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恋愛ってのは難しい。最近、そんなことをつくづく思う。
先に言っておくが、俺は別に好きな女の子にどうやってアプローチしたら良いのか分からない…という恋愛初心者のピュアな高校生男子ってわけじゃない。今までそれなりに女の子と付き合ってきたし、告白をしたりされたり、一通りのことは経験済みだ。けれども今回ばかりは今までと状況が違う。
俺が密かに想いを寄せている名字は、最初、恋愛対象じゃなかった。ただのクラスメイトで、他の女子に比べて少し話しやすいなって思う程度。ノリも良いし馬鹿なこと言っても適当に受け流してくれる、一緒にいて楽なヤツ。そういう認識だった。
その認識が改められたのは、名字が1人で泣いているのを初めて見た時。いつもカラカラ笑っている名字が、声を押し殺して誰にも気付かれないように泣いているのを見て、かなりの衝撃を受けたのを覚えている。
その時、近付くべきではなかったのかもしれない。けれども、泣きじゃくる名字のことが気になってしまった俺は、大丈夫か?と、つい声をかけてしまったのだ。思えばこれが、恋の始まりってやつだったのだろう。
潤んで赤くなった瞳とか、泣いていたせいで上気した頬とか、とにかくその時の名字の姿を見て、コイツってこんなに可愛かったっけ、なんて思ってしまったのだ。その出来事を境に、俺は名字のことを意識するようになっていた。
名字の方はというと泣き顔を見られたことを随分気にしていたようで、暫くは俺のことをなんとなく避けていたようだったけれど、気にしていても仕方がないと開き直ったのか、ものの数日でそれまでと同じように軽口を叩き合える関係に戻った。俺としては避け続けられると正直辛かったので有り難い。


「木葉〜!どこ行くの?」
「ん?売店。なんで?」
「ちょうど良かった!ジュース買ってきて。喉乾いちゃった」
「パシリかよ」


俺のことをただの男友達としか思っていないであろう名字のこの態度に、俺は心の中で溜息を吐く。今までも、そして現在進行形でオトモダチである名字に今更恋愛感情を抱いてしまったなんて、俺は一体どうしたら良いのか。しかも名字は俺のことをこれっぽっちも男として意識していないであろうとことが分かり切っているだけに、俺は悶々とした気持ちを抱え込むことしかできない。
そんな俺の苦悩なんて知る由もない名字は、丸い目を俺に向けて屈託なく笑いながら小首を傾げ、お願い、と手を合わす。くっそ、コイツ。今までこんな可愛い仕草なんてしたことねぇだろ。


「そんなことしても可愛くねーから」


口から出たのは先ほどまで思っていたこととは正反対の言葉。可愛くない。女らしくない。俺が名字に言うことは、大体俺が思っていることと真逆の言葉ばかりだ。それもこれも、全ては照れ隠しってやつなのだけれど、これが日常と化してしまったのだから仕方がない。
いつもならここで、知ってますー!とか、うるさい!とか、とにかく何かしらの反応がある。けれども、今日はそれがなかった。どうしたのかと心配になり、無意識のうちに逸らしていた視線を名字に落とせば、その顔は今にも泣き出してしまうんじゃないかってほど酷く歪んでいて焦る。
どこかで見たことがあると思ったら、その表情は俺が名字を意識するきっかけとなったあの日と似ていて。ヤバい。こんな教室の真ん中で泣かれるのは困る。つーか、他のヤツにこの表情見せたくねぇ。
俺は急いで名字の手を引っ掴むと、昼休憩の喧騒に紛れて教室を足早に飛び出し、人気のないところを探して歩き回った。売店とか、もはやどうでもいい。そうして辿り着いたのは体育館裏。皮肉にも、名字があの日1人で泣いていた場所と同じ所を選んでしまった。


「木葉…腕……」
「あ、悪ぃ…」


小さな声で指摘され、俺は勢いで握っていた名字の細い腕をゆっくりと離す。いつもの元気はどこへやら。名字はすっかりしおらしくなってしまっていて、涙は出そうにないもののその表情は暗いままだ。


「ごめん…なんか私、おかしいよね」
「おかしいっつーか…俺、なんかした?」
「…ううん、木葉は何もしてないよ。何も…してない…」


言いながらまたもや潤んでいく双眸。何もしてねぇのに泣きそうになるわけないだろ。とは思ったものの、泣かせる理由に心当たりのない俺は、情けなくもオロオロと名字の様子を見守っていることしかできない。今まで泣きそうになってる女の子を慰める時ってどうしてたっけ?全然思い出せない。
俺が何もできずに内心で相当焦っているうちに、名字はごしごしと目元を擦っていて、どうやら復活したらしい。ホッとはしたけれど、一体何が原因だったのか。それが分からないままではすっきりしない。


