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私と京治は小学生の頃からの付き合いで、所謂、幼馴染みだ。家が近いから親同士も仲が良く、家族同然のような間柄。けれど、中学生になると一緒にいるだけで周りから冷やかされるようになってしまい、なんとなく疎遠になった。私は密かに京治に想いを寄せていたから、その時は正直とても寂しかったけれど、京治はバレーで忙しそうだったし、どうせ一緒に過ごせる時間なんてほとんどないか、と諦めていたような気がする。
そんな私達の関係が大きく変わったのは高校入学初日のこと。何の因果があってか、私と京治は同じ高校に進学したのだけれど、京治はその入学初日に私の家にやって来て、話がある、と言ったのだ。会話することはおろか、2人で会うことすら久し振りだったので、私はガチガチに緊張しながら自分の部屋に招き入れたのを覚えている。
中学の時は色々言われたからああするしかなかったけど、高校ではもうあんな風にはなりたくない。だから俺と付き合ってほしい。
京治の言葉があまりにも予想外で。そして何より嬉しくて。私は京治に飛び付いてしまったんだっけ。
そんな甘酸っぱい記憶を思い出していた私の耳に、おわりー!という掛け声が聞こえた。いけない。部員達が練習に勤しんでいる間に、何を考えているんだ。私はぞろぞろと引き上げてくる部員達に、急いでタオルや飲み物を渡していく。
京治と付き合うことになってから、私はバレー部のマネージャーをすることにした。少しでも京治といたいという下心があったのも事実だけれど、それよりも、京治が一生懸命になれることを全力でサポートしたい。そう思ったからだ。


「はい、京治」
「ありがとう」


こちらに近付いてきた京治に、私はタオルを差し出した。そして汗を拭き終わった頃を見計らって、スポーツドリンクを渡す。これがお決まりの流れだ。


「相変わらず、名字は赤葦と息ぴったりだな」
「え?そうですか?」
「渡すタイミングとか。絶妙」


そう言ってきたのは、いまだに汗を拭っている木葉先輩だ。他の部員達にも同じようにしているつもりなのだけれど、どこが違うのだろうか。私にはよく分からない。
京治もきっと、私と同じことを考えているのだろう。表情はさほど変わらないけれど、どことなく不思議そうに木葉先輩へと視線を送っている。ちなみに私と京治が付き合っているということは部員達全員が知っているので、もしかしたら冷やかしのひとつなのかもしれない。
私は朝練を終えて部室に引き上げていく部員達を見送りながら体育館の片付けをして、マネージャーの先輩達と体育館を出た。すると、そこには着替えを終えた京治の姿。


「待っててくれたの?」
「そろそろ終わる頃かと思って。どうせ同じ教室なんだから一緒に行こう」
「うん」


私と京治は先輩達に軽くいじられつつも、2人で教室に向かった。これもまた奇遇なことに、私と京治は高校に入ってからの2年間ずっと同じクラスだ。教室に入ってそれぞれの席につくものの、つい最近の席替えで隣同士になってしまったから離れようもない。
今日の授業はグループワークがあり、模造紙に各グループでテーマごとに調べた内容をまとめていくという作業があった。高校生にもなってまだこんなことしなきゃいけないのか…と思いつつも下書きを任されてしまった私は白い模造紙にシャーペンを走らせる。
あ、間違えた。そう思って手を止めた直後、私の隣からすっと伸びてきた手が消しゴムを差し出してくれる。


「ありがと」
「ちなみにそこだけじゃなくてこっちも間違えてるから直して」
「え?わ、ほんとだ」


何気ないことだけれど、京治は私のことをよく見てくれていて、痒いところに手が届く対応をしてくれる。だからとても居心地がいい。
黙々と作業を進めていき、私はいよいよ清書に取り掛かった。カラフルな油性マジックは皆が使っていることもあって机のあちらこちらに散らばっている。


「それ取って」
「はい。これもいるよね」
「ありがと」


私の欲しいものをすぐに取ってくれる京治は気が効くなぁといつも思う。すると、その光景を見ていたらしいグループメンバーの1人が、朝もきいたようなセリフを零した。


「なんか2人ってほんと、以心伝心って感じで羨ましい」
「うん?そう?」


首を傾げる私をよそに、その子は、そうだよーと笑っていて、他のメンバーまで同調し始めた。理想のカップルって感じ!さり気なくラブラブなの憧れるー!こういう夫婦になれたら良いなーって思うよねー!
当事者達を差し置いて、勝手に盛り上がっていく話。私は今更ながらに恥ずかしくなってきた。こちらとしてはラブラブとか、そんな雰囲気を醸し出しているつもりはないし、ましてや夫婦だなんて…考えたこともなかった。
意識し始めてしまうとおかしなもので、それまでなんとも思っていなかった京治との距離が異様に近いような気がして、不自然に離れてしまう。しかし、そんな私の行動までお見通しだったのだろうか。京治はさり気なく、離れた分の距離を縮めて近付いてくるのだから敵わない。


「手、止まってるけど」
「え…、あ、ごめん…、」


京治はきっと、何も意識していないし気にも止めていないのだろう。黙々と作業に取り組んでいて、それに安心している反面、少し残念なような、寂しいような、とても複雑な心境だ。
そんななんとも言えない感情を抱いたまま授業は終わってしまって、寄せあわせていた席をガタガタと音を立てながら直していると、名前、と名前を呼ばれた。その声は振り向かなくても分かる京治のもので、私は席を整えてから次の授業の準備をしつつ、何?と声だけで反応する。


「こっち、見て」
「…だから、な…に、」


珍しくほんの少し強い口調で言われたので振り向けば、思っていたよりも至近距離に京治の顔があって驚いてしまう。驚いたと同時に無駄にどくどくと脈打ち始める心臓は、一体何を意味しているのか。


「また、あの頃に戻るつもり?」
「え、」
「言っとくけど俺は何言われても平気だから今まで通り名前を離すつもりないよ」


あの頃、とは。きっと中学時代のことを指しているのだろう。子どもすぎるがゆえに、冷やかされるのが嫌で距離を置いてしまったあの頃。高校に入ると同時に京治が告白してくれたのは、何のためだったのか。そして私は、今更何を恥ずかしがる必要があるのか。


「…私も、離れるつもりないもん」
「そう言うと思ってた」


するり。流れるような動作で、一瞬にして私の頬を滑った京治の手。すぐに離れていく体温が少し名残惜しかったけれど、それを察したかのように頭をポンポンと撫でられれば、頬が緩んでしまう。
以心伝心。もしそうだったら良いなとは思うけれど、残念ながらそれは違うと思う。ただ私の気持ちだけは京治に見透かされているみたいだから。私もいつか、京治の心を読み取れるようになりたいなって思うんだ。
感情フラタクル

梨々果様より「幼馴染で付き合いが長い2人がナチュラルにイチャつく甘めなお話」というリクエストでした。甘さ…足りませんかね…?そしてイチャつき方が分かりませんでしたごめんなさい…!なんだかんだで最後のシーンとかもクラス公認で見守られてたら良いなって思いながら書きました。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.06.05


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