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俺には2つ年上の彼女がいる。出会ったのはバレーの試合会場。俺がスタンド席にタオルを忘れてしまったのを拾ってくれたのが名前だった。それだけなら別に恋なんて始まらないのだけれど、まあぶっちゃけた話、俺は名前に一目惚れしてしまったわけで。その場で割と強引に連絡先の交換をしたのだった。その時の俺は試合会場に来ている名前がまさか年上だなんて思わなくて、後々大学生だと知った時には驚いたものだ。
名前には俺と同い年の弟がいてバレー部に所属しているらしく、その日は応援に来ていたらしい。名前もよく知らない高校だからすぐに負けてしまったらしいが、そんな偶然で出会えたなんてまさに運命じゃないか、なんて浮かれてしまったのは秘密だ。
名前は良くも悪くもお人好しで押しに弱い。だから初対面の俺がぐいぐい攻めた時も、あからさまに戸惑いはされたものの拒絶できるほどのパワーはないようだった。それが功を奏したのか、俺がそれから攻めに攻めた結果、名前は見事、俺の彼女になってくれたというわけだ。
こう言うと、なんだか俺が一方的に好きなだけで無理矢理名前と付き合っているんじゃないかと思われるかもしれないが、そんなことは決してない。と、思う。その証拠に名前は、俺がバレーで忙しくてもこまめに連絡をしてくれるし、休みの日は可愛らしくも、会えそう?なんてきいてくる。
俺は名前と出会うまで年上と付き合うってことをあまりイメージしていなかったけれど、付き合ってみれば別にどうってことはない。ただ、俺に年上の彼女がいるなんてことがバレたら五月蝿い奴らが(主に五月蝿いのは1人だと思うが)いるので、学校ではなんとなく俺に彼女がいるって話はしていなかった。
今日は土曜日。練習試合で他校に行った帰り道、いつものメンバーでダラダラと歩く。ラーメン食ってくかー、と言い出したのはどうやら腹を空かせまくっているらしい岩泉。俺としては少しでも早く家に帰って名前に連絡を取りたいというのが正直なところだ。


「マッキーも行くでしょ?」
「あー…どうすっかな」
「最近花巻、なんとなく付き合い悪くない?」


妙に鋭い松川の問い掛けに、俺は、そんなことねーよ、と適当に返す。行きたいやつだけで行けば良いじゃねぇか、と尤もらしいことを言ってくれる岩泉には、感謝しかない。
とりあえず3人と別れてから名前に連絡を入れてみよう。まだ日も沈みきっていない時間帯だから、都合さえ良ければ会えるかもしれない。そう思ってスマホをポケットから取り出した時だった。タイミングよく名前の方から連絡が来て、メッセージを開く。


“貴大君、今日はうちの大学の近くで練習試合だったよね?近くまで来てるんだけど会えないかな?”


思ってもみない提案に、俺は心の中でガッツポーズをした。すぐさま、もう終わったから会える、と返事をした俺は、3人に別れを告げて名前の大学の方を目指す。
今どこ?え?駅の方向かってんの?すれ違うじゃん。
そんなやり取りをすること数分。なぜか突然名前からの返事が途絶えてしまって嫌な予感がした俺は、足早に来た道を引き返していた。そして、まさかの事態に頭を抱える。
名前は、あろうことか先ほど別れを告げたばかりの3人に囲まれていて、おどおどしていたのだ。一体、何がどうなったらこんな偶然が巻き起こるのか。放置しておくわけにもいかず、俺は渋々3人と名前の方に近付く。


「何やってんだよお前ら…」
「あれ?マッキーじゃん。ラーメンやっぱり食べたくなった?」
「いや、そういう話をしてんじゃなくて。こんなところでナンパかよ」
「クソ及川がぶつかったから謝ってたんだよ」


何かぶつかったお詫びしようかー?なんてヘラヘラと名前に話しかけている及川にイライラしてしまう俺。名前の性格上、強く拒絶できないことは分かっているけれど、俺の方にチラチラ視線を向けているところを見ると、どうすべきか困り果てて助けを求めているようだ。


「及川、絡むのやめろって」
「…マッキーがそんなこと言ってくるなんて珍しいね?」
「いつもなら止めるのは岩泉の役目だもんな」
「別に好きでコイツの面倒見てるわけじゃねぇ」


眉間に皺を寄せて心底迷惑そうな顔をしている岩泉と、何やら勘付いた様子でしたり顔を浮かべている及川と松川。しかも及川は、勘付いた上で尚も名前に話しかけているからタチが悪い。つーか、性格が悪い。


