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初恋は実らへん。誰かがそんなことをほざいとった。結論、それは当たっとるとも間違っとるとも言えへん。なんでか?そら、俺の初恋は実らへんかったけど、双子の兄弟である治の初恋は実っとるからや。
双子いうんは厄介で、性格は違うても好みや趣味は嫌でも似てまう。せやから俺らは図らずも同じバレー部に所属しとるわけやし、バレー以外の色んなモンで好みが似通っとるのは昔からやからもう慣れた。で、好きなモンが同じいうことは好きな女の子のタイプも同じいうことで。つまり俺らは、同じ子を好きになった。
俺の初恋が実らんで治の初恋が実ったいうことは…どういうことか、分かるやろ?治は俺の気持ちに気付いとる。気付いてないんは、治の彼女である名前だけ。ほんま、こっちの気も知らんでのうのうと幸せそうに笑う名前を、俺は1番近くで見るしかないんやから皮肉なもんや。
先に名前に目ぇつけて、好きやなって思ったんは間違いなく俺やった。でも、そこから何をどうやってそうなったか知らんけど、いつの間にか治は名前の彼氏いうポジションにおって。付き合い始めたいうんを聞いた時には、言葉を失った。


「侑ー!治は?」
「知らへんよ。何?デートなん?」
「ふふーん。正解!ええやろー?」


やば。自滅。今更名前が治とデートに行くぐらいでいちいち傷付くほど、俺はヤワやない。…はず、やったんやけどなぁ。屈託なく笑う名前の顔を見ると心臓が抉られたみたいな感覚に陥るんはいつものことやから気付かんフリ。
今日は部活がオフやから、なんとなく2人でどっか行くんやろなあとは思っとった。わざわざ俺に聞いてこぉへんでもええやろ。スマホで治に連絡取りぃや。心の中でそないな悪態吐いてみたけど、それを口に出すことはせぇへんかった。


「名前はホンマ、治が好きやなぁ」
「そら付き合ってんねやもん。当たり前やん」
「当たり前、か」


見るからに幸せオーラ全開の名前に、苛々を通り越して虚しさを覚えるんは仕方ないことやと思う。なんで、俺やなくて治なんや。沸々と湧き上がってくる醜い感情に、笑いが溢れる。
いつから俺はこない女々しなったんやろなあ。人のものなんかすぐ奪えるはずやったのに。1人の女に執着するなんてあり得へんと思うとったのに。なんでよりにも寄って、名前なんやろ。


「なぁ、名前」
「ん?何?」
「なんで治なん?」


口を割って出た言葉に、名前は固まっとる。きくつもりなんかなかった。前々から抱いとった疑問やけど、そんなんきいたところで名前を困らせるだけなんは分かりきっとったし。一生、きいたりせん。そう決めとったはずやのに。
くだらん嫉妬に駆られて、俺はいつの間にか自分の意思に反した発言をしとった。こうなったら、突っ込んでもうた方がええんちゃうかな?開き直った俺は、いまだに固まっとる名前に質問を投げかけた。


「俺と治。同じ見た目やんな?何が違うん?」
「そんなん…性格…とか……、」
「ふぅーん?違いが分かるほど名前は俺のこと知っとるつもりなん?」


ほんの少し怯えたような瞳を向けてくる名前との距離をゆっくり詰める俺。このまま強引に奪い取ったら、治はどないな顔するやろ。名前は俺のこと、これから先どない思うやろなあ。
知りたい。けど、知りたない。じわりじわりと縮まる距離に、名前が益々怯えとるんが分かって。もう少しでその手を掴めるいうところで、俺の肩が強い力で引きとめられた。あーあ。ええとこやったのに。


「侑、その辺にしときや」
「…そない怒らんでも、冗談やろ」


治はいつから見とったんか、絶妙なタイミングで俺に待ったをかけた。俺が何をしよう思てたんか、治はたぶん分かっとる。けど、何も追求してこずに名前にそっと近付くあたり、ほんまムカつくけどええ男やなあと思わざるを得んかった。そら俺やなくて治を選ぶわな。


「侑、あの、さっきの…答え……」
「冗談やって言うたやろ。怖がらせたなら謝るわ」


何に対する答えかは知らへんけど、これ以上自滅するんは嫌やし。これからデートに行く2人を邪魔するんも野暮やし。
結局のところ、本気で奪う気がない…いうより、奪える気がせぇへんのは、相手が他でもない治やからで。これがもし治やなくて他のどこの馬の骨とも分からん奴やったら、容赦なく奪い取ったるのに。


「私は治が好きやけど、侑のことも嫌いやないよ?」
「……治がおる前でそないなこと言ったら、浮気疑われるんちゃう?」
「別に気にせぇへんよ。分かっとることやから」


お互いの信頼をまざまざと見せつけられたみたいでほんま腹立つ。しかも名前は俺の気持ちを知らへんばっかりに残酷なこと言うもんやから、更に苛々が募った。
名前は俺のことを嫌いやない言うた。ほな、好きなん?いつか治に飽きたら俺のこと選んでくれるん?…アホか。そんなん、考えたって無駄やろ。
俺の目の前で今からどこに行こうかと話し始めた2人を見て、また虚しさに襲われる。悔しいけど、治とおる時の名前はほんまに幸せそうで。俺にはあんな表情させられへんって分かってるなら、諦めざるを得んのかもしれへんけど。生憎俺は往生際が悪いねん。


「まあ2人で楽しんで来ぃや」


何事もなかったかのようにその場を去る時、治にしか聞こえへん声量で一言。油断しとったらいつでも奪いに行ったるからな。できるだけドスの効いた声で言うたつもりやけど、治には効果がないことぐらい重々承知や。
名前は渡さへんで、と返された言葉には珍しく感情がこもっとって、名前に本気なんやないうことがありありと分かった。


治なら仕方ない。何度もそう言い聞かせてきたけどな。俺はやっぱり名前のことが諦められへんから。いつかこのくだらん感情がなくなる日まで、勝手に想うぐらいは堪忍したってな?
透明の矢印

らら様より「侑と治の三角関係、侑視点、ヒロインのことが好きだったけど治に取られてしまう、治だから仕方ないかと思いつつ諦めきれない侑の切ないお話」というリクエストでした。まず口調…本当に似非すぎてごめんなさい。侑も治もこんなキャラじゃないって言われても仕方ないですが、精一杯愛情込めて書き上げました!侑の失恋、書いていて新鮮でした。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.05.15


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