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ただ、美人やなぁと。初めてその姿をこの目に捉えた時、見惚れた。俺はよく、一目惚れしました、とかなんとか言われて告白されることがあるけれど、一目惚れなんて有り得へんやろ。芸能人でもあるまいし、一般人で一目惚れするほどの見た目ってなんなん?と思っていた。その子に出会うまでは。
県予選を行っていた体育館で出会ったその子は、他校の制服を着ていた。あの制服、どこの高校やったっけ?分からなかった俺は直接本人のところに突撃することにした。遠回りすんの、嫌いやねん。


「どーも」
「……どーも?」
「応援?どこの高校?」
「へ?えーと…、」


戸惑いながらも教えてくれたその子の高校は、不運にも次に俺達の高校と対戦することが決まっていた。折角の応援も無駄になってしまうだろう。まぁ遅かれ早かれ、うちの高校に当たってしまえば負ける運命は決まっているのだけれど。


「次の試合、うちの高校とやな」
「そうなんですか…?」
「な、勝負せぇへん?」
「は?」
「うちが勝ったら、名前と連絡先教えてほしいんやけど」
「な…、初対面でいきなり…何を…」
「一目惚れしたんやもん。しゃーないやん」


遠回りは嫌いだからと、ド直球で攻めた。俺は、突然の出来事に驚いて何も言えずにいるその子の返事を待つことはせず、またあとで、とだけ言い残してその場を去る。言い逃げは卑怯かもしれないけれど、それ以上に卑怯なのは、次の試合でうちが勝つことは必然だと分かっていて勝負を吹っ掛けたことだろう。
結果は勿論、うちの圧勝。向かいの2階から自校を応援していたその子に視線を送れば、ばっちりと目が合った。なるほど、約束(と言う名の一方的な取り決め)のことはきちんと覚えてくれているらしい。次の試合までは時間があるので、俺は足早に2階に駆け上がる。


「俺の勝ちやな」
「友達に優勝候補だってききましたけど。ずるくないですか、そういうの」
「フッフ…ほな、教えてくれへんの?約束破るん?」
「約束した覚えはありません」
「俺、本気やのに」


逃げようとするその子の手を掴んで、強引に振り向かせる。欲しいもんは手に入れんと気ぃ済まん性質でごめんな?教えなければその場を切り抜けることはできないと悟ったのか、渋々ながらも教えてもらえた名前と連絡先。なんだかんだですぐ落とせると高を括っていた俺だったけれど、予想に反して名前ちゃんは難攻不落だった。
まず、連絡をしても基本的に既読無視をされる。初めて出会ってから1ヶ月、返ってきたのは、ホンマは俺のこと好きなんやろ?という冗談めいたメッセージに対する、有り得ません、という、ひどくシンプルかつ辛辣な言葉だけ。ちなみに、勝手に名前ちゃん、と呼んでいるけれど本人から了承を得たわけではない。
というわけで携帯でのやり取りには限界があるということを悟った俺は、部活が休みの日に名前ちゃんが通う高校の正門前で待ち伏せしてみた。ちらちらと俺に向けられる視線のことなど、気にしている場合ではない。暫く待っていると、漸く待ち侘びていた名前ちゃんの姿。直接会うのはこれでまだ2度目だけれど、やっぱり美人だ。そしてスタイルも良い。
友達らしき女の子数人とこちらに歩いてくる名前ちゃんにじっと視線を送り続けていると、その視線に気付いた名前ちゃんは心底嫌そうに顔を顰めたけれど、それは照れ隠しという風に解釈しておこう。にこやかな笑みを浮かべながら近付けば、お友達はとても空気が読める子達ばかりだったらしく、ごゆっくり〜という言葉を残して2人きりにしてくれた。


「なんでこんなところまで来てるんですか」
「なんで、はこっちのセリフやわ。なんで返事してくれへんの?」
「する必要がないからです」
「俺の言ったこと、まだ信じてくれてないん?」
「当たり前でしょう?私じゃなくても女の子にモテそうじゃないですか。あの試合の時だって応援団の子達から黄色い声援が飛んでましたよね」
「嫉妬してくれたん?」
「……帰ります」


呆れた、と言わんばかりに大袈裟な溜息を吐いた名前ちゃんは、すたすたと歩き始めた。俺自身、一目惚れも、自分から好きだと思えたのも初めてのことで戸惑ってはいる。けれども、だからこそ、名前ちゃんには本気だということを信じてもらいたい。確かに俺はモテるけれど、そういう問題ではないのだ。俺が、好きになった。それがどれほど奇跡的なことか。名前ちゃんはきっと分かっていない。


「どうやったら信じてくれるん?」
「…なんで私にこだわるんですか……」
「自分から好きやなって思ったの初めてやから?」
「それも気を引くための冗談ですか」
「名前ちゃん」
「なんです…か、」


