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「ねぇちょっと聞いて!」
「他あたれ」
「無理」
「遠慮しとく」
「なんで!」


岩ちゃん、マッキー、まっつんは、口を揃えて俺の申し出を断った。なんと薄情な奴らだろう。きっと最近、俺に可愛い年下の彼女ができて、それがまた我らがバレー部のマネージャーなもんだからひがんでいるに違いない。


「もう惚気は聞き飽きた」
「右に同じ」
「更に右に同じ」


3人の反応を見る限り、どうやら俺は付き合い始めてからというもの、思っていた以上に惚気ていたらしい。そんな自覚はないのだけれど、おかげで何も聞いてもらえなくなってしまい、俺は大袈裟に肩を落として見せる。まあそんなことしたって誰も気に留めてくれないってことは分かってましたけどね!
俺は3人に彼女である名前ちゃんの話をするのを諦めて、1人寂しく部室に向かう。後ろから3人がぞろぞろついて来ているけれど、そりゃあ目指す場所が同じなのだから仕方がない。


「惚気るぐらいだから及川んところは順調なんだろ?」
「よくぞきいてくれたね、マッキー!それがさ!昨日から名前ちゃん、俺のこと頑張って名前で呼ぼうとしてくれてんの!健気で可愛くない!?」
「及川が名前で呼んでほしいって頼んだんだろ?」
「う…まあ…そうだけど…」


まっつんのツッコミはいつも冷静だ。年下だからという理由で、敬語も及川先輩という呼び方も抜けない名前ちゃんに、付き合ってるんだから名前で呼んでほしいと頼んだのは、一昨日のこと。渋りながらも名前で呼ぼうと努力してくれていることは伝わるから、それがなんとも可愛くて。俺は昨日から悶えっぱなしだ。
つまり俺は、見ての通り、かつてないほど名前ちゃんという女の子にゾッコンである。だからなのだろうか。名前で呼んでもらうことに加えて、俺にはもうひとつ、どうしても名前ちゃんにやってもらいたいことがあった。それが、


「膝枕?」
「またそんなベタな…」
「今までの彼女にやってもらったことあるだろー?」


眉間に深い皺を寄せた岩ちゃんの口から、膝枕という可愛らしいワードが飛び出してきたことに少しばかり笑ってしまったけれど、その単語を先に口走ったのは他でもない俺だ。


「名前ちゃんにやってもらいたいの!だからここ1週間、そういうシチュエーションに持ち込もうと思って頑張ってるんだけど上手くいかなくてさ…」
「くだらねぇ」
「普通に頼めば?」
「なんで膝枕にこだわるんだか…」


大好きな彼女に膝枕してもらうことは男なら誰しも抱く夢だと思っていたのに、3人の反応はなんとも冷たいものだった。うそでしょ。岩ちゃんとまっつんは何となく想像できていたので何とも思わないけれど、マッキーまでそんな冷ややかな態度取っちゃう?さすがの及川さんだって、そろそろ傷付くよ?
どうやってナチュラルに、いやらしくない流れで名前ちゃんに膝枕をしてもらおうか。そんなことでここ最近頭がいっぱいだった俺は、学校生活においてもできるだけ名前ちゃんに接触できるよう試み、昼休憩には中庭でお弁当を食べてみたりもした。
けれども、元々恥ずかしがり屋の名前ちゃんが公衆の面前で膝枕なんて大胆な行為をしてくれるわけもなく。そもそも、手を繋いで帰ることにも慣れ始めたばかりなのに膝枕をしてもらおうなんて、ハードルが高すぎるのかもしれない。
なかば諦め気味だった俺にチャンスが訪れたのは、それから1週間程が経過した頃だった。それはもう何の前触れもなく唐突に、月曜日のデートは名前ちゃんの家にお邪魔するという流れになったのだ。
名前ちゃんのお母さんが俺に会いたがっているらしく、良いですか?と申し訳なさそうに尋ねられ、俺は断る理由もないのですぐさま了承した。大好きな彼女のお母さんに挨拶できる機会なんて滅多にあるものじゃないし、会いたいと言ってもらえているのは喜ばしいことだ。別に下心があったわけじゃない。…いや、少しは、ほんの少しはあったけど。


