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アンバランスがちょうどいい


※大学生設定


白布君は、あの有名な白鳥沢学園に一般入試で合格したツワモノらしい。しかも成績上位をキープしながら全国区の強豪であるバレー部のレギュラーとして活躍していたというのもきいた。見た目もどこか上品で整った顔立ちをしているから、隠れファンもいるらしい。つまり白布君は、私と比べたら月とスッポン。いや、もはや比べることすらおこがましいぐらい雲の上の存在の人である。
なぜ私がそんな人のことについて語っているのかというと、とある講義で、あろうことかその白布君とペアを組んで資料作成をしなければならなくなったからだ。
成績は良く言っても中の下。その他、特別な取柄もなければ特技もない、見た目だって中の中。そんな私が白布君と2人で資料作成など、どんな苦行だろうか。ああ、でも、私よりも白布君の方が辛い思いをすることになるかもしれない。
そんなわけで、このミッションをクリアしなければ私も白布君も単位を落としてしまうかもしれないということで、色々な思いはあれど、お互いの空きコマに自習室に集まり資料作成をすることになった。自習室にはちらほら人がいるから2人きりというわけではないけれど、隣に白布君がいるというのは非常に緊張する。


「で、これを表にしてまとめたら良いと思うんだけど」
「表?…どうやって?」
「はあ?最近授業で習ったばっかりじゃん」
「そうだっけ?あはは…」
「…ねぇ、やる気ある?」
「やる気だけはあるよ!」
「ほんとにやる気だけ、って感じだね」


ぐうの音も出ないとはまさにこのことである。ほら見ろ。だから私と白布君じゃあ不釣り合いだって言ったじゃないか。独り言で、だけど。
まとめ方も、資料の内容に関しても、結局ほとんど全てを白布君がソツなく決めてくれたおかげで、私は与えられたことを漏れなくするだけで良くなった。有難いけれど、果たして私にできるかどうかは不明だ。でも、やるしかない。やらないと白布君の冷ややかな視線に攻撃されてしまう。
私は与えられた期日までに言われたことをこなすために必死に頑張った。もはや先生よりも白布君の方が怖いレベルにまで達しているので、これは強迫観念でこなしているといっても過言ではない。そうして迎えた2回目の集合日。


「……あのさ」
「分かってますごめんなさいこれでも頑張ったんです許してください」
「できてないことは分かってるんだ?」
「はい…」


努力の甲斐も虚しく、私は撃沈した。だってこの講義、元々難しいし苦手なんだもん。パソコンというか機械音痴の私が、試行錯誤しながらも表を作ってきただけ褒めてほしい。
ちなみに白布君が作ってきた資料はと言うと、私のなんとも言えないごちゃっとした資料とは雲泥の差。性格が表れているというか、とてもきっちり綺麗にまとめられていて非常に読みやすい。まさにお手本。


「ごめんね…私なんかとペアになったばっかりに…ちゃんと作り直してくるから…」
「何回作り直してもやり方が分かんないと同じ結果になるだろ」
「……友達とかに頼んできいてみる」
「今から。時間ある?」
「え?あ、うん…あるけど…」
「じゃあパソコン立ち上げて」


自習室にはパソコンがあって、白布君はそれを指差しながら私に言う。もしかして、白布君が直々に作り方のアドバイスをしてくれるのだろうか。だとしたら申し訳なさすぎる。


「次こそはもう少しマシなの作るから!大丈夫!」
「この資料作成も成績に響くんだから適当なの作られたら困る。時間勿体ないから早くして」
「あ、はい」


正論すぎて言い返す気力もなかった。私は言われた通り、パソコンを立ち上げる。そうして、空きコマの時間を全て費やして白布君から直々のレクチャーをみっちり受けた私は、恐らく人生の中で1番賢くなっただろう。
口調は少しキツめだけれど、物覚えの悪い私に根気強く、的確に、分かりやすく教えてくれた白布君は、私よりも疲れている様子だった。いや、本当に申し訳ない。