立ち止まって名前を呼ぶと、俺に倣って足を止めて振り向いてくれた名前ちゃん。その整った顔は、俺の視線とぶつかった瞬間、恐怖とも困惑とも取れるなんとも複雑な表情に歪む。真剣な眼差しを、怒っていると勘違いされたのかもしれない。俺がこんなに真面目な表情をするのは、試合の時、それも切羽詰まった時だけだったのに。それほどまでに余裕がないということだろうか。らしく、ない。


「これでも本気やねん」
「……そんなこと、言われても」
「好きになってくれとは言わへん。けど、否定だけはせんとって。…な?」


我ながら作り笑いが下手だったとは思う。返事はなかったけれど、これ以上何を言ってもしつこいだけだろうと判断した俺は、挨拶もそこそこに名前ちゃんの元を離れた。本当は家まで送ってあげたい、というより、もう少し一緒にいたいと思ったけれど、引き際が肝心だと考え直し諦めた。
連絡も、しつこくするのはやめよう。押してダメなら引いてみろ、というのはもう古い考え方なのかもしれないけれど、それ以外に俺ができることはない。
翌日から、俺はぱったりと名前ちゃんに連絡するのを止めた。大きな大会が控えていることもあり練習がいつも以上にハードな日々が続いたので、どちらにせよ連絡する時間はあまりなかったし、ちょうどいいタイミングだったかもしれない。練習に打ち込むこと2週間、名前ちゃんからの連絡は当たり前のようになくてヘコみはしたけれど、どうせそんなもんだろうなとは薄々感じていた。
さて、引いてもダメならどうすればいいのだろう。今まで自分から仕掛けることなんて皆無だったから、イマイチ攻め方が分からない。こんな時でも俺の頭の中はバレーのことが1番らしく、結局どうするべきか決められないまま、思考はバレーの試合の方に持って行かれてしまった。


◇ ◇ ◇



バレーの試合会場。いつも通り順調に勝ち進んではいるが今日はどうにも調子がノらず、治に、雑念が多すぎるわアホ、と言われてしまった。さすが双子。何も話していなくとも俺が集中しきれていないことに気付いていたらしい。そろそろ本気で切り替えて集中しなければと思い、人気のない体育館外の物陰でスポーツドリンクを飲みながらぼーっとしていた時だった。


「宮、君」
「……は?名前ちゃん?」


振り返った先にいたのは名前ちゃんで、思わずフリーズしてしまった。俺の記憶がたしかであれば、名前ちゃんの高校は今日の大会に出ていないはず。それなのにどうしてこんなところにいるのか。それに今、名前ちゃんは俺の名前を呼んだ。もしかして、という期待に胸が膨らんでしまう。


「本気じゃ、なかったんですか…」
「何が?」
「私のこと好きだって気持ち、本気じゃなかったんですか」
「本気やけど…」
「じゃあなんで急に連絡してこなくなるんですか」


これは、本当にもしかするともしかするのだろうか。古典的な策だとは思ったけれど、どうやら効果は絶大だったらしい。にやける口元を隠すことができない。


「寂しかったん?」
「…別に、そんなんじゃないです」
「ほな今日、なんでここに来たん?」
「確かめに来ただけです!」
「ふーん?で?本気やって確かめて、どないするん?」
「それは…、」


言い淀む名前ちゃんにゆっくりと近付く。脈なし、ダメ元、そんな気持ちで始まった片想い。俺の勘違いじゃなければ、その片想いとも今日でおさらばできそうな気がする。あと1歩踏み出せば触れられる距離まで近づいたところで、俺は足を止めた。見下ろした先にある綺麗な顔は俯いたままだけれど、髪から僅かに覗く耳は赤く色づいているような気がする。


「名前ちゃん、こっち向いてみ?」
「や、です」
「フッフ…ほな勝負せぇへん?」
「勝負?」
「この大会、うちが優勝したら俺と本気で付き合う、とか」


うちが優勝候補であることは既に知っているはず。俺は前と違って返事を待っているわけだし、卑怯な手段ではないと思う。暫く沈黙が続いて、このまま何の返事ももらえないのだろうかと思いかけていた頃、いいですよ、と。小さな声で返事が聞こえた。つまりそれは、実質、俺の告白に応えてくれたということになるわけで。


「応援してくれるんやろ?」
「……しません」
「つれないなぁ」
「しなくても勝つんでしょう?」
「……そりゃ勿論」
「だから私は待ってるだけでいいかなと思って」


俄然試合にやる気が出てきた俺は名前ちゃんの頭をくしゃりと撫でてから体育館に戻った。俺が勝って、名前ちゃんの元に行くまであと数時間。まずは名前ちゃんから、好きって言ってもらわなあかんな。
唇の先にハートを落とす

rarami様より「他校の美人ヒロインに猛アタックするけど振り向いてもらえない、策士な宮侑、最終的には両想い」というリクエストでした。両想いというのがニュアンスだけでしか伝わりませんね…すみません…。逃した獲物は逃さない宮侑。策士感はあまりないかもしれませんがお楽しみいただけたら嬉しいです。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.09.03


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