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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -

ホワイトデーの事情

及川徹の場合

「はい、どうぞ」
「何ですかこれ…」
「バレンタインのお返し」
「私があげたの、せいぜい2000円ぐらいだったような…」
「そういうデリカシーのないこと言わないでよ」
「いや、だからこんな、見るからに高そうな某有名店の限定品みたいな物はもらえないってことが言いたくてですね」
「そんなに高くなかったし、値段は関係ないよ。俺が名前にあげたいと思って選んだんだから…受け取ってもらわないと困る」
「じゃあ…ありがたくいただきます…」
「うん。それとね、もう1つプレゼントがあって」
「まだあるんですか?」
「じゃじゃーん!温泉旅行ペアチケット!」
「えぇ…温泉……」
「なんで!?そこはめちゃくちゃ喜ぶところじゃない!?」
「私、苦手なんですよね…温泉…いくら女同士でも他人に裸を見られるのはちょっと…」
「この部屋、なんと客室露天風呂付きでーす!」
「え!すごい!それなら行きたい!」
「でしょ?誰にも邪魔されず一緒にお風呂入れるなんて最高!」
「はい?」
「ん?」
「及川さんとは入りませんよ」
「え!?」
「いやいや、当たり前でしょう…さっき他人に裸を見られるのは嫌だって言ったばっかりじゃないですか」
「名前の裸なんてもう何回も見てるじゃん」
「そういうデリカシーのないこと言わないでください」
「それさっき俺が言ったやつだし…事実だし…」
「そんなに落ち込むことですか」
「落ち込むよ…これだけのために最近ずっと仕事頑張ってきたのに…」
「……はぁ…もう…分かりましたよ。折角用意してくれたんだし、今回だけですからね」

彼女とイチャイチャしたくて堪らないのであの手この手を使ってとても必死な及川さんと、それを突っ撥ねたいのにしょんぼり及川さんに弱くて最終的に折れちゃう彼女。ホワイトデーはもはや旅行のための口実に使っただけだけどそれなりのものを用意する辺り及川徹は抜け目ない。


岩泉一の場合

「ん、これ」
「えっ…急にどうしたの…?」
「駅前の店のバームクーヘン、食いたいって言ってたろ」
「それはそうだけど…こんなの買ってくるようなタイプじゃないでしょ」
「まあ…その…アレだ、安売りしてたから」
「今日ホワイトデーだしね」
「おう」
「知ってて買ってきてくれたんだ?」
「……まあな」
「付き合ってる頃は1度もこんなお返ししてくれたことなかったのに」
「そういうのよく分かんねぇんだよ」
「はじめがこの手のことに疎いのは知ってるよ」
「悪かったな」
「そうじゃなくて。成長したんだなあと思って」
「俺はガキじゃねぇ」
「どうして今年はちゃんとお返ししてくれたの?」
「結婚したからってイベントごとを疎かにしてたら痛い目に遭うって脅された」
「誰に?」
「職場のバツ1の同僚」
「ふふ、そんなの気にするんだ?」
「名前に愛想尽かされたら俺が困るからな」
「…そういうこと恥ずかしげもなく言うのやめて……」
「本当のことだろ」
「分かった、ありがとう。一緒にバームクーヘン食べよ!」
「顔赤ぇぞ」
「もう!いつの間にそんな恋愛上級者みたいになったの!」
「成長したんだよ」

結婚してから更にスパダリ度が増す岩ちゃん。奥さん溺愛。ホワイトデーのお返しを渡すのはちょっと恥ずかしくて言葉を濁すくせに、奥さんへの愛はさらりと惜しげもなく垂れ流す。照れる奥さんを見てニヤリと笑いながらいじる余裕まであるなんて大人岩泉一恐るべし。


花巻貴大の場合

「ねぇねぇ、私に何か渡すものない?」
「は?ないけど」
「うそでしょ」
「いやマジで」
「信じられない…バレンタインデーにちゃんとチョコあげたのに…」
「あ。今日ホワイトデーか」
「本気で忘れてたの?」
「ごめんごめん」
「…ちょっと真剣に今後のこと考えるわ」
「うそうそ!冗談だって!ちゃんとあります!」
「最初から素直にそう言えばいいのに」
「つーかさ、こういうのは男から渡されるまで黙って待っとくもんなんじゃないですかね」
「朝からずっと待ってたもん。さっさと渡してくれない貴大が悪い」
「へいへい、すみませんね」
「え、何これ!シュークリームじゃん」
「そ。詰め合わせ」
「自分も一緒に食べようとしてない?」
「バレた?」
「バレバレなんですけど」
「いーじゃん。名前だって俺にくれたチョコ半分ぐらい食ってたし」
「う…それはそうだけど…」
「コンビニで飲み物買ってから俺んちで食べる?」
「うん!食べる!」
「ついでにそのまま泊まってっても良いけど」
「うーん…明日仕事だけど…泊まってほしい?」
「そりゃあまあ…ね」
「素直でよろしい」

なんだかんだで仲良しだしちゃんと相思相愛。基本的に彼女に主導権がありそうなカップルだけど、上手に彼女の要望に応えてあげつつ自分の思い通りに事を進めちゃえる系男子なマッキー。実はそこまで深く考えてないけど結果的に良い方向に転がっていることが多いラッキーボーイ。


松川一静の場合

「ごめん、遅くなった」
「全然大丈夫です。おかえりなさい」
「こんな時間に家に押しかけるつもりじゃなかったんだけど…意外と手間取っちゃって」
「珍しいですね、松川さんが手間取るなんて」
「予約してたんだけどね。お客さん多くてさ」
「え、うそ、これって…」
「そうそう、テレビでやってたやつ。美味しいって評判のケーキ屋さんのホワイトデー限定品」
「私が食べたいって言ったから…?」
「まあそれもあるけど俺も食べたかったし」
「そうなんですか」
「これがホワイトデーのお返しってことで」
「え!私の方が得しちゃってて申し訳ないんですけど…」
「そんなことないって。名前ちゃんが作ってくれたバレンタインデーのブラウニー、美味しかったよ」
「でもやっぱりプロの味には敵わないじゃないですか」
「味の問題じゃなくてさ、気持ちの問題で」
「はあ…なるほど…」
「あ、あとこれもあげる」
「え?わ!可愛い!イヤリングですか?」
「このケーキ屋さんと提携してる雑貨屋さんで取り扱ってる商品なんだって」
「へぇ…松川さんってオシャレのセンスもあるんですね…」
「そう?名前ちゃんに似合いそうだなと思って買っただけなんだけど」
「ありがとうございます。大切に使いますね」
「今つけてみてよ」
「今ですか?」
「俺が似合ってるかどうか見てあげる」

この後イヤリングを手に取って彼女につけてあげる松川一静ほんとに色気を抑えてほしい。彼女が至近距離でドキドキしてることには勿論気付いている上で、可愛い、なんて笑顔で言っちゃう。プレゼントがセンスの塊だし彼女を幸せにする天才。そういうところだぞ松川一静。

バレンタインデーをすっ飛ばしてホワイトデーネタを書いてみました。どのカップルも幸せそうで良いなとほのぼのした気持ちで書きましたが、いつも思うのは松川一静お前本当に完璧かよということですよね…いや私が勝手にそういう方向に持って行っているだけなんですけど…笑。