぞ!」
「ちょ…!お前らマジでなんだよ!」
「あとは頑張れ!」
「男は度胸だぞー」


木兎に引き留められ、小見と猿杙に謎の声援を送られ、嵐のように3人が去って行った後の部室内は静寂に包まれる。取り残されたのは俺と名字。なんだこの状況は。意味が分からない。呆然と立ち尽くしているのは俺だけではなく名字も同じで、どちらからともなく、なにこれ、と呟いていた。


「なんで木兎とここに?」
「お昼ご飯食べてたら急に木兎君が来て…木葉から話がある!って…引っ張ってこられた…」
「は?俺から?話?」
「うん」


名字が嘘を吐いているとは思わないけれど、名字に話をする予定なんてこれっぽっちもない俺からしてみればチンプンカンプンだ。話?話って…もしかして。思い出されるのは、先ほどまで小見と猿杙と話していた内容。そして捨て台詞として残された謎の声援。つまりこれは、告白のシチュエーションを勝手にセッティングされたということなのだろうか。おい待て。俺は告白するなんて一言も言ってねぇぞ。
だらだらと嫌な汗が流れてくる。無意識のうちに固く握っていた拳は手汗がハンパないし、よくよく考えてみたら2人きりってやばくないか?名字は帰ってもいいものか、それとも俺からの話ってやつを待つべきなのかとそわそわしているのがなんとなく分かる。


「あー…あの、さ」
「うん」
「話っていうか、言いたいことが、あって」


どうせフラれることは分かっているし、一度フラれたことがあるのだからまたフラれようと同じことだ。俺はもうほとんどヤケクソになって告白する決心をした。かなり強引ではあるけれど、せっかくアイツらがここまでセッティングしてくれたのなら当たって砕けてやろうではないか(後で有難迷惑だったと文句は言っておこう)。


「俺、名字のことまだ好きなんだよね」
「え!」
「未練がましいだろ」
「いや、あの、」
「分かってる。あの時もフラれたし。伝えたかっただけだから」


困惑して、誰かに助けを求めたがっているような表情。これで本気で終わりだなあ。そんなことを考えながら教室に戻ろうかと入り口の方に足を進めかけた俺を止めたのは、他でもない名字だった。俺の制服のシャツの裾を控えめに引っ張りながら、待って、と。小さな声で聞こえたのは、空耳なんかじゃない。


「あ、の、それ、本当…?」


とても不安そうな瞳で見つめられた。1年生の時から気持ちは変わっていない。そのことを伝えても信じてもらえないのだろうか。俺が正直に、ずっと好きなままだったことを伝えても、その表情はなかなか晴れない。


「木葉君、いろんな子と付き合ってたし…」
「あれは名字にフラれたから忘れようと思って必死だっただけで、別に好きだから付き合ってたわけじゃねぇし、俺から告白したことって1回もねぇし、」


まくしたてるように弁解する自分のなんとみっともないことか。それほどまでに俺は必死だったのだ。名字をどうしても自分だけのものにしたくて。入り口の方に向けていた身体を翻して名字に向き合う。


「だから、また、俺のものになって」
「…今はだめ」
「なんで」
「木葉君にはバレーがあるでしょ」
「ちゃんと名字のことも大事にする」
「そうじゃなくて。私が、そうしてほしいの。中途半端なことしてほしくない。私はバレーを頑張ってる木葉君が好きだよ。ずっと。あの時から。でも、私がいると窮屈そうだなって思ったから」


名字は俺なんかよりもずっと大人で、ずっと頭がよくて。もしかしたら俺が名字のことを好きだって思っている以上に、名字は俺のことを好きだって、大切だって思ってくれているんじゃないかと、自惚れる。さらりと言われた、好き、という言葉に、こんなにも心臓が五月蝿くなるなんて知らなかった。


「試合、応援に行く。だから、全部終わったら迎えに来てよ。それまで待ってる」
「なんだよ、俺より男前すぎて腹立つんだけど」


はにかむ笑顔に見惚れたのは内緒。俺は、いまだに俺のシャツの裾を握ったままだった名字の手を取って、その薬指に口付けを落とした。ぶわりと赤くなる顔に満足。ちゃんと迎えに行くから、今のキスで予約完了ってことでよろしく。
やっぱり運命だった、なんてね

ゆうか様より「1年生の時にフラれるが忘れられず復縁を迫る、梟谷メンバーが友情出演」というリクエストでした。友情出演のさせ方が雑すぎますが笑、小見と猿杙はヒロインから相談を受けていたという裏設定でお願いしたいと思います。木葉が果たして木葉になっているのかとても不安です…そして木兎さんの役回りがとても不憫でしたね笑。個人的にはとても楽しく書かせていただきました。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.09.30


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