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女の子にカッコいいと思われたいと望むのは男として当然じゃないだろうか。少なくとも俺は、カッコいいと思われたい。特に、好きな女の子には。
俺はよく、単純だと言われる。難しいことを考えるのは苦手だし、そもそも考えるって行為が苦手だから、間違ってはいないのだろう。それは恋愛においても例外ではなく、俺は単純なことに、一目惚れからしか女の子を好きになったことがない。つまり、第一印象のみでしか女の子のことを好きになったことがないのだ。
俺が、好きな子ができた!と言うと、部員達は口を揃えて、知ってる(知ってます)と返事をしてくるのだから、俺は相当分かりやすいのかもしれない。


「名字!」
「あ、木兎先輩。どうしたんですかー?」
「別に!用はない!」
「相変わらず元気ですねー」


俺の目の前でくすくす笑っている名字こそ、俺の好きな女の子だ。しかも名字は、今までと違って一目惚れではなく、その性格を加味した上で好きになった唯一の女の子でもある。
ひとつ年下にあたる名字は、マネージャーとしてうちのバレー部にやってきた。その時は別に好きじゃなかったのだけれど、接しやすい雰囲気とか、ふわふわ笑う姿とか、とにかくよく分からないうちに好きになっていたようで。つい最近赤葦に、木兎さんは名字が好きなんですよね?と確認された時には目から鱗だった。
名字のことが好きなのだと自覚してしまえば俺のすることは決まっていて、名字にどうにかして自分のことを意識してもらおうと、日々奮闘するに至っている。
練習の時にストレートのコースにバシバシ打ち込んでみたり、逆にクロスの際どいコースを狙ってみたり、これが決まったら絶対にカッコいい!って思われるであろうところに打ち込むのだけれど、名字が見ていると思うとなぜかいつも決まらない。


「木兎さん…力みすぎです」
「あかーし…俺…ダメだ……」
「名字のこと、意識しすぎじゃないですか?」
「意識せずに打つのってどうすりゃ良いの?」
「………はぁ…」


自分でも、意識しすぎているということは分かっている。だからこそ助けを求めたというのに、仮にも後輩である赤葦は呆れたように溜息を吐くと、もういいです、と元の位置に戻ってしまった。なんと薄情な奴なのだろう。
ヤケクソになって練習に励んではみたものの、その後の練習でも結果は散々。他の部員達にも、エースの名が泣くな、なんて嫌味を言われる始末だ。あー…カッコ悪い。
最近の練習ときたらいつもこんな調子だというのに、明日は練習試合がある。俺が例えこの調子のままだとしても他の部員達が上手くやってくれるだろうという信頼はあるものの、いつまでもこのままではいけない。さてどうしたものか。
考えるということが何より苦手な俺が、ない頭を捻って打開策を探ってみても、勿論いいアイディアは浮かばない。俺が肩を落として体育館を出ようとした時だった。木兎先輩!と。背後から聞き慣れた声に名前を呼ばれて立ち止まる。


「ごめんなさい、疲れてるところを呼び止めてしまって…」
「ぜんっぜん疲れてねーし!何?俺に何か用?」
「いえ…あの、用ってほどではないんですけど…」


俺を呼び止めた張本人である名字は、何やらもごもごと口籠っている。自分から声をかけてきたくせに、一体どうしたのだろう。そういえば名字の方から声をかけてきてくれたのはほぼ初めてに近くて、妙に胸が高鳴ってしまう。
何?と。問い詰めるつもりはなかったけれど、つい、後に続く言葉が気になって先を促してしまった。


「最近の木兎さん、あんまり調子良くなさそうだから…何かあったのかなって…ちょっと気になっただけなんです…」
「え」
「お節介でごめんなさい」


謝られたけれど、別に謝られるようなことを言われたとは思わない。むしろ、俺が調子悪いってことに気付いてくれてたという事実が、嬉しかった。いや、たぶん調子悪いわけじゃねーんだけど!
どう反応するのが正解なのか、俺には分からなくて。いや、とか、別に、とか、しどろもどろに言葉を零す。らしくない上に、今の俺、すげーカッコ悪いような気がする。


「調子悪いわけじゃねーし…」
「え!そうなんですか…!?ごめんなさい!私、勝手に勘違いしちゃって…!」


またもや謝り倒してくる名字を見て言葉選びをミスったということに気付いたけれど、今更もう遅い。しかも謝るだけ謝った名字は、そのまま言い逃げしようと俺に背を向けるものだから、慌ててその手を掴んだ。
この後どうしようとか何も考えず咄嗟に取ってしまった行動に、自分でも驚く。引き止めて、それで、どうすりゃ良いんだっけ?


