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私と太一は小学生の頃からの幼馴染みで、恋人という関係になる前から当たり前のように一緒にいた。太一がバレーに打ち込み始めて忙しくなってからも、付き合っているわけではないのに時間がある時には2人で出かけることが多かったし、中学生の時はその不思議な関係をよくからかわれたものだ。
高校に入学してから、私達はただの幼馴染みから恋人になった。それも、お互いになんとなく、付き合う?みたいなノリだったから、告白らしい告白はなく。付き合い方も、それまでとは何も変わらなかった。
そんなわけで、長い付き合いを続けているとデートでどこかに行こうなんて気が起きることはなくなっていて、珍しく太一の練習が休みとなった今日も、私は太一の部屋のベッドの上でごろりと寝そべりながら漫画を読んでいるわけである。ちなみに太一もベッドを背もたれにして漫画を読んでいるから同じようなものだ。


「太一、続き取って」
「それ1番新しいやつ」
「えー!気になるところで終わった…」
「買ったらまた読みに来れば良いじゃん」
「そうだけど…やることなくなっちゃった」


太一が買い揃えている漫画を読み終わってしまった私は、ばふっと枕に顔を埋めて太一の香りをさり気なく吸い込む。安心するなぁ、なんて思っていると、どさりと音がしてベッドが軋んだ。元々1人で寝るために設計されたシングルベッドに私と太一が並んで寝そべれば、そりゃあベッドが悲鳴をあげるのは当然だろう。私の隣でもぞもぞと体を動かしている太一は、どうやら布団に潜り込もうとしているようだ。


「寝るの?」
「んー、やることないし眠いし」
「じゃあ私、帰ろうかな」


太一が毎日練習を頑張っているのは知っているし、たまの休みの日に眠たくなってしまうのは仕方がないと思う。幸いにも、私は太一の家の近くに住んでいるから、その気になればいつだって会えるわけだし、たまの休みの日ぐらいゆっくり休んでもらおうという私なりの気遣いのつもりでベッドから降りようとしたのだけれど、私の腰に太一の手が回ってきたことにより、それは叶わなかった。


「だめ」
「え。なんで?寝るんでしょ?」
「うん。だから、だめ」


腰に回してきた手を断固として離す気がない太一は、強引に私を布団の中に引き摺り込む。平均以上の身長を持ち合わせている太一が寝ているシングルベッドの中はただでさえ狭いというのに、私が入ったら益々窮屈になるのは当たり前のこと。必然的に身体は密着してしまう。
ずるずると引き摺りこまれた結果、背後から抱き竦められるような格好で落ち着いてしまった私は、ベッドから出ることを諦めて太一のお昼寝に付き合うことにした。背中越しに伝わる太一の温もりが心地良いから帰りたくなくなったというのは、悔しいから言ってやらない。


「落ち着くわー」
「私は抱き枕ですか」
「まあそんな感じ。安眠グッズ的な?」


付き合って少ししてから気付いたことだけれど、太一は何かしらを抱いて寝ないと落ち着かないタイプらしい。初めて太一の家にお泊まりした時、寝ている私に擦り寄ってきたものだから、恥ずかしがるところを見るためにわざとそんなことをしているのかなと思ったのだけれど、その表情を窺うと完全に眠っている様子だったので、これは習慣的な動作なんだなという結論に辿り着いた。


「太一は意外と甘えたがりだよね」
「名前は意外と塩対応だよね」
「…そう?」
「うん」


太一が首元に顔を埋めてきて、柔らかい髪が私の肌を撫でる。それが擽ったくて僅かに身を捩ると、逃げられるとでも思ったのか、腰に回されていた腕の力が少し強くなった。塩対応と言われても、そんなに冷たく接しているつもりはない。けれど、確かにベタベタすることはほとんどないから、そう思われても仕方ないのかなと思ったりして。
たまには甘えてみるのも良いかもしれない、という気まぐれ心が働いた私は、狭い布団の中でもぞもぞと身体を動かして太一の方に向き直ると、ぴたりと身体を寄り添わせた。


「急にどうした?」
「んー?たまには甘えてみようかなって思って」
「可愛い」
「そういうこと言うのやめて。恥ずかしい」


思ったこと言っただけなんだけど、と零した太一は、そのままゆるりと私を抱き締めてくれた。いつも思うことだけれど、太一は私を甘やかすのが上手だ。自惚れかもしれないけれど、その甘ったるい部分は私にだけ見せているような気がする。
バレーの試合中の真剣な表情も好きだけれど、私は少し緩んだ空気の太一の方が好きかもしれない。それは、いつもと違う太一の側面を見ることができるのは私だけだという優越感からくるものだろうか。いつからこんな風に独占欲が強くなったのか、自分でも分からない。
太一は私を抱き締めたまま本格的に眠る態勢を整えていて、ちらりと見上げた先にあるその瞳はしっかりと閉じられている。睫毛長いなぁ。羨ましいなぁ。そんなことをぼんやりと考えながら見つめていると、突然、何の前触れもなく太一の目がパチリと開いて、視線がぶつかった。なんとなく気まずく感じた私は、それとなく視線を逸らしてみせる。


「なんで目逸らすの?」
「理由はないけど…見つめ合うのってなんとなく緊張するし…」
「今更そんなこと言うんだ?俺と名前の仲なのに」


明らかに私の反応を楽しんでいる様子の太一には、もう返事なんてしてやらない。目を逸らしたままだんまりを決め込む私に、太一は小さく笑いを零す。


「いつかこういうのが当たり前になるといいなって思わない?」
「こういうの?」
「こうやって一緒に布団入って、なんでもないことで笑って、いつのまにか寝てるみたいな。そういう地味な日常がさ、当たり前になるのってちょっと憧れる」
「あー…それは分かるかも」


いつかがいつなのか、そもそもそのいつかが今後訪れるのかどうかすら分からない。けれど太一の言った通り、何気ない毎日の中に当たり前のように太一がいる生活というのは憧れるかもしれない。


「あのさ、俺が言ったことの意味、分かってる?」
「ん?意味?」
「…これからも宜しくねってこと」


元々柔らかかった雰囲気が更にふわふわとしたものに変わって、それだけでも胸がきゅんとしたのに、極めつけに頭を撫でられて子どもを寝かしつける時のように背中をとんとんと叩かれれば、愛おしさが込み上げる。そしてそれと同時に、猛烈な睡魔に襲われた。


「こちらこそ…宜しくね」
「名前も眠たくなってきたんでしょ」
「んー…ちょっと」
「じゃあ一緒に寝よう」


寝ると言いだした太一に付き合って渋々布団の中に入ったのは誰だっただろうか。ぽかぽかと心地良い温かさに包まれてうとうとしてきた私の耳に、おやすみ、という眠りへ誘うための呪文のようなセリフが聞こえてきて、瞼が重たくなっていく。遠のく意識の中で記憶の最後に残されたのは、額に落とされた柔らかな感触だった。
夢の中、微睡みに溺れる魚

幸兎様より「川西と一緒にお昼寝、ほのぼのあったかいお話」というリクエストでした。お昼寝するまでのいちゃいちゃ甘ったるい空気感を出したくて頑張ってみたのですがいかがだったでしょうか…?川西は彼女を結構甘やかしてくれるけど自分も甘えそうだよなぁと勝手に妄想しながら書かせていただきました笑。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.07.06


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