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プレゼントがネタ切れになったから


幼馴染だから、クリスマスプレゼントをあげるのはもはや習慣みたいなもの。高校に進学してからも何食わぬ顔でプレゼントを渡しているけれど、それに特別な意味などない。……と、彼は思っているのだろう。おそらく彼の方は「幼馴染だから」という名目で毎年プレゼントをくれているのだろうから。
しかし残念ながら、私の方は違う。今年は……というか、少なくとも高校生になってからはずっと、特別な意味をこめてプレゼントを贈ってきた。でも、それに気付いてほしいとは思っていない。むしろ気付かれたら終わりだと思っている。だからこうして「幼馴染として」のスタンスを貫いているのだ。


「あれ、名前?」
「あ、京治。ちょうど良かった。はい、これ」
「ああ、クリスマスの」
「うん。部活お疲れ」


近所に住む幼馴染に、クリスマスの夜偶然出会ったから、恒例のクリスマスプレゼントを渡した。……なんていうのは、サンタクロースも真っ青になっちゃうほどわかりやすい真っ赤なうそ。
私は手にプレゼントを持って近所をうろついていたのだ。ちょっと考えたらわかると思うけれど、こんなのどうやったって偶然じゃない。というか、何の用事もないのにクリスマスプレゼントを持ってうろついている女なんて、完全に不審者だろう。
つまり私は、クリスマスだろうがなんだろうが夜遅くまで部活に勤しんでいる彼にプレゼントを渡すために、彼が帰って来る時間帯を見計らって待ち伏せしていたのである。待ち伏せしていた、なんて、まるでストーカーみたいだけれど、本当のことだから否定はできない。
彼はこの不自然に装われた「偶然」のシチュエーションの不可解さに気付いていないのか、はたまた気付いているけれどもつっこむのが面倒なだけなのか、何の感動もなくプレゼントを受け取った。今更「わあ!嬉しい!ありがとう!」と喜んでほしいとは思わないし、そんな反応をする男じゃないことは知っているけれど、もう少し嬉しそうにしてくれてもいいのになあと思う。まあこのプレゼントはほぼこっちが勝手に押し付けているようなものだから、嬉しくないのかもしれないけれど。
今年の任務は無事に終了した。近所をうろついていただけの私はコートを羽織っているだけで他の防寒具は何も身につけていないから、非常に寒い。さっさと家に帰ろう。と、思ったのに、彼に引き止められてしまった。


「俺からもあるんだけど」
「毎年ごめんね」
「何が?」
「なんか、毎年渡さなきゃ、みたいな感じになってるから」
「それはお互い様じゃない?」
「まあ……そう、なのかなあ……」
「違うの?」


違いますよ。こっちは渡さなきゃいけないから渡してるんじゃなくて、渡したいから渡してるんだもん。
キョトンと見つめてくる彼にそう言ってやりたいのは山々だったけれど、そんなことを言ったら「なんで俺に渡したいと思うの?」と詰め寄られる未来が容易に想像できる。そうなったら私は、何も返事ができなくなってしまう。


「来年からはこういうのなしにしよっか」
「え?」
「来年は受験とかあって忙しいだろうし」
「プレゼント選ぶのぐらい受験生でもできるんじゃない?」
「でも、ほら、お互い恋人ができちゃうかもしれないし」
「……そういう予定があるってこと?」


彼は昔から感情があまり顔に出ないタイプだ。だから私は、彼の考えていることや思っていることが何年経ってもわからない。それなのに、今目の前で私をじぃっと見つめてきている彼からは、ただならぬ気配を感じた。
怒りとは違う、不安でも焦燥でもない、それらとは別なのだけれど、それらも入り混じっているような、とにかく私が今まで彼から向けられたことのない感情をぶつけられている。一体どうして?