「あの…木兎、先輩…?」
「あー…えーっと…調子悪いわけじゃねーんだけど、名字がいると調子悪いっつーか…」
「…そんなに…目障りでしたか…?」


なんでこうも伝えたいことがうまく伝わらないのか。今度は落ち込み始めた名字を前に、俺はアタフタすることしかできない。
そうじゃねーんだって!意識すると力んじまうだけで目障りとか思ったことねーし!つーか名字がいねーと本気で調子悪くなる気がする!…って、言えば良いのか?
いまだに落ち込んだ様子で俺に背を向けたままの名字の手をぎゅっと握る。すると、恐る恐る、少し怯えたような目で俺を見上げてきた名字に、頭が急に冷えていくのが分かった。
そもそもカッコ良く見せる、なんて、俺には無理な話だったのだ。好きな子にこんな顔させて、俺は何してんだ。そりゃあ好きな子にはカッコ良いって思われたい。けれど、そんなことよりもまず、笑っていてほしい。


「ごめんな。俺、馬鹿だからうまく言えねーんだけど」
「…はい」
「名字にカッコ良いとこ見せてーなって思ったら上手くいかなくて、それで最近全然決まらねーんだよな」
「…へ?」
「俺、名字のことが好きだわ」


言ってしまえば簡単なこと。思っていたよりもすんなりと出てきた言葉に自分でも拍子抜けだ。
名字は、目を大きく見開いた後で数回パチパチと瞬きをして。やがて、えっ、え!と、え、を連呼し始めた。まあ突然のことだったし気持ちは分からなくもない。言った俺でさえ自分の発言に驚いているわけだし、ぶっちゃけ勢いで口を滑らせてしまったと言っても過言ではないのだから。
本当ならこんな形で言いたくはなかった。告白するならもっとカッコ良く、キメキメで言うつもりだったのに。上手くいかねーな。


「あの、木兎先輩…私…」
「いや!いい!分かってる!俺、カッコ良いとこ全然見せてねーし!」
「木兎先輩は…いつもカッコ良いですよ?」
「………は?」


上手く決まって得意げに笑いながら赤葦君とハイタッチしてるところとか、決められなくて悔しがりながら次どうしたらいいだろうって真剣に考えてるところとか、キラキラした目でボールを追いかけてるところとか。全部、カッコ良いなって思って見てます。
名字の口から飛び出してくるのは思いも寄らない言葉の羅列。けれど照れながらはにかむ名字が嘘を吐いているようには見えなくて、思わず口元が緩んでしまった。


「…それ、マジ?」
「まじです」
「良かったー!カッコ悪いって思われてねーのか、俺!明日からすっげー頑張れるわ!」


ありがとなー!なんて言いながら衝動に駆られるまま握っていた手を引き寄せて抱き締めるような形で名字の背中をポンポンと叩く。離れた時に見た名字の顔は真っ赤で、あれ?と首を傾げる。


「どうした?」
「……木兎先輩は、心臓に悪いです!」


そう言い残して走り去ってしまった名字の後ろ姿を呆然と眺める。これってやっぱフラれたってこと…だよな?
カッコ良いって思われていても恋愛ってやつは上手くいかないらしい。じゃあ俺は、これからどうやってアプローチすりゃいいんだ!
アイドリー・アイドリー

よしの様より「後輩と木兎さん、付き合ってない設定、木兎さんがカッコつけようとして空回るお話」というリクエストでした。空回るってこんな感じで合ってますか…?木兎さんはがむしゃらに気持ちをぶつけてきて勝手に勘違いしていたら可愛いかなと思ってこのような展開にしてみました!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.06.01


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