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※大学生設定


大学に入ったら何か興味のあるサークルに入って、空き時間に暇潰しがてらバイトして、飲みなんかも頻繁に参加したりして、とにかく悔いのないように全力で楽しもう。そんなことを思っていた時期が私にもあった。けれど、それはもう随分と前のことだ。
今年度で大学3年生になる私は、信じられない量のレポートに追われていた。元々、要領が良い方ではない。頭もそんなによくないし、手の抜き方みたいなものもわからなくて。ただ出された課題に真剣に向き合っていたら、いつの間にか締め切り間際のレポートが溜まっていたのだ。私とほとんど同じ授業を受講しているにもかかわらず、なぜか友達は既にレポートを書き終えているらしいから解せない。
私はパソコンに向き合うことに疲れてしまって、机に突っ伏した。レポートも大変だというのに、私には1週間後に控えた発表用のプレゼン資料を作るという難関も残されている。なんでこんなことになってしまったんだろう。夢のキャンパスライフは、こんな筈じゃなかったのに。


「何サボってんの」
「…英ぁ……」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないじゃん…」
「どうせ、少しでいいから手伝って、だろ」


ずばり言い当てられてしまった私はぐうの音も出ない。机に突っ伏したままの私を呆れたように見下ろしてくるのは、一応私の彼氏である英だ。
英とは同じ大学に通っているが学科が異なる。だから私とは違って、レポートに追われたりプレゼン資料の作成に切羽詰まったりはしていない。というか、たとえ同じ状況に置かれていても、英はきっと今の私のように追い詰められたりはしないだろう。
英はやる気がなさそうに見えてやることはきちんとやっているし、なんだかんだでバレー部に入って放課後も楽しんでいるようだからデキる人間なのだと思う。全く、羨ましい限りだ。


「…いつまでそうしてんの?手動かさないと終わるわけないじゃん」
「分かってるよー…ちょっと休憩してただけだもん……」


これ以上サボっていたら英にまたネチネチと小言を言われそうな気しかしない。私は重たい身体を起こして、再びパソコンの画面に向かい合った。が、集中力が途切れてしまったのか、キーボードを打つ手はほとんど動かない。
はあ、と。背後から大袈裟に溜息を吐かれて振り向けば、英が私のことを蔑むような瞳で見つめていた。なんなんだ。これでも必死だし、せっかく英がうちに来てくれているのだから、私だってこんなことせずに英とゆっくり過ごしたい。溜息を吐きたいのはこっちの方だと言うのに。


「英…今日は帰って良いよ…」
「なんで?」
「なんでって…私、レポートもプレゼン資料も作らなきゃいけないから英がいてもつまんないと思うし…」
「そっちが会いたいって言ってきたんじゃないの?」


いや、そうなんだけど。英の顔を見たら頑張れるんじゃないかなって思ったからダメ元でお願いしてみたんだけど。まさか面倒臭がり屋の英が本当に来てくれるなんて思わなかったのだ。


「ごめん…まさか本当に来てくれると思ってなかったから…」
「名前は俺のこと何だと思ってんの?」
「一応…彼氏?」
「一応じゃないだろ」


列記とした彼氏だっつーの。
不機嫌そうにそう言った英は私の手を取ったかと思うと、強引に椅子から引き摺り下ろしてラグマットの上に座らせた。すぐ隣に英も腰を下ろして、訪れる謎の沈黙。


「あの…英?」
「どうせ集中力途切れてたんだし、少しぐらい休めば?」
「でも…そんな暇ないし…」
「集中せずにやる方が時間の無駄。今は休め」


渋る私の頭を、胡座をかいた自分の足の上に押し付けて寝かせようとしてくる英は、なんだかいつもと様子が違うような気がする。これって所謂、膝枕みたいなものだよね?こんなの初めてのことで、どうリアクションしたら良いか分からない。
私は目を見開いたまま天井を見つめるばかりで、冷静に現状を理解すると休むどころではなくなってしまった。英はポンポンと私の頭を撫でながら片手でスマホを操作していたけれど、ふと、私の方に視線を向けてから驚いたように目を見開く。


