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バレー選手宮侑×一般人彼女


※社会人設定


私は昔から文系だった。そのせいなのかは分からないけれど、スポーツ関係のことには元々興味がない。それでも必死にテレビにかじりついてバレーボールの試合を観戦しているのは、自分の彼氏がそこで頑張っているからだ。
私の彼氏である宮侑は、バレーボールの全日本代表に選ばれた有名人。侑が昔からずっとバレーボールに打ち込んでいることは知っていたので、全日本の代表入りが決定した時には一緒になって喜んだ。
練習量は増えたし、2人で過ごせる時間は減ってしまった。それが原因で喧嘩もした。けれども、なんだかんだ言って喧嘩のたびに仲直りをして元のサヤにおさまるのだから、私達の関係は上手くいっているのだと思う。
試合の終盤、侑の指が丁寧にふわりと上げたボール。その直後、敵のコートに突き刺さるスパイク。一際大きな歓声が上がって、日本が勝利をおさめたことが分かった。私はすぐさま侑におめでとうのメッセージを送る。返事はたぶん来ないと思うけれど、いつものことだ。
中継が終わって、テレビを消す。ヒーローインタビューで取り上げられていた侑は汗を拭いながら愛想よく笑顔を振り撒いていて、そのたびに黄色い声が聞こえていた。まあ高校時代だって同じようなものだったか、と過去のことをぼんやり思い出す。
私は侑と高校生の時からの付き合いだ。彼氏彼女という関係になったのは私が大学に進学して以降のことになるのだけれど、高校時代のことはよく覚えている。色んな女の子を取っ替え引っ替えしているとか、遊び人だとか、噂は様々だった。ああいう人は、将来有名になって綺麗な女優さんとかアナウンサーと結婚したりするんだろうなあ、と考えていたあの頃。まさかその宮侑と付き合う未来が待っていようとは夢にも思わなかったのだけれど。


「次、いつ会えるかなぁ…」


ぽつり。呟いた時だった。スマホが震え出して、びくりとしてしまう。震え続けているところをみると着信のようで慌てて画面を確認すると、なんとも珍しいことにそこには宮侑の文字が。まるで私の呟きが聞こえていたみたい、などと思いながら頬を緩めつつ通話ボタンを押す。


「もしもし?」
「あ。やっと出た。遅いんちゃう?」
「ごめん、びっくりして。試合終わったばっかやないん?」
「そうなんやけど、なんや声聞きたなって」
「…めずらし」
「そこは、嬉しい〜!私もそう思ってた〜!とか言うとこやん」


久し振りにきいた侑の声は相変わらず明るい。それにしても、声が聞きたくなった、なんて今まで言われたことなどなかったと思う。どういう心境の変化だろうか。私は嬉しいを通り越して、逆に不信感を抱き始めていた。


「侑、何かあったん?」
「試合に勝った」
「それは見とった。けど、勝っても今日みたいに連絡くれることないやろ?」
「そういう気分やってん」
「ふーん…」


納得はできなかったけれど、電話越しに押し問答をしても意味はない。私は適当に相槌をうって暫く話をしてから電話を切った。それほど特別なことは話していなかったし、本当にただの気まぐれだったのだろうか。結局、侑の真意は分からぬまま、私はいつも通りにお風呂に入り眠りにつくことしかできなかった。


◇ ◇ ◇



それから1ヶ月ほどが経過した土曜日の夜。またもや何の前触れもなく私の家にやって来た侑はやけに真剣な顔で、話あんねん、と言ってのけた。あの日から侑とはそれほど連絡を取り合っていなかったし、変わったこともなかったと思う。しいて言うなら、試合での勝利数を増やしたぐらいだろうか。
私達のプライベートには関係のなさそうな変化しか思いつかず、さて何の話だろうかと身構えつつも、押し入ってきた侑を追い帰すことはできなくて。逆に、2人きりになれて嬉しいとすら思っていた。
ご飯食べたの?お茶でいい?私の問い掛けに対して全て、今はええ、の一言で返事をした侑は、台所に立つ私のところへやって来る。そのただならぬ空気に、私は思わず生唾を飲み込んだ。え?何?怖いんですけど。


