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及川と待ち合わせ


今日は待ちに待ったデートの日。毎週月曜日の放課後には一緒に帰ったり近場をブラブラしたりするけれど、私服で出かけるのはかなり久し振りだ。
部活優先でなかなか一緒に過ごせないにもかかわらず、彼女は文句を言うどころか、体壊さないように気をつけて頑張ってね、と笑っていた。そんな彼女だからこそ好きになったのだと思う。
待ち合わせ場所に着いたのは予定時間の10分前。真面目な彼女のことだから、もしかしたらもう先に来ているかもしれない。そう思って辺りをキョロキョロと見渡していると、背後から及川さん?と声をかけられた。ちなみに彼女は俺のことを徹くんと呼ぶから、彼女でないことは間違いない。
恐る恐る振り返ると、そこには5人組の女の子達。


「やっぱり!及川さんですよね?」
「私達、青城の1年生なんです」
「全員及川さんのファンなんです!」


なるほど、知り合いではないと思ったけれど、同じ高校に通う後輩ファンだったか。キャッキャとはしゃぐその子達は2歳しか変わらないのに随分と若く見えた。


「あの、写真撮ってもらえませんか?」
「あー…うん、いいよ」
「ありがとうございます!」


さっさと退散してもらおうと思い、にこやかな笑みを浮かべて申し出を受ける。こうしている間にも、彼女が来てしまうかもしれない。
しかし、ここで予想外のことが起こった。女の子達の中の1人がインカメラにしてスマホを構えると、これでもかと全員が俺に密着してくるではないか。
いやいや、ちょっと近すぎでしょ。すごく不愉快な気持ちにはなったけれど、早く終わらせたい一心でなんとか自分のスペースを確保する。お決まりの笑顔を携えカメラに視線を向け、シャッターを切れば終わる、と思った時。
俺はカメラの向こうに彼女の姿を捉えた。彼女の方も俺に気付いているようで、バッチリ目が合う。その瞬間、彼女は俺に背を向けて走り出してしまった。


「ごめん!写真また今度にして!」
「あっ、及川さん!」


呼び止められたけれど、それどころではない。俺は彼女を全速力で追いかけた。
幸いにも彼女の姿は見失っていなかったため、運動部の俺はあっさりとその手を掴むことに成功する。


「なんで逃げるの」
「だ、だって…徹くん、楽しそう、だったから…っ」


息切れしながらそう言った彼女は、ひどく苦しそうだった。今にも泣き出しそうな顔でそんなことを言われて、俺の方が泣きそうになる。


「ごめん…ファンの子に写真撮ってほしいってお願いされちゃって…別に楽しくなんかなかったよ。お前がいないと、何も楽しくない」
「徹くん…」


素直な気持ちを伝えてぎゅうっと彼女の体を抱き締めれば、ゆるりと控えめに俺の背中に回される腕が愛おしい。


「じゃあ、行こっか。この近くに雰囲気良さそうなカフェがあるんだって。お昼ご飯そこで食べない?」
「うん!行きたい!」


満面の笑みで答える彼女の手を握って。できればこの手を一生離したくない、なんて思った午後12時。