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愛色の秘密


※大学生設定


「松川達のとこって、熟年夫婦みたいだよな」
「ん?あー…それ、何回も言われたことある」


唐突に言われた台詞に、俺は特に驚いた様子もなく答えた。
俺には大学生になって彼女ができた。男女問わず気さくに話しかける明るい彼女には友達が多い。俺も最初は友人の1人だったのだが、飲みや色々な集まりで接する機会が増えるうちに仲良くなり、気付いたら付き合い始めていた。彼女は付き合い始めてからも友人だった頃と変わらず、明るくて裏表がなくて、一緒にいて落ち着く存在だった。
もともと落ち着いた雰囲気の彼女と老け顔(自覚しているところが悲しい)の俺。周りから見ると、俺達は随分と落ち着いたカップルに見えるらしく、冒頭のような発言をされるのはよくあることだ。


「名字さんって、2人でいる時も俺達といる時と変わんねーの?」
「あー…まあ、そうだな」
「へー。じゃあ、甘い雰囲気になったりしねーんだ?」
「何それ。甘い雰囲気ってどんなの?」
「こう…なんていうかな、イチャイチャラブラブ的な?」


男友達の発言をきいてもピンとこなかった。ていうかコイツ、学食でそんな発言して恥ずかしくねーのかな。
俺は彼女と2人でいる時のことを思い出す。そりゃあ付き合ってるんだから、ハグもキスも、それ以上のこともした。だからと言っていつもベタベタすることなんてないし、自分で言うのもなんだけど、淡泊な付き合い方をしていると思う。
俺は今の付き合い方が嫌いじゃない。けれど、彼女の方はどうなんだろう。
そんなことを考えていたからだろうか、背後から彼女に声をかけられた。


「やっほー。一静、お昼食べたー?」
「食べた。名前は?」
「食べたー。あ、ねーねー。午後からのコマ、休講になってたよね?予定なかったら付き合ってほしいんだけど」
「ああ、いいよ」


俺は男友達に断りを入れ、彼女と食堂を後にした。
付き合ってほしいと言われたけれど、どこへ行くのだろうか。そういえば肝心な用件をきいていなかった。


「名前、どこ行ってんの?」
「んー?私んち」
「なんか用事あったっけ?」
「ううん。何も」
「へ?」


彼女の発言に思わず間抜けな声が出てしまったけれど、それは仕方のないことだ。何の用事もなく、なんの予定もなく家に招かれるなんて、初めてのことかもしれない。驚くなという方が無理な話だ。
彼女の様子は、俺が見る限りいつもと変わらない。


「用事ないと、一静と一緒にいちゃいけないの?」
「いや…そういうわけじゃないけど……なんかあった?」
「んー、何かあったわけじゃないよ。ただ、」


そこで言葉が途切れる。不思議に思い隣を歩く名前の顔を見ると、なんだか少し照れたような表情。
どうした?そうきこうと口を開きかけたところで、手を握られた。今日はどうも、彼女の様子がおかしい。デートの時ですら手を繋がないくせに、何がどうなってるんだ。


「私だって、イチャイチャラブラブしたいときもあるんですー」
「は?………名前、学食での話きいてた?」


黙るのは肯定と同じである。
なるほど。俺と男友達の会話をきいて、たまには甘ったるい雰囲気にでも浸ってみようと思って頑張ってたわけね。そういうところが可愛いって、気付いてないんだろうな。
自分の口元が緩むのが分かった。あー、やばいな。思ったよりクる。いつもはサバサバした名前が照れながら手を握ってきた時点で、結構キてたけど。


「名前、今日泊まっていい?」
「え?いいけど…明日、1限あるんじゃなかったっけ?」
「あるけど、まあ最悪サボる」
「どうしたの?珍しいね」
「あれ?てっきり今日はイチャイチャラブラブするんだとばかり思ってたんだけど?」
「なっ……!何言ってんの!」


自分から言いだしたくせに顔を真っ赤にさせて照れまくる名前からは、いつものあっけらかんとした雰囲気など微塵も感じられない。こんな表情を知っているのは俺だけなのだと思うと、妙な優越感に浸る。
友達よ。俺達は熟年夫婦じゃなくて、ただのラブラブカップルでした。そんなこと、教えてやんないけど。