積み重ねた思い出とか、音を立てて崩れたって、
僕らはまた、今日を記憶に変えていける。





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何故だかその日は朝から自分でもよく分からないほどに憂鬱で。
整理が出来ない位に酷くグシャグシャしていた。
夜になってもそれは一向に落ち着かなくて、突然のあいつらの誘いも面倒臭くて断った。
なのに今日に限ってしつこく呑みに誘ってくるもんだから、仕方なく重い腰を上げた。
更に雨が降ってきて、ますます気分は最低だ。

アルコールをいくら摂取しても靄は晴れなくて、自棄になってまた飲み干す。


「やけに機嫌悪いのな、ロー」
気遣う声色に、口から滑りそうな返事が攻撃的な事に気付いて留まる。
こいつらに八つ当たりしたってしょうがないだろうが。

「どうせまた下らない事だろ」
「お前に言われるとカチンとくるな、ユースタス屋」
思いっきり睨みつけたが、飄々と流された。

「あ、分かったお前。PMSだろ」
「…は。麦わら屋、どこで覚えてきたんだそんな言葉」

俺が男である以上、それだけは断固として否定するが。
ルフィはすっかり酔いが回ってきたようで、さっきからずっと嬉しそうに笑っている。



嘆息を吐いて空を仰ぐ。
何となくさっきよりは胸につかえていた異物が融けてきた気がする。

何だかんだ言っても、こいつらと一緒に馬鹿やってるのが一番楽なんだ。


「そういや何でお前ら、あんなにしつこく誘ったんだ?」

思いついた事を呟くと、ルフィとキッドは呆れたようにやっぱり、と顔を見合わせた。

「不憫だな」
「しょうがねぇよ、俺達も人のこと言えねぇし」

俺ひとり分からない答えに、軽く苛々する。
「何だよお前ら」




「「ハッピーバースデー」」

重なった声は嫌がらせのように見事に棒読みで。
言った途端、さも面白そうにまた笑った。

俺はというと、目を丸くしてしばらく硬直して。
日付を確認するまでにだいぶ時間がかかった。


「律儀に祝ってやるのなんて俺達くらいだぜ?」

「・・・・・・っは、」

何だか無性に笑いたくなって、ひとしきり腹を抱えたら、涙も出てきた。
ようやく酔いが回ってきたらしい。
楽しくなってきた。




「・・・何だロー、寝ちまったか?」
散々騒いだ挙げ句、、いつまにかテーブルに突っ伏した外科医に呼びかけるが返事は無い。
「そろそろ店じまいの時間だろ、一旦出ようぜ」
ルフィとキッドは何とか酒に潰されずに済んだおかげで、空が白み始めたのに気づく。
雨は止んだようなのが幸いだ。


「てめぇ自分で歩けよ全く」
「・・・うるせぇ」

おんぶなんかお互い願い下げなので、仕方無く二人がかりでローを引きずる。
これだから、寝ぼけた酔っぱらいは面倒くさい。




「・・・・・・あーっ!」
前方を見上げてルフィが叫んだ。
つられてキッドも同じように見上げて立ち止まった。
「・・・んぁ?」
そしてローも二人の視線を追った。



「きれーな虹だなー!」

雨上がりの朝焼けに、見事な虹がアーチを描く。

3人でしばらく言葉も無いまま、プリズムの軌跡を眺めていた。



余りに爽快すぎる感動を久々に味わって、ローの眠気も一気に吹っ飛んだ。
昨日ずっと抱えていた暗黒が、見事に完璧なまでに払拭された。

何でふさぎ込んでいたんだったか。
目の前の色彩美には、取るに足らない下らない事だったようだ。


心地良さに酔いしれても、まだもう少し良いだろう。

虹に見とれる悪友たちを後ろから座り込んだまま眺める。
まさしく、青春ってやつだな。なんてニヤニヤしてみた。




end.



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