「もう大丈夫。気遣わせてごめん。教室戻ろ」
「おい、待てよ。意味分かんねぇわ」


まるで俺から逃げるみたいにその場を立ち去ろうと背中を向けた名字の手を再び掴む。こうなった理由を聞かせてもらうまで離すつもりはない。俺のそんな意思が伝わったのか、名字は観念したように恐る恐る俺の方に向き直った。とは言っても、その顔は俯いたままなので表情は窺えない。


「なんで泣きそうになってたわけ?」
「……言いたくない」
「俺のせい?」
「………」


沈黙は肯定を表しているのだろうと勝手に解釈した俺は、先ほどまでのやり取りを脳内で再生してみる。けれども、何度巻き戻して再生してみてもいつものやり取りを繰り広げていただけで、名字が泣いてしまうような出来事は見つからない。まさか今更、俺の暴言に傷付いた、なんてことはないだろうし…ない、だろうし?そこでふと、引っかかる。
よくよく思い返してみれば、名字が泣きそうになったのは俺の発言の直後ではなかったか。俺は確か名字に、可愛くねー、とか言ったような気がする。まさかその発言に傷付いたとか…いやいや、あり得ない。常に売り言葉に買い言葉みたいなやり取りをしているのだから、こんなの日常茶飯事だ。けれど。それ以外、本当に理由が思い当たらないということは、もしかしたらもしかするのかもしれない。


「なぁ…もしかして、俺が可愛くねーとか言ったの気にしてんの?」
「…そんなの、気に…して、ない」
「いつも言ってんじゃん。今更じゃね?」
「……だから!気にしてないって…言ってるじゃんっ…」
「お前、わっかりやすいなぁ」


俯いていても名字が泣きそうな顔をしているのが手に取るように分かった。だって声が、少し震えているから。こういう無駄に強がってるところも、結構可愛いんだけどな。たまにはちゃんと、俺が思っていることを伝えるべきなのだろうか。伝えたらコイツは、どんな反応をするだろう。あと一歩が踏み出せなくて素直になれなかった俺だけれど、今なら言えるような気がして。名字、と。名前を呼んだ。


「俺、本気で可愛くねーと思ってるヤツと毎日会話できるほどデキた男じゃねーんだけど」
「どういう意味…?」
「遠回しに名字のこと可愛いって言ってやってんの」


お世辞にも素直な褒め方ができたとは言えないけれど、それでも名字には十分な効果があったらしい。地面を睨んでいた顔を弾かれたように上げて俺を見つめる瞳は、驚きと疑念と喜びと、色々な感情が混ざり合ってとても複雑な色をしていた。


「絶対うそじゃん…」
「嘘じゃねぇって。ホントホント」
「じゃあ、」


そこで言葉が途切れて瞳が揺らぐ。続く言葉を待っていると、名字の口からは、やっぱり何でもない、という煮え切らない言葉が飛び出してきた。名字の様子から察するに、どうやら俺には言いにくいことのようだけれど、言いかけて終わられることほど気持ち悪いことはない。言うまで離さねぇけど、と掴んだままだった手に僅か力を込めると、観念したのか、すうっと深呼吸をした名字。俺を見据えるその顔はいつもより女の色気を孕んでいるような気がして、不覚にもドキリとしてしまった。


「たまには、嘘じゃないことも言ってよ」
「…何それ。俺に可愛いって言ってほしいの?」
「言ってほしいよ。悪い?」


なかばヤケクソ気味に乱暴に投げつけられた言葉と赤く染まっていく顔。視線はふいっと逸らされてしまって、握っていた手も振り払われたかと思ったらそのまま走り去ろうとするものだから、慌てて名前を呼んで引き留めた。ニヤつく口元を隠すことはできなくて、俺はだらしない表情のままゆっくりと名字に近付く。なぁ、これって期待していいやつだよな?


「名字、俺のこと結構好きじゃね?」
「好きじゃない!」
「あっそ。俺は割と好きだけど」
「…うそつき!」
「ははっ、可愛い」


お互い素直になるにはもう少し時間がかかりそうだけれど。今はこの真っ赤な顔を拝めるだけで満足してしまったから、これからゆっくりと距離を縮めていこう。ガキみたいな照れ隠しから生まれた馬鹿げた嘘も、案外、恋愛成就の役に立つのかもしれない。
ダフト・ダウト

斎藤様より「高校生設定で両片想い、ケンカ友達のような関係」というリクエストでした。木葉ってこんなキャラですかね笑。両片想いの時期ってむず痒くて青春っぽくて良いですよね…。斎藤さんのピュアな夢には遠く及びませんが、書かせてもらえて楽しかったです!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.08.04


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