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烏養と年の差カップル


大人になるってどういうことなんだろう。歳を取るだけで大人になれると言うのなら、私はあと数年早く生まれていたかったと心底思う。
大学生と社会人。確かにそれだけ聞くと子どもと大人という響きがあるかもしれないけれど、大学生は立派な大人だと思うのだ。大学1年生の私はつい最近まで高校生だったから、法的には未成年という括りに縛られてしまう。けれど、結婚だってできる年齢なのだから大人と見做してほしいと思ってしまうのは仕方がない。


「なんでダメなんですか」
「あのなぁ…お前はまだ未成年だろ。両親に言ったのか?」
「友達の家に泊まるって言うもん」
「だーめーだ!」


坂ノ下商店のレジ前で、私と烏養さんはかれこれ数分間、このやり取りを繰り返している。というのも今週の土日、烏養さんが東京遠征に行くと言うので私も付いて行くと言ったら、間髪入れずに反対されたので猛抗議をしているのだ。
これでも私と烏養さんは恋人という関係だから、2人でお泊まり旅行をしたって何らおかしくはない。けれども、一緒に旅行に行ったことは愚か、お互いの家にお泊まりをしたことすらないのは、烏養さんが頑なにそれを拒否しているからだった。
何かにつけて烏養さんは、未成年、という部分を強調してくる。たかが1歳、されど1歳。来年私が成人を迎えれば反対されないのか?とも思うけれど、恐らく烏養さんのことだから、学生なんだから…とかなんとか難癖つけて、結局大学を卒業するまでこのままのような気がする。


「烏養さんは…私と一緒にいるのが嫌なんですか…」
「は?誰もそんなこと言ってねぇだろうが」
「じゃあ私が子どもだからお泊まりしちゃダメなんですか?それとも学生だからですか?来年20歳になってから大学を辞めて働き始めたら大人だって認めてくれますか?」
「おい…落ち着けって…」


私のあまりの剣幕に気圧されたのか、烏養さんは咥えていた煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、おもむろにお店のシャッターを閉めに行った。ガラガラと音を立てて完全にシャッターが閉まったところで、私は背後から思い切って烏養さんの腰元に抱き着く。


「な…!おい!」
「私は…、烏養さんが好きだから、できるだけ長く一緒にいたいって思ってます。こういうところがガキだってことは分かってるんですけど、でも、」
「分かった!分かったから……」


私の言葉を遮った烏養さんはしがみ付く私をやんわり引き剥がして身体を反転させたと思ったら、私に向き直って珍しくも抱き締めてくれた。ぎこちない動きではあったけれど、密着しているというだけで鼓動がはやくなる。
烏養さんは私を落ち着けるためだろうか。私の身体に回している手で、トントンと背中を撫でてくれて。これでははまるで子ども扱いされているようだと思ってしまう。


「ああいう言い方をしたのは悪かったと思ってる。けどな…別に子ども扱いしてるわけじゃねぇんだ」
「でも…烏養さん、全然手を出してこないから、私に大人の魅力がないのかなって…」
「あのなぁ…はぁ…こっちの身にもなってくれ…」


見上げた烏養さんの顔はとても困っていて、何かしてしまっただろうかという気持ちになってくる。烏養さん?と。少し様子がおかしいので試しに声をかけてみると、交わる視線がいつものそれとは違った。顎をとられて上向かされ、ちょっと乱暴に唇を奪っていく烏養さんは、余裕がなさそうだ。


「こっちは色々考えて先に進もうとしてんのに…何も知らねぇで勝手なこと言いやがって」
「色々って?」
「………ちゃんと考えてんだよ、真剣に。だから、今はこれで我慢してくれ…な?」


眉尻をさげてそんな風にお願いしてくるのはズルすぎる。私が逆らう余地なんてどこにもないじゃないか。


「付いていくのは我慢しますけど、せめて今度、お泊まりしたいです…」
「……その前に、挨拶しに行く」


挨拶?と首を傾げた私だったけれど、それが私の両親への挨拶だということに気付くと動揺が隠せない。だってそんなの、まるで将来のことを考えているみたいじゃないか。


「だから言ったろ?真剣に考えてんだよ、これでも」


くしゃりと頭をひと撫でして、ほら、そろそろ帰れよ、なんて言ってくる烏養さんの顔はほんのり赤く色付いていて。私の考えが間違いではないことを物語る。
私のことを1番子ども扱いしていたのは、きっと自分自身だ。烏養さんはずっと、私のことを1人の女性として考えてくれていたのに。


「繋心さん、大好き!」
「っ!…調子乗んな!ほら、送ってやるから帰れ!」
「はぁい」


まだ数えるほどしか読んだことのない名前を呼ぶと、ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に満更でもなさそうに照れた表情を見せてくれる。そんな姿さえも愛おしくて。これから2人で少しずつ大人になっていけたら良いなと思いながら、私は烏養さんの大きな背中を追いかけた。