「高校生?」
「え?あ…いえ……大学生です…」
「じゃあオネーサンか!もしかしてこの近くの大学の?」
「ええ…まあ…」


なぜ及川が名前の個人情報を聞き出しているのか分からないが、素直に答える名前もどうかと思う。もう少し危機感ってものを持ってほしい。


「あ!引き止めちゃったけど、もしかして急いでました?」
「え?あ…でも…たぶん大丈夫…だと…」
「大丈夫じゃねぇだろ」


俺の発言を聞いて、4人の双眸が一気にこちらへ向けられた。何が大丈夫なんだ。俺が来ていなかったら今頃名前は、この無駄に見た目だけ完璧な及川に絡まれて右往左往することになっていたに違いない。及川も及川だ。ぶつかった程度のことで見ず知らずの女を引き止めて絡むなんて、見境いなさすぎるだろ。
明らかに怒気を含んだ俺の口調に1番驚いているのは名前で。少し怯えられているような気もするけれど、そんなことを気にしている余裕なんて俺にはなかった。及川に名前を取られてしまうんじゃないかって。一瞬でもそんなことを考えてしまったから。


「こいつは、俺のだから」


及川の目の前で呆然と立ち尽くしている名前の腕を引っ張って俺の方に引き寄せると、3人が揃いも揃って目をまん丸くさせているのが滑稽だ。岩泉はともかくとして、及川と松川は察しがついていたはずなのだが。もしかして俺がこんな行動に出ると思っていなくてびっくりしているのだろうか。
引き寄せられた名前はと言うと、いいの?と心配そうな表情で俺を見上げてくる。付き合っていることなんてどうせいずれはバレることだっただろうし、いい機会だったと思えばいい。ただ、色々と根掘り葉掘りきかれるのがうざくなるだけだ。


「まあそんな気はしてたけど…年上…ふーん…」
「悪いかよ」
「いや?いいと思う。ちょっと意外だっただけ。そんなことより及川、ちゃんと謝っとけよー」


松川に促されて、ごめーん!と軽い調子で謝ってくる及川の顔はちっとも反省していなくてムカつくばかりだ。ぶつかったのは本当に偶然のようだが、駆け付けた俺の態度を見てもしかして、と思ったらしい及川は、わざと名前にちょっかいを出して俺の出方を窺っていたらしい。どんだけ性格捻くれてんだよ、及川。


「おい、話終わったなら行くぞ」
「え?待ってよ岩ちゃん!マッキーと彼女さんのこともう少し聞きたくない?」
「お前がそうやって絡むのがうぜぇから花巻は付き合ってること黙ってたんじゃねぇのか?このボゲェ!」
「いった!ちょっと!今の結構本気だったよね!?」


俺の気持ちを代弁してくれただけでなく正義の鉄槌をくだしてくれた岩泉の漢気溢れる言動には、拍手せざるをえない。もつべきものは良識のある腕っ節が強い友達だ。及川は岩泉に引き摺られるようにして駅の方へ向かっていく。
そんな後姿を見送っていると、ぽん、と肩を叩かれて。お幸せに。そんな意味深な一言と含みのある笑みを残して、松川も2人の後を追って行った。まったく、あいつは本当に食えないやつだよなあ。
やっと2人きりになれて嬉しいのだけれど、謎の疲労感に襲われている俺はこの後どうしようかなんて考えられない。すると、くいくい、と。隣に立っていた名前が俺のシャツの裾を引っ張りながら、貴大君?と小首を傾げてきた。いや、その動作は相当クるからこんなところでするなよ。年上のくせに、名前はこういうところでさりげなく可愛いからやってられない。


「どした?」
「この後、どうするか決まってないよね…?」
「あー…ごめん」
「だったら、あのね、」


もごもごと口籠りながら俯く名前。何をそんなに恥ずかしがっているのかと不思議に思いながら静かに続きの言葉を待っていると。


「うち、この近くだから…遊びに来ないかなと…思って…」


なるほど。恥ずかしがっていた理由が漸く分かった。名前が大学の近くで一人暮らしをしていることは知っていたし、いつか行けたらいいなとは思っていた。けれど、まさか名前の方から誘ってくれるなんて思いもしなかった俺は、緩む口許が隠しきれない。なんでそんな可愛いこと、顔赤くさせながら言っちゃうかなあ。


「それ、どういう意味か分かってる?」
「え!私はただ、貴大君、お腹すいてるんじゃないかなって思ったからご飯作ってあげたいなって考えてただけで…」
「ああ、うん。だと思った。ありがとう」
「…それだけじゃ、ダメかな…」
「いや。十分」


さりげなく名前の手に自分のそれを絡ませて、駅とは逆の方向に歩きだす。2人で買物をして、名前の部屋に行って、名前の手料理を食べて。これほど嬉しいことなんてきっとない。まああわよくば、なんて下心があるのは男なら仕方のないことだから多めに見てほしい。
明日、部活で何か冷やかされたら笑いながら言ってやろう。俺の彼女、可愛かっただろー?って。絡めた手を握りなおして、俺は1人、そんなことを考えるのだった。
君がいないと空っぽの宝箱

にこ様より「年上彼女、及川にちょっかいを出されていたのを見つけて及川に怒ると同時に年上の彼女がいることがバレる」というリクエストでした。ちょっかいを出されるというより絡まれていたという感じになってしまい申し訳ありません。青城3年組は友情出演です笑。花巻を書くのは久し振りだったのですが、彼女溺愛な花巻を書くのは楽しいなって改めて思いました!この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.05.18


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