キコア先輩に祝われる


夜のしじまが辺りを包む頃。騎士学校の寮の2階で、私はあなたが入ってくることを期待して窓の鍵をかけずにいたんだ。まるで王子の助けを待つ物語の中のお姫様みたいに。ベッドの中で、来るかも分からないあなたを待っている。
だって今日は私の特別な日だから



ギシ ギシ

「ほら名前、起きて」

窓際から木の軋む音がしたと思ったら、冷えた手に頬をぺちぺちと叩かれる。冷たい夜の匂いを連れて、あなたは遠慮なしに部屋へと入って来た。
私はそれを期待していたくせに、驚いた振りをしたんだ。


「あれ?キコア先輩、どうして?」
「きみの生まれた日を、ボクが1番に祝いたかったんだ」
「そのために忍び込んで来たの?」
「いや、まあ、そうだな。見回りが終わって、その帰りに窓を叩いてみたんだけど、開いていて驚いたよ。無用心じゃないかい?」
「でも、キコア先輩が会いに来てくれたからいいの」

私が静かに笑って見せれば、キコア先輩は照れたように頭をかいた。可愛い人だ。

「ゴメン、実はプレゼントを用意できていないんだ」
「それでもいいよ」
「祝いの言葉を受け取ってくれるかい?」
「うん、言って」

貧しい暮らしをしていること、本当は誰にも知られたくないのに私にあなたの秘密をくれることが嬉しい。モノなんていらない。
欲しいものはあなただけ

シーツが擦れる音が、寝静まった夜にやけに響いて聞こえた。キコア先輩の手が、宝物に触れるかのように優しく私の頬を包む
キコア先輩の手の上に私の手を重ねれば、私の手も同じように少しだけ震えていた
私だけに向けられた、瞳を 覗く


「生まれてきてくれてありがとう、名前」


あなたのその目、大地の色に似ていたの