「寝てないじゃん」
「こんな状態で寝れないよ!」
「疲れてるんだろ。寝れば良いのに」
「…もしかして、気遣ってくれてる?」


半信半疑だった。最近、本当に大学のもろもろに追われすぎていてまともに英と過ごせていなかったし、元々そこまで連絡を取り合うようなタイプじゃなかったけれど、ここ数日はおやすみの一言さえ寝落ちして送れていなかったから、英なりに何かを悟ってくれたのかもしれない。
全て自分のせいなのだ。プレゼン資料なんて誰が作っても良いのに面倒なことを押し付けられてしまったのも、レポートが捗らないのも、全部私のせいだってことは分かっている。だから、気遣ってもらうのもおかしな話だというのに。
英はスマホを置いてから私の眉間に指を当てると、皺寄ってる、と指摘してきた。


「気遣ってるわけじゃない。名前が無理してることぐらいすぐ分かるから、ちょっと休ませてやろうと思っただけ」
「それを気遣ってるって言うんだけどね」
「…あ、そ。じゃあ気遣いついでに、」
「え…っ」


ちゅ、と触れた唇。キスなんて、2人きりの時にもあんまりしたことがないかもしれない。イチャイチャするような付き合い方はしていなかったしするつもりもなかったから、そういう雰囲気じゃない時に不意打ちでされたのは勿論初めてだ。


「癒されるって言ってなかった?」
「え…、」
「キス。前にそんなこと言ってたじゃん」
「そうだっけ…いや、嬉しいけど、なんていうか…英がそんなことしてくるの新鮮すぎて…」
「これからはもう少し攻めた方が良い?」


するりするりと私の髪を梳く英の手は心地良くて優しいのに、口から出てきた言葉はなんだか物騒だ。でも、どうせなら。こんな機会これから先あるかどうかも分からないのだから、ちょっぴり甘えてしまっても良いだろうか。
私はおもむろに上体を起こすと、英の真正面に移動して正座をした。怪訝そうな英の表情はあまり見ないようにして。


「ぎゅって、してほしいな…なーんちゃって…」


ふっと笑う気配と、何それ、という呟き。そして、ふわりと抱き寄せられたのは英の胸の中。痛くはない。けれど、比較的強めの力で抱き締められていて、それまでの疲れなんてどこかに吹っ飛んでいくような気さえした。


「キスよりこっちの方が好き?」
「んー…どっちも好きだけど、ぎゅってしてもらう方が落ち着くかなあ」
「じゃあどっちもしとく」


抱き締められたまま、顔だけ上向かされて奪われた唇に熱がこもる。先ほどより少し長めのそれに、体温が上昇していく。


「英…私、今から頑張るからさ、」
「うん」
「終わったら、一緒に夜ご飯食べよ」
「いいよ。何食べたい?」
「お任せで!」
「はいはい…じゃあ頑張って」


もう1度ぎゅっと抱き締められた後で頬にキスをひとつ。立ち上がった英は私の頭を数回撫でてから台所へ消えて行った。
いつもは気まぐれな猫みたいで、酷いことも平気で言ってくるし、私のこと本当に好きなの?って思うこともあるけれど。こうして弱った私を甘やかしてくれる英は、最高の彼氏だと思うのだ。
さて。英が夜ご飯を作ってくれている間に、私はレポートを終わらせてしまおう。パソコンに向き合った私の手は、軽快にキーボードを叩き始めた。
アンダンテに刻む午後

はのん様より「大学生国見、大学が忙しく疲れきったヒロインを思い切り甘やかす」というリクエストでした。国見が思い切り甘やかす想像ができなくて糖度低めかもしれませんが…国見がご飯作ってくれるのって私の中ではすごいことなんですよ…笑!物足りなかったら申し訳ありません。この度は素敵なリクエストありがとうございました!
2017.05.14


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