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梅雨入りしてから、当たり前のように雨の日が増えた。すっきりしない天気が続く中、今日は久しぶりの晴天。家を出ると私の視界には眩しいほどの青空が広がっていて、思わず、うわぁと感嘆の声をあげてしまった。
なんとなくだけれど、今日は晴れるような気がしていたのだ。天気予報を見ていなくても、なんとなく。


「おはよう、日向君」
「あ!名字さん!おはよう!」


学校に着いて暫くすると、いつも朝のSHRが始まる直前に騒々しく教室に入って来る日向君。今日も例外ではなく、猛ダッシュで教室まで来たらしい。
けれどいつもと違うのは、日向君が教室に入って来るなり集まってくる沢山の人がいること。隣の席である私は、必然的にその人集りに紛れ込む形になってしまう。


「日向ー!誕生日おめでとう!」
「え!そっか!今日俺、誕生日!」
「忘れてたのかよ〜日向らしいな」


そう、今日は日向君の誕生日。だから沢山の人が日向君にお祝いの言葉やプレゼントを渡すために集まっているのだ。
日向君の誕生日は、密かに同じクラスの男子にきいたので私だって知っている。実は今日のためにプレゼントも用意してきた。けれど、みんなの前で渡す勇気はなくて、私は今、傍観を決め込んでいる。
日向君はその明るくて人当たりのいい性格から、男女関係なく友達が多い。だからこうして、沢山の人がお祝いしてくれるんだろう。
そんな日向君のことを特別な目で見るようになったのはつい最近のこと。友達に誘われて男子バレー部の練習試合を観に行った時、私とあまり変わらない身長で、縦横無尽にコート内を走って跳ぶ日向君の姿に釘付けになったのだ。
バレーが好きなんだということを全身で表現しているかのように。まるで今にも大空に飛び立ってしまうんじゃないかって感じさせるほどに。日向君は、キラキラして見えた。
勿論、日向君は私が観ていたことなんて知る由もない。だからこの胸の奥で燻る気持ちは、きっとこのまま淡く消えていくのだと思う。


「名字さんは?」
「へ?」
「だから、名字さんは俺に誕生日プレゼントくれないのかなーって!」
「え、あ、えっと…」


ぼうっと考え事をしているところで急に声をかけられたものだから、反応が鈍くなってしまった。日向君の席の周りにはまだ数人おり、なんとなく渡せる雰囲気ではない。


「ご、めん…、知らなくて、」
「…そっか!そうだよなー!ごめん!」
「私の方こそ…ごめんね」


それは何に対する謝罪だったのか。自分でもよく分からない。日向君の表情が一瞬だけ曇ったような気がしたけれど、すぐにいつもの調子に戻ったので気のせいだろう。
チャイムが鳴ってみんながガタガタと音を立てて席に着く中、私と日向君の間には見えない深い溝ができているような気がした。


◇ ◇ ◇



その日の放課後。私は帰り支度をしてこっそり体育館へ向かった。日向君は帰りのSHRが終わるやいなや教室を飛び出して行ってしまったので、また明日ね、と声をかけることすらできなかった。バレーが大好きな日向君らしくて微笑ましいけれど、今日はほんの少しだけでも時間をもらえたら良かったなぁ…と考えた結果、折角なので用意したプレゼントを渡せないかと思い体育館を目指しているのだ。
体育館に近付くと既にボールが床に叩き付けられる音が聞こえてくるから、練習が始まってしまったのかもしれない。ダメ元でそーっと中を覗いてみると練習自体は始まっていないようで、数人が自主練らしきものをしていた。その中には日向君の姿もある。
声をかけるには遠い距離だし、やっぱり諦めよう…そう思って立ち去ろうとしたところで、どうしたの?と声をかけられた。声の主は、眼鏡がよく似合う美人の先輩。マネージャーなのだろう、ジャージ姿でも見惚れてしまう。


「あ、いえ…な、なんでも…ない、です…」
「誰かに用事?…こっそり呼ぼうか?」


私のおどおどした態度を見て何かを察してくれたらしいその美人の先輩が、私には女神のように見えた。これもきっと、神様がくれたチャンスに違いない。そう思った私は、意を決して日向君を呼び出してほしいとお願いした。
美人の先輩はとてもナチュラルに日向君に声をかけてくれて、日向君は私の姿を捉えると元々大きな目をまん丸くさせてダッシュで駆け寄ってくる。あ、どうしよう。呼び出すことに必死すぎて、何を言おうか考えてなかった。


「名字さん!どうしたの!?俺、なんか忘れてた!?」
「違うの、あのね…誕生日、おめでとう」


単刀直入に、今日1番伝えたかった言葉を紡ぎながらプレゼントを渡すと、日向君はまたもやひどく驚いた顔をして私を見つめてきた。そんなに純粋な目で見てこないでほしい。すごく、ドキドキしてしまうから。


「じ、実は誕生日知ってて…サプライズ!そう、驚かせたくて!他に深い意味は…、」
「すっげー嬉しい!ありがとな!」


下手な取り繕いなど必要ないとでも言うかのように屈託のない笑みを浮かべられてしまえば、私はそれ以上、何も言えなかった。
やっぱり、好きだなあ。その笑顔も、バレーに向き合う真剣な眼差しも、私が日向君を好きだと自覚するには十分すぎる。


「俺、みんなにおめでとうって言われたのすっげー嬉しかったけど、名字さんに言われなかったの、結構ヘコんでた」
「え…、どうして…?」
「んー…なんでだろ。でも、」


日向君はそこで言葉を切ってから私の目を見つめると、今まで見た中で最高の笑顔を見せて、少し恥ずかしそうに


「名字さんのことは、特別だって思ってるから!」


それだけ言い残すと、体育館の中に入って行ってしまった。取り残された私は暫く呆然として、けれど少しずつ、日向君の言葉の意味を理解し始めた時には、顔がぼっと火を噴くように熱くなっていた。
日向君にとっての特別って、どういう存在?その言葉はどういう意味?私、ドキドキしっぱなしなんだけど、勝手に期待しちゃっても良いのかな?
いまだにバクバクとうるさい心臓のまま、遠目にコートを駆け回る日向君を見つめる。最初に心を奪われた時にも思ったことだけど、日向君はその名の通り、太陽みたいな人だね。澄んだ青空が広がる放課後。私はたったひとつの太陽を見つめ続けていた。
太陽に焦がされる

花菜様より「甘め、内容お任せ」というリクエストでした。日向の誕生日に更新ということで、勝手ながら誕生日ネタにさせていただきました。日向は初挑戦でとても難しかったですが、挑戦できて良かったです!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.06.21


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