×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

赤葦に嫉妬される


「あの、私…何か、した、で、しょう、か…?」
「……分からない?」
「は、い…ごめん、なさ、い…」


私の今の状況を整理しよう。いつも通りマネージャーの仕事をして、体育館倉庫でボールやモップを片付けていた時、赤葦先輩が現れた。元々ニコニコ笑うような人ではないけれど、心なしか苛立った様子で近寄ってきた先輩は、後ずさる私を壁際まで追い詰めると、顔の両サイドに手を付いて私を閉じ込めた。これは所謂、壁ドンである。つまり私は、赤葦先輩に壁ドンされているのだ。
バレー部のマネージャーになってからずっと、密かに赤葦先輩のことが気になっていた私は、心臓が飛び出そうなほど緊張していた。なぜこんなことに?いつも通り過ごしていたはずだけれど、知らず知らずの内に何か赤葦先輩の気に障るようなことをしてしまったのだろうか。今日の出来事を振り返ってみようとするけれど、相変わらず目の前には整った赤葦先輩の顔があって、まともに頭が働いてくれない。


「部活前、木兎さんと、何してた?」
「木兎先輩?え…と、確か、ボールを追いかけてきた先輩と、ぶつかって…」
「それで?」
「倒れた私を、木兎先輩が、起こしてくれました…?」
「その前」
「…その前……?」


赤葦先輩のイライラが増しているような気がする。これは本気で思い出さなければ。私は必死に記憶を呼び起こす。
部活前、ボールを追いかけてきた木兎先輩が私にぶつかってきた。その衝撃で倒れてしまった私の上に木兎さんも乗りかかってきて、慌てて退けてくれたんだっけ。その後、手を取って起こしてくれて…それだけ、だったはず。はて。今のどこに赤葦先輩のイライラポイントがあっただろうか。


「木兎さんに襲われてなかった?」
「えっ!襲われるなんて、そんな!あれは事故みたいなもので…、」
「…じゃあ、俺とのことも事故で済ませられる?」
「へ、え、赤葦先ぱ、い…っ!」


何を言っているのか意味が分からなかった私は、木兎先輩に襲われたわけではないと再度説明するべく、意を決して赤葦先輩を見つめた。が、その瞬間、目の前が真っ暗になって、気付いた時には唇に柔らかな感触。もしかして、私、赤葦先輩に、キス…されてる?
私がそれを理解するより先に唇は離れていて、先ほどよりも至近距離に赤葦先輩の顔があった。吐息まで感じるほど近い。私、今、ちゃんと息できてるのかな?


「無防備すぎると、また襲うよ」
「…あの、なんで……」
「分からない?結構分かりやすくアプローチしてたつもりなんだけど」
「は?え?アプローチ…?」
「無防備な上に鈍感で、俺は困ってるんだけどね」


やっとのことで壁ドン状態から解放され、ホッとしたような残念なような、複雑な心境だ。それにしても赤葦先輩は何を言っているのだろう。アプローチなんかされただろうか?そもそも、アプローチというのは、好意を抱いている相手にするものだったような気がするのだが、私の思い違いだろうか。混乱しまくっている私には何がなんだかさっぱり分からない。


「単刀直入に言おうか?」
「あ、はい…お願いします…」
「俺以外の男の人に触られたら嫉妬するから気を付けてくれる?」
「赤葦先輩が、嫉妬、って、そんな、まさか…」
「やっと気付いた?」
「でも、え、うそ……」


ニヤリ。なんとなく意地悪そうな笑みを浮かべた赤葦先輩は再び私に近寄ってくると、数分前のように壁際に追い詰めて、またもやキスをしてきた。さっきのも、やっぱりキスだったんだ、と。今更ながらに理解して身体中が燃えそうなほど熱くなる。


「俺、好きでもない子にキスしないけど」
「……そう、です、よね…、」
「で?返事は?」
「えっ!あ、えと、」
「…まあ、そんなの聞かなくても分かってるけど」


全てお見通し、と言わんばかりに微笑んだ赤葦先輩はひどくカッコよくて。私はくらくらしながらも、きちんと自分の想いを伝えたのだった。