「白布君ありがとう。これなら1人で作り直せる気がする!」
「これで作り直せなかった方がおかしいから」
「…そうですね」


作り直す資料のクオリティに対するハードルが一気に上がったような気がする。今度こそ白布君に軽蔑の眼差しを向けられないように頑張らなければ。
よく分からないプレッシャーに押し潰されそうになりながら迎えた3回目の集合日。私の作り直してきた資料を見た白布君は、はあ、と大きく息を吐いた。今回は割と、いや、私にしてはかなり上出来だと思ったんだけど。白布君レベルになるとこれでもダメなのか。何も言われないことが怖くて、より一層落ち込んでしまう。


「名字はさ」
「はい…」
「俺のこと怖いの?」
「は?急になんで…?」
「この1週間、名字が空きコマに鬼の形相で自習室にこもってパソコンに向き合ってたって知り合いからきいたんだけど。これ作るためでしょ?」
「まあ…そうだけど…鬼の形相……」
「俺に怒られるのが怖いから必死だった?」


確かに最初はそうだった。白布君の足手纏いになったらいけないし、ちゃんとできなかったら怒られるだろうし、とにかくビクビクしていたことは否定しない。
けれども、この1週間の必死さは強迫観念に駆られて、というよりは、白布君に少しでも認めてもらいたくて、という方が正しいだろう。教えて良かったと、少しでも思ってもらいたい。それもまた本心だった。
それに、貴重な自由時間を割いてまで私なんかに色々教えてくれた白布君は、なんだかんだ言って優しいのかな、なんて勝手に思っていた。だから不思議と、怖いとは思わなくなっていたような気がする。
私はお世辞にも自分の気持ちを上手に伝えられるようなタイプではないので全てを伝えきれたかは不明だけれど、大体そういったことをありのまま白布君に伝えた。するとどうだろう。白布君が、ふっと笑った。初めて見たその表情に、驚きと、キュンという胸の高鳴りを覚える。白布君も、こんな風に柔らかい表情を見せることってあるんだ。


「変な奴」
「私のこと?」
「名字以外いないだろ」
「そんなに変なこと言った?」
「…これ」
「わ、」
「前よりマシになったけど俺が教えたこと完璧にはできてない」


私の作ってきた資料でぺしっと頭を叩きながら言う白布君の声音に、怒気は含まれていない。と思う。つまり怒られてはいないということ?


「仕方ないからまた作り直し。はい、パソコン立ち上げて」
「え…でも、前にも教えてもらったし、今度こそ1人でやるよ?」
「俺が教えてあげるって言ってんのに断る必要ある?」
「……ないでーす…」


私は前回同様にパソコンを立ち上げる。ただ前回と違うのは、気不味い感じがなくなって、白布君が少しだけ、ほんの少しだけ楽しそうなこと。いや、私の勘違いかもしれないけれど。
相変わらず容赦なく駄目出しをされるし、口調はキツいまま。でも、不思議と怖くはない。これが白布君なんだって分かったからだろうか。そういえば2人でいても緊張しなくなっている。


「じゃあ次で完成させよう」
「分かった」
「ああ、それから…この資料が完成して提出し終わったら、飯行くから」
「え…?」
「名字の奢りで」
「えっ」
「色々教えてあげたお礼、してもらってないし」
「…そうだね……」
「ちゃんと資料ができてたら割り勘にしてあげても良いけど」


言いたいことだけ言って、じゃあね、と言い残して去って行った白布君。バイトをしているとは言えお財布事情が厳しい私は、こうなったら割り勘を目指して頑張ろうと意気込んで取り組んだのだけれど。
後日、無事に資料を完成させて提出し終えてから約束通りにやって来たお店で、名字って馬鹿だよね、という辛辣な言葉を投げかけられながらもなぜか奢ってもらった私がその言葉の真意を知るのは、まだまだ先のこと。ついでに、自分の気持ちに気付くのにも相当時間がかかった。だって、まさか、って思うじゃん。
でも、まあ。確かに、私は白布君の言う通り馬鹿でした。色んな意味で。