そんな顔がすき 突き抜けるような青い空、綺麗にたなびく白い雲、明るく地を照らす太陽。 こんな良い天気なら少し外出でもしようか、と考えながら常より遅い時間に起きた俺は飼育小屋へと向かった。 実習の関係で此処三、四日は下級生達に任せていたから、朝飯より何より先に様子を見たかった。 まぁ、孫兵なんかは俺よりきっちりしてるから心配はしてないんだけどな。 単純に動物達を見たいだけだ。 今も長屋で休んでいるだろう三郎が聞いたら、また呆れるか揶揄かうに違いない。 …寝てるから大丈夫か。 丸二日は徹夜だったから、俺もまだちょっと眠い。俺や雷蔵より半日早く潜入してた三郎はもっとだろう。 そんなことを考えながら庭を突っ切っていたせいか。 しまったと身を捻った時には間に合わず、横合いから飛び出した何かによって強制的に身体が浮いた。 網目越しに見える空に、主に動物なんかに使われる仕掛け罠の様な物に掛かったのかと自覚したら泣けてきた。 生物は好きだけど、これは頂けないぞ、と情けなく思いながら懐から苦無を出す。 見た目よりかなり丈夫な縄にてこずっていたら、この罠の制作者であろう人物が静かに俺を見上げていた。 「…やっぱりお前か、喜八郎…」 「おお、これは大物が掛かりましたね」 呆れと怒りを込めた俺の低い声もなんのその、抑揚のない声で告げられた。 飄々としている割に、何故か楽しそうに見える喜八郎が恨めしい。 天才トラパーだと言われているだけあってか、蛸壺塹壕に加えこういう仕掛け罠も得意なんだよな、こいつ。 「五年生が四年生の罠に掛かるとは情けない」 「他に言う事はないのか、喜八郎…」 全く、とやっと切れた箇所から地上に着地すると、少し残念そうな喜八郎と眼が合った。 何でだ! 「お前以外の罠には早々掛からないさ」 悔しいが喜八郎の罠は見破りにくいし、基礎に忠実でありながら独自の技も併せ持っている。 あれ、褒めるつもりないのに、結果的に褒めてるような気が… いや、でも俺は実習明けだったしっていうのもあるし、と自分に言い訳していれば、目の前まで喜八郎が近付いてきていた。 「…つまり僕の罠には毎日掛かってもいいということですね」 「どうしてそうなる!?」 しかも何でそんなに嬉しそうなんだ!(表情からはわかりにくけど) 愛用の踏鋤はさっきまで喜八郎がいた場所に刺さったままで、手から離してるなんて珍しいと見ていたら、ぐいっと両頬を掴まれる。 何だ、と思う間もなく喜八郎の顔が近付いて…そのまま、唇に噛み付かれた。 「ちょ、お前、今何したっ!?」 「何って、接吻?」 「いやそこ疑問系にしないだろう、普通!というか何で…!」 「したくなったのでしました」 悪びれもせず言われた台詞に何と返したらいいのかわからない。 冷静になれ、俺!喜八郎の行動が突飛なのはいつものことじゃないか! 「…揶揄かうにしても冗談が過ぎるだろ…」 「冗談なんかじゃありません。ただ、竹谷先輩は僕と違ってくるくると表情が変わるので見ていて飽きないし、それに」 そんな顔が好きなんです。ずっと前から。 真剣な眼差しに、一気に顔に熱が集中するのがわかった。 だって、くそ、こんな不意打ち、反則過ぎるだろ! じっと見てくる喜八郎の視線に耐え切れず逸らしても、その眼は俺を捉えて離さない。 台詞も、視線も何処までも真っ直ぐで。 「笑ってるのが一番好きなんですが、僕以外に笑いかけてるのを見るのは面白くないので、僕以外にはあまり笑わないでください」 「…無茶言うな」 ああ、そうだ、とたった今思い出したかのように言われた台詞に思わず笑ってしまった。 子供の様な独占欲が、こそばゆい。 無表情だと言われてる喜八郎の顔が、俺に対しては幾つもの感情を見せるのが嬉しい。 絆されてしまいそうだ、なんて。 素直に言うのは悔しいから、暫くは黙っておこう。 そんな顔がすき □□□ 竹谷八左ヱ門総受企画『純粋すぎる君へ』様に提出させて頂いた作品でした!! 押せ押せ綾部と、流され絆され竹谷でしたvv珍しく両思いっぽく終わった← |