「今のところそういう予定はないけど、わかんないでしょ。お互い」
「俺はない」
「そんなのわかんないじゃん」
「わかるよ」
「なんで?」
「俺は名前以外と付き合う気がないから」
「へ」


予想外すぎる返答に、思わずマヌケな声が出てしまった。私以外と付き合う気がないってどういうことだ。付き合う、って、どういう意味かわかって言っているのだろうか。彼は賢いと思っていたけれど、恋愛に関しては知識がないのかもしれない。
でもおかしいな。中学の時も高校に入学してからも、彼が女の子に告白されたという噂は何度か耳にしたことがある。だから「付き合う」というのがどういうことかぐらいわかっているはずなのだけれど。……ということは、もしかして?どきりどきり。胸が高鳴る。


「名前は俺と同じ気持ちだと思ってたんだけど」
「え、あの、えっと、それはつまり……?」
「今日もわざわざ俺が帰るの待ってたんでしょ。クリスマスプレゼント渡すためだけに。去年も同じことしてたよね」
「ち、違うし!」
「違わないよ。手、こんなに冷たくなってるじゃん」


何の躊躇いもなく私の両手を包み込む彼の手は、手袋のお陰なのかもともとの彼の体温でなのか、びっくりするぐらい暖かい。その熱のせい……だけではないと思うけれど、私の身体がぶわりと体温を上げた。
幼馴染ってこんな風に手を取り合うものなんだっけ?ていうか私の行動の不自然さ、普通にバレてるし。しかも去年から。私、成長してないんだな。……って、今はそんな意味のない反省をしている場合じゃなくて。


「け、京治、手、」
「どうせ待つならちゃんと防寒しなよ」
「……来年からはそうする」
「だめ。来年からは家で待ってて。俺が行くから」
「プレゼントもらうために?」
「俺が名前にプレゼントをあげるために」
「どうして?」
「この話、堂々巡りにならない?」


相変わらず手を握られたままの私は、寒いのに熱くて、自分の体温を上手に調節することができない変温動物みたいだ。どくどく。心臓の鼓動もどんどん速くなっていくし、もしかしたら私は今日死んでしまうのかもしれない。
でも、どうせ死ぬならこのドキドキの原因を究明してからがいい。そのためには、彼の口からはっきり言ってもらう必要があるのだ。遠回しな言葉じゃなくて、シンプルに。馬鹿な私にもわかるような単語を使って。


「ちゃんと言ってくれないとわかんないんだもん」
「はいはい。じゃあ続きはうちに来てからにしようか」
「えっ」
「寒いし。今ここにプレゼントないし」
「でも、」
「プレゼント渡しながら言った方が雰囲気いいでしょ」
「……情緒がない」
「じゃあ来年まで幼馴染のままでいい?」


珍しく、ふふっ、と笑って見せた彼は、私に選択肢を与えてくれるつもりがないようだった。なんでそんなに1人で余裕な顔してるんだ。私はこんなに乱されているのに。ずっとずっと、幼馴染の特権に縋り付くしかないと思っていたのに。幼馴染じゃなくて別の特権を与えられるなんて、聞いてない。聞いてないけど、


「やだ」
「じゃあおいで」


包み込んでいた手を握り私を引っ張って歩き出す彼は、どこまでも淡々としている。どうにかして乱せないかな。私だってたまには彼のことを振り回してやりたい。


「京治」
「なに」
「すきです」


彼が足を止めた。私も必然的に止まる。彼が振り向く。目が合う。あ、やばい。これは怒っている時の目だ。ちょっと動揺させようと思っただけなのに、いや、そんな理由で言うことじゃなかったと、言った後で後悔したけれど、でも、そんなに怒らなくたっていいじゃないか。


「今ここで言う?」
「だって、なんか、ねえ?」
「はあ……まったく、振り回されてばっかりだな」
「え?」
「名前のことになると余裕ないのに。これ以上困らせないでくれる?」


彼がいつ、どのタイミングで余裕をなくし、振り回されてくれていたというのだろう。困っていたのだろう。思い当たる節がひとつもないのだけれど、どうやら既に私の目的は達成されていた、ということで良いらしい。
再び私の手を引いて歩き出した彼の後頭部を見つめながら、ニヤニヤしてしまう。これから彼は私にプレゼントをくれて、たぶん、素敵な一言を囁いてくれる。そう思ったら、ニヤニヤせずにはいられなかった。
クリスマス。幼馴染としての恒例行事は、別の何かに変わりそうだ。