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瀬見に慰められる


「英太ぁ…フラれたぁ…」
「おーおー。またひっどい顔してんな」


私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を隠すことなく、幼馴染みの英太の元にやって来た。場所は私達以外誰もいない放課後の教室。今日は試合前の調整日ということで部活がオフだときいて、わざわざ待っていてもらった。
私がなぜ、英太曰くひっどい顔をしているのかというと、つい先ほど彼氏にフラれたからだ。その彼氏によると、私はどうやら軽すぎるらしい。そのセリフには聞き覚えがあって、高校に入ってから付き合ってきた男子には、フラれる時に必ずと言っていいほど言われるフレーズだ。
過去に付き合ってきた彼氏も含め、私はちゃんと彼らのことが好きだったし、誠実にお付き合いをしてきたつもりだ。浮気だってしていない。それなのになぜ軽いと言われるのか。理由は簡単。


「また、英太と浮気してるだろって言われたぁ…」
「そりゃお前、すぐ俺のところに来るからだろ」
「だって…英太といるのが楽なんだもん…」


物心ついた時から英太はいつも私の傍にいた。幼稚園も小学校も中学校も一緒で、高校の進学先を考える時も、英太が白鳥沢に行くと知ってからは英太と離れたくない一心で死に物狂いで勉強した。
だから私にとって英太はなくてはならない存在で、もはや家族とか、そういうレベルの人間なのだ。それを毎回浮気だと言われてしまうのだからどうしようもない。だって改善のしようがないのだから。


「今回は大丈夫だと思ったのに…もうやだぁ…」
「おー泣け泣け。ティッシュあっから」
「ありがと…」


英太は私がフラれる度に毎回こうして慰めてくれる。余計なことも言わないし、黙って話を聞いては励ましてくれるし、本当に優しいと思う。バレーで忙しい中でも、英太は時間を作っては私の愚痴や悩みを聞いてくれるからつい甘えてしまうのだけれど、そろそろ自立しなければいけないのかもしれない。
ぐすぐすと鼻をすすりながら英太にもらったティッシュで涙やら鼻水やらを拭う。フラれた時の恒例とは言え、英太は嫌な顔ひとつせずに傍にいてくれるのだからできた男だと思う。


「いつもごめんね…、忙しいのに、」
「今更何言ってんだよ」
「そうだけど…英太、私のせいで彼女できないんでしょ?」
「は?」


優しい英太は自分から言ってこないから気づかなかったけれど、先ほどフラれる際に言われた。お前がいるから瀬見は彼女作れねーんだよ、と。
確かに、ことあるごとに英太に纏わりつく私がいたら、たとえ英太に想いを寄せている人がいたとしても萎縮してしまうかもしれない。英太はバレー部でも活躍しているし、顔だって整っているから、普通に考えたらモテると思う。私服のセンスは残念だとしても、こんなに優しいのだからそこは大目に見るべきだろう。
私の問いかけに、英太はなぜかひどく驚いた後、ちげーよ、と珍しく不機嫌そうに言った。私に罪悪感を抱かせまいと気を遣っているのだろうか。


「俺は俺の意思で彼女作んねぇの」
「…なんで?」
「お前がいるから」
「…やっぱり、私のせいなんじゃん…」


英太の発言に、私は肩を落とす。私がいるから彼女作らないってことは、私のせいで彼女ができないってことと同じじゃないか。
そう思うと、フラれたことなんかよりも自分が英太にとって邪魔な存在になってしまったことの方が悲しくて、また涙が溢れてきた。やっぱり、離れなくちゃダメなのかなあ。


「なんか勘違いしてねぇ?」
「……勘違い?」
「俺はお前以外彼女にする気ねぇの。他の女とか興味ねぇし」


驚きのあまり、涙は止まってしまった。思わず英太を凝視すれば、いつもと変わらない笑顔を向けられて胸がキュンとする。
…そっか。私ずっと前から、英太のこと好きだったんだ。気付いてしまえば呆気ないもので、私は英太に抱き付いていた。驚きながらもしっかり私を受け止めてくれた英太の腕は逞しくて温かい。


「英太のこと、好きだよ」
「知ってる」
「私と付き合ってくれる?」
「それ、お前から言うの?俺から言う流れじゃね?」


しまんねぇなあ…とぼやきながらも、抱き付いたままの私を英太は優しく抱き締めてくれた。英太から離れなくて良いんだと思うと、嬉しくて、安心して。みっともなくまた泣いてしまう私を、よしよし、って、まるで子どもをあやすように撫でてくれる英太が、やっぱり私は大好きだ。
気付くの遅くなってごめんね。でもこれからは幼馴染みとしてじゃなくて、恋人として、英太の傍にいさせてください。