「浮気してへん?」
「……はぁ?」
「はぁ?やあらへんわ!」
「いや…急に突拍子もないこと言うから…」
「せやったらなんで返事せぇへんねん」


侑が言っているのは、メッセージの返事のことだろう。仕事が忙しくて、最近はまともにスマホを構っている時間がなかった。家に帰ってきたら寝てしまっていることが多く、遅い時間に返事するのもなぁ…と考えた結果、返事をスルーすることが続いていたのは事実だけれど。
そんなの、気にするタイプじゃないと思っていた。挨拶程度のやり取りだし、侑の方から話を終わらせることが多かったし、いっそメッセージなんて送らない方が良いのかなとすら思っていたのに。そんなことで押しかけて来られるとは予想外だ。
私はここ最近のことを正直に話した。信じてもらえるかどうかは分からないけれど、それが事実なのだから仕方がない。話を静かにきいていた侑は、やがて、なんやねんそれ…と呟くと、私の身体にしな垂れかかってきた。
私より随分と大きく逞しい身体をした男は、正直とても重い。けれども、拗ねたように私の首元に擦り寄ってくる様はなんだか少し可愛くて、私は子どもをあやすように金髪頭を撫でる。


「女の子にモテモテの侑でも、私みたいな女に振り回されることがあるんやね」
「…お前やなかったらこんな必死になっとらんわ」
「へ?」
「何年付き合うとると思うてんねん。それぐらい気付けアホ」


だって侑は有名人で、スターで、女の子達に大人気で、私なんかじゃ釣り合わないって心のどこかで思っていた。付き合いが長いと別れを切り出しにくいのかなあ、なんて考えることもよくあったし、もはや浮気されていたとしても、やっぱりね、と納得してしまえるような気さえしていた。
けれども意外なことに、どうやら侑はなかなか私にご執心だったらしい。よく話を聞けば、先日急に電話してきたのも、長い付き合いだからって高を括っとったら浮気されるで、と先輩に冗談半分で言われたからだということが判明した。なんだそりゃ。ほんと、子どもみたい。
何年付き合うとると思うてんねん、はこっちのセリフだ。私を見くびってもらっては困る。今まで散々モテモテな侑の彼女として不安を抱えながらここまで付き合い続けてきたのだ。私の方から愛想を尽かすなら、とっくの昔に別れている。


「アホはどっちやねん。私のこと信じとらん侑の方がアホや」
「……せやなぁ」
「なんなん。素直すぎて気持ち悪いわ」
「はぁ?なんでここで甘い雰囲気にならへんねん!仲直りのちゅーぐらいしてもええやろ!」
「それこそ、はぁ?やわ」


台所で抱き合っていたかと思えば、ちっとも恋人らしい空気にはならず。けれどもそれが私達らしいと思うのは私だけだろうか。でもまあ、たまには。素直に私を思い続けてくれている彼氏さんに、ご褒美をあげても良いのかもしれない。
まだ何やら文句を言っている侑の頬に触れるだけの口付けを落として、これでどう?と言わんばかりに笑ってみせる。けれども数秒後、そういえばコイツは体力底なしの恐ろしい男なんだと気付いて青ざめた。不敵な笑みと、がっちり腰に回っている腕がこれからの展開を物語る。


「明日オフやし。泊まるつもりで来とったし。ちょうどええわ。仲直りしよか」
「今したやん」
「俺な、腹へっとんねん」
「なんか作るわ」
「待てへんなぁ」


私の顎をくいっと持ち上げた侑に唇を奪われて、いただきます、と囁かれれば、私は逃げ場を失った。結局のところ、私はこの男のことが好きでたまらないのだ。