ル←キド


浮遊した理想




じりじりと侵食する不快な熱病に浮かされてから、だいぶ経つ。
いつまでも気付かなければ楽だったのだろう。
無視しようとすれば多分、出来たかもしれない。
相当の労力と精神を犠牲にすれば、なんて幾ら考えてもキリが無いのは明らかだ。

「…キスってさ、美味いのか?」

「…は?」

同性の、しかも敵同士の男を前にして言う事がそれかよ、と目を思わず背ける。


「なぁ、聞いてる?」

あまりに眩しくて、まともに見れやしない。
悔しいような情けないような、それでいてどうしようもなく惹き付けられてしまう。
あらゆる汚濁から縁遠かったのだろうか。
純粋なまでに白く、気高い孤高が羨ましいと思ってしまったのはいつからだっただろうか。



「……っん、」

最初は触れるだけの口付けを。

そして絡めあう舌の愛撫を。


ひどく、どうしようもなく枯渇しているような感触だった。
空虚で、どこかで夢想していた理想は浮遊して霧消していった。



「……やっぱり、肉の方が美味いよなぁ…」

「比べる対象がそれかよ」

ししし、と屈託無く笑う。

いくら手を伸ばそうとも、触れ合うほど近付こうとも、無情にも擦り抜けるのだと思い知る。
捕らえどころの無い自由を縛り付ける事は、誰にも出来ないのだろう。
それでも焦がれて、欲しがってしまう。
いつか自分だけを見てくれと、願ってしまう愚かを誰かに笑ってほしいのかもしれない。



end.

2010/8/17 up


つまり、ルフィは誰のものにもならないんだけども皆惹かれてしまうんだよ、っていう話。









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