不愛

々とした緑が美しく、髪を撫でていく風は暖かい
自然が豊かなハイラルには、しかし自然の渇きの象徴である広大な砂漠が存在する。そして、その砂漠のすぐ側には盗賊の民ゲルド族が暮らす砦があった。

砂漠の乾いた風が吹き抜けるゲルドの砦
私、ナマエはコウメ様方から呼び出され1人の少年と引き合わされた。
燃える様に赤い髪、鋭い金色の瞳
彼は、会ったことこそ無かったものの、この谷のみんなが知っている、ガノンドロフ様だった。

「ナマエ、お前にはガノンドロフ様の世話係を頼みたい」
「世話…ですか?」
「ああ。世話と言っても修行のことではないから安心をし。お前には修行をつけたりなんて出来ないだろうからね」
「うっ…まあ、はい…」
「お前にはガノンドロフ様の勉強と、食事などの身の回りの世話を頼むよ」
「分かりました」

ずっと黙ったままこちらを睨んでいるガノンドロフ様に片膝をついて項を垂れた。ガノンドロフ様はまだ幼い筈なのに、随分と背が高い。

「これから世話をいたします、ナマエと申します。どうか側に仕えることをお許しくださいませ」

ガノンドロフ様は私をじっと見つめて(睨みつけたとも言う)から、フンと鼻を鳴らしそっぽを向かれてしまった。あらら。



「ガノンドロフ様。…ガノンドロフ様!」
「うるさい。聞こえている」

ガノンドロフ様のお世話を仰せつかって約3ヶ月程、ナマエは修行終わりのガノンドロフを追いかけていた。

「お怪我をなさっています。私の部屋で手当てをいたしましょう」
「要らん。こんなの大したこと無い」
「ダメです。夜の寒さはお身体に障ります。怪我の手当ても私の仕事なんですから」
「要らないと言っている!」
「そんなこと言わないで。ほら、行きましょう」

ガノンドロフは怒鳴っているのに、むしろナマエはだんだんと優しく笑うので、それがひたすらガノンドロフの気にさわった。

結局諦めて大人しくナマエの手当てを受けることにしたガノンドロフは、傷に染みる激しい痛みに1度息を詰めた。

「申し訳ありません、出来るだけ優しくしているのですが、染みるのは私にはどうも出来ません…」
「…痛くなどない」

ナマエはさっきと同じように眉を少し下げて困った様に笑った。その口からは今にも「仕方ないなあ」という声が聞こえてきそうだ。

(よく飽きもせずヘラヘラとしていられるな)

口では冷たい言葉を吐き顔を盛大に顰めながらも手を無理矢理解くことが無かったのは、怪我が痛むせいか、何だったのか。心というものに無頓着であったガノンドロフは、それを考えることを不要と考え、その時は答えを探さずにいた。



それが、私たちが最初に出会った時のこと。彼は8つで、私は13歳になろうとしていた。
彼がまだ谷の中で王としての存在を認められていなかった頃の話