新入生代表の挨拶をしていたあいつを見て、あの無駄に整った高い鼻を、へし折ってやろうと思った。
どうせただの温室育ちのお坊ちゃんなんだろう、と思ったから。

それで小学生の頃にテニススクールに通っていたということもあって、あいつと同じテニス部に入って、マネージャーになった。



「牡丹」

「なに?」

「お前は行かねえのか、U-17の合宿に」

「あー…ホントは行きたかったんだけど、マネージャーは要らないって。
 相当お金掛けてあるらしくて、一流のコックさんとかが居るみたいだから」

「…そうか」

「まあ、跡部様のお口に合うかは知りませんが?」

「ハッ、言うじゃねえの」



そう言って跡部は私の頭をその大きな手でくしゃくしゃにした。何するの、と言えば、返事は無くその代わりにむかつくくらいに勝ち誇ったような俺様顔で微笑みが返ってきた。



「精々、居残り組と頑張るんだな」



跡部、寂しいのかな。こんなに私に話し掛けてくるなんて。

ああ、寂しいのは跡部じゃなくて、私か。
気を紛らわせようとでも、してくれたのかな。部長なんだもん、私が合宿に行くか行かないかとか行けないことの理由を知らないなんてこと、ないもんね。



跡部は、他の部員、選抜されなかった人に話し掛けに行った。

私だけじゃない。
跡部が見てるのは、私なんていうちっぽけな一点じゃない、世界の全てだ。
跡部が見ることの出来る限りの、全てだ。



スケールの大きい人で、私が想像していた人物像とは殆ど一致していなかった。

温室育ちなんかじゃない。口だけじゃない。自己中心的じゃない。
ちゃんとリーダーシップがある。周囲に気を遣っている。本当は凄く、優しい。


跡部のこういう面に気付いてしまったときだけ、テニス部に入らなければよかったと思うけれど、やっぱりそういう面に気付けたから、入ってよかったなと思う。



「跡部!」



その背中は大きいし遠いし、まだまだ私が追い付ける程度のものではない。



「アーン?」

「頑張って、きて」



それでも隣に並べられるように、頑張ろうと思うよ。






無言で近付いてきて、何かと思い身構えれば、ゆっくりと手が伸びてきた。そして、腕が背中に回されて、きつく抱き締められた。

今日はやけに素直じゃねえかと、耳元で囁きながら。














これだから

(みんなこっち見てるんだけどな。)







110112/牡丹



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