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酒は飲んで飲まれろ


※大学生設定


つい先月のことだった。大学の仲の良い友達だけで集まって飲んでいた席で、酔っ払った俺が迎えに来てくれた名前にキスをかますという事件を起こしてしまったのは。正直、その時の記憶は殆どない。きっと無意識だったのだろう。彼女が視界に飛び込んできたから、ああ、キスしよ、て。そう思って身体が勝手に動いてしまったに違いない。もはや反射である。
翌日、俺はそりゃあもうすごい剣幕で怒られた。気心が知れた仲とは言え飲み過ぎだ。人前であんなことをしてくるなんて非常識にもほどがある。次同じことをしたら別れる。等々。
とりあえず相当ご立腹であることは間違いなかった。そのおかげでそれから1週間はセックスどころかキスもオアズケを食らうハメになり、手を繋ぐ以上の行為をしようもんなら睨まれる始末。そんなわけで俺は、もう二度と酒の飲み過ぎで失敗はするまいと心に誓ったのだけれど。
これはどういうことなんやろな。俺は携帯電話を耳から離して首を傾げつつ、居酒屋が立ち並ぶ通りを歩いていた。時刻は夜の10時を過ぎたところ。金曜日の夜ともなればそこかしこで酔っ払いがふらふらと陽気に歩いていて賑やかである。
つい今しがた電話をしていた相手は、名前と共通の知り合いである女友達からだった。その電話の内容は、酒を飲み過ぎてしまった名前を迎えに来て欲しい、というもの。というわけで、俺はこんな時間に電話で教えてもらった店を目指して歩いているところなのだが、人に散々苦言を呈しておきながら自分が酔い潰れてしまうとはどういうことなのか。これはじっくりたっぷりきかせてもらわなければならない。
辿り着いた居酒屋の暖簾をくぐり、中に入る。サークル飲みだと言っていたからそれなりに人数がいるのだろうと推測し、騒がしい店内で一際ガヤガヤと喧しい座敷席の方に足を進めて顔を覗かせれば、予想通り、見知った面々がこちらに視線を向けてきた。
俺と名前が付き合っていることは大学内でも知れ渡っているので、俺が登場したところで首を傾げる人間はいない。むしろ、彼女迎えに来たんやろ?と歓迎されているぐらいだ。


「宮君!こっちこっち!」
「あれぇ?あつむだぁ…」
「…珍しいやん。こんなんなっとんの」


知り合いに適当な挨拶をしつつ電話をしてきた女友達の方に近付いて行けば、思っていた以上に盛大に酔っ払っている名前がいて呆れてしまった。普段はここまでべろんべろんになることはまずないというのに、何かあったのだろうか。理由は分からないが、耳まで真っ赤に染め目をとろんとさせながらこちらに擦り寄ってこられること自体に悪い気はしない。ただ、俺がおらん間、他の男に擦り寄っとらんやろな?という一抹の不安は過った。
女友達に聞けば、どうやら今の今まで机に突っ伏して寝ていただけのようなのでセーフ。しかし、1人で帰れないことは間違いなさそうだ。迎えを呼んでもらって良かった。こんな状態の彼女を他の人間に送らせるなんて、とてもじゃないができやしない。
俺はへろへろの彼女に、帰るで、と声をかけて早々に退散を試みることにした。が、ここで予想外の事態が発生。元々寄り掛かってきていた彼女の片手が俺の太腿にのせられたかと思ったら、もう片方の手で胸元のシャツをくしゃりと掴まれたのだ。何事かと思い彼女を見遣れば、俺を見上げてくる視線は熱を帯びているし、極め付けは、ちゅーしよ?の一言。ごくり。生唾を飲み込んでしまったのは言うまでもない。
セックス中でさえこんな形でキスを強請られたことはないので、嬉しい反面、少し動揺していた。が、据え膳食わぬは男の恥。先月の事件は、俺が酔っていて、俺からキスをしたから怒られたわけで、今回は違う。誘ってきたのは彼女の方であって、俺は求められたことに応えるだけ。つまり、彼女の同意の上で公共の場で見せつけてやることができるまたと無いチャンスなのだ。にやり。思わず口元が綻んでしまう。


「ほんまにしてもええん?」
「んー?いーよ」


酔っ払いに同意を得たところで何の意味もないことは分かっていた。が、これは言質というやつである。すぐ傍にいる女友達や、こちらの様子を窺っている連中は、きちんと今のやり取りを聞いているはず。だからこのやり取りをきっと覚えていないであろう名前に、後からきちんと説明してもらおうと思ったのだ。
俺を見上げたままの名前に、目閉じんと、と囁いて、睫毛が下を向いたのを確認してから唇を重ねてやる。どうせならと、触れるだけではなくねちっこいやつをしてやったら、んん、と苦しそうな声が耳を擽ってきてぞくぞくした。あかん。めっちゃえろいやん。
唇を離したら、ぷは、と酸素を取り込んでから、んー…と俺の胸元に顔を埋めて眠りの体勢に入った名前を、よしよしと抱きとめてやる。どうやら今ので満足したらしい。が、俺はちっとも満足していない。それどころか、蛇の生殺し状態だ。
ここで周りからの視線を感じた俺は、にっこりと笑みを浮かべる。今の見とったやろ?コイツは俺のやから手出したら許さへんで。笑顔の裏にそういう意味を込めたのは伝わっただろうか。
同じサークル内で名前を狙っている輩がいることは少し前から知っていた。まさかこの場を借りてこんな形で牽制できるとは夢にも思っていなかったけれど、俺としては非常にラッキーな展開である。


「責任持って連れて帰るわ」
「え…ああ、うん…よろしく…」
「ほな」


貼り付けた笑みはそのままに、彼女を背中におんぶして店を出る。俺の首に腕を巻き付けて気持ち良さそうに寝息を立てる彼女に、明日言ってやろう。気心が知れた仲とは言え飲み過ぎだ。人前であんなことをしてくるなんて非常識にもほどがある。…て言うたんは誰やったっけ?と。それから、俺は何回同じことされても別れへんから安心しぃや、というのも付け足しておいた方が良いだろう。
何はともあれ、酔ったらキスをしたくなるのはお互い様だということが判明したので、次は2人きりで宅飲みすることにしようと心に強く誓った。