「初めまして。及川徹です」
「名前の彼氏、こんなにイケメンだったの!?」
「お母さん!恥ずかしいからやめて…」


お母さんへの挨拶は手応えバッチリで終了し、俺は名前ちゃんの部屋へ連れて行かれた。内装は割とシンプルで、名前ちゃんのふわふわした雰囲気はあまり感じられない。俺は促されるまま空いたスペースに腰をおろし、それとなく室内を見渡した。ほんと、シンプル。清潔感があって俺は好きだけど。


「飲み物、ジュースで大丈夫でしたか?」
「うん。大丈夫。ありがとう」


お母さんが用意してくれたのだろう。ジュースとお菓子を持ってきてくれた名前ちゃんは俺の隣に座る。ちらりと視線を落とした先に見えたのは、スカートから覗く白い脚。あ、やばい。ムラっとしてしまった。


「先輩?」
「ん?何?」
「いえ…ぼーっとしてるなと思って…DVDでも見ます?」
「ううん。見ない」


つい今しがた座ったばかりなのに立ちあがってDVDを取りに行こうとする名前ちゃんの手を取って、元の位置に座らせる。じゃあ何しますか?と不思議そうに尋ねてくる名前ちゃんに、俺はにこりと笑いかけた。


「お昼寝しよっか」
「あ…そうですよね。毎日練習があって疲れてる筈なのに、折角の休みの日にうちになんか来てもらって…ごめんなさい」
「違う違う。そういう意味じゃないよ」


名前ちゃんは俺に気を遣いすぎている節がある。だから今のように、おかしなところで謝ってくることもよくあって、俺はそのたびに苦笑してしまう。と同時に、ちょっと邪なことを考えている自分を秘かに恥じた。それでも欲求というものはなかなか抑えることができない。


「あのさ、お願いがあるんだけど」
「はい?何でしょう?」
「膝枕してくれない?」
「えっ…」


そんなに驚かなくても…ってぐらい目を真ん丸くさせて固まった名前ちゃん。膝枕ってやっぱりハードル高いのかな…と思っていると、今度は突然しょんぼりと肩を落とした。一体どうしたというのだろう。


「それって今まで付き合ってきた人にもやってもらいましたか?」
「え?うーん…どうだったかな…どうして?」
「……比べられたら嫌だなって思って…私は先輩の今まで付き合ってきた彼女さんみたいにスタイル良くないですし、脚だって太いから…」


何を言い出すのかと思えば、それってもしかしなくても嫉妬だよね?可愛いこと言ってくれるんだから。俺はいまだに何かごにょごにょと言っている名前ちゃんの太腿の上にごろりと頭をあずけると、硬直しているその顔にそっと手を伸ばした。頬をするりと撫でると、擽ったかったのか頭をふるりと振る仕草が小動物っぽい。


「このまま昼寝してもいい?」
「寝心地、悪くないですか…?」
「全然。よく眠れそう」


適度に柔らかい感触と、ふわりと鼻腔を掠める名前ちゃんの香りが心地良い。過去に膝枕してもらったこともあったような気がするけれど、そんなのもう忘れてしまった。今は、これ以上の幸せなんてきっとないんじゃないかなって思うから。うとうと。少しずつ思考が停止していく。


「…おやすみなさい、徹先輩」


滅多に呼んでもらえない名前を呼んでくれた上に、俺の頭を撫でてくれる名前ちゃんの甘ったるい優しさに浸りながら、微睡む。起きたら名前ちゃんに、おはようって笑いかけてキスしちゃおう。恥ずかしがって顔を赤くさせる名前ちゃんの姿を想像しつつ、俺は幸せな午後の眠りについた。
陳腐なフェアリーテール

星子様より「付き合い始めた彼女に膝枕して貰おうと奮闘する話、彼女は年下のマネージャー設定」というリクエストでした。青城3年組が出しゃばりすぎたのは申し訳ないと思っています…笑。久々に甘ったるい及川夢を書くことができて楽しかったです!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.08.05


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