The Dear

エノキダさんとパウダさんの結婚式を眺める君の横顔を見つめていたら、君はひどく懐かしそうに目を細めていたね。尤も、きっとそれは俺以外には分からない様な、些細な変化だったに違いないけれど。


「やぁ、おまえ達か。参列してくれてありがとう…グスン」

幸せそうに笑う2人の元に行けば、エノキダさんは泣いているようだった。どうしたのかと尋ねると、エノキダさんは「目にゴミが入っただけだ」とだけしか言ってくれなかったが、パウダさんは横で「どうだかな…」と言って呆れた様にして笑った。

「さて イチカラ村だが、すっかり村らしくなった。すべておまえ達のおかげだ。礼を言う」
「俺たちは大したことしてないよ」
「そんなことはない。私もこうして得意なことを活かせる生活が出来て、運命のヴォーイに出会うことも出来た。私だけでない、村のみんな、おまえ達にこの村を教えてもらったおかげで自分のやりたいことに出会えたんだ」
「それもこれもみんな、おまえ達の助けがあったからだ。本当に感謝している」

そう言われると頑張った甲斐があったなあとひとり頬を緩めていたら、ナマエがおもむろに何かを2人に差し出した。

「これは…お面か?」
「綺麗なお面だな。くれるのか?」

君は何も言わず、ただ小さく頷く。君が渡した白いお面が、ふたりの腕の間で陽光を受け虹のような輝きを放っていた。

「そうか。ありがとう」
「大切にするよ」

大丈夫、そんな不安そうにしなくたって、君が2人の幸せを願いそれを贈ったことはちゃんと伝わっているから。




100年前、姫様御付きの騎士任命の儀式の為に練習をしていたあの日。君は突然俺たちの前に現れた。
そして俺は、英傑や姫様が警戒する中でひどく口に馴染んだ様に君の名前を呼んだんだ。

輪廻転生、という言葉があるけれど。
100年前の記憶を取り戻した今、それはきっと本能だったんだと改めて言うことができる。君を見つけた時に感じたのは、雷に打たれた様な衝撃でも、長年生き別れた人との感動の再開でもなく、己の半身を見つけた様な、最初から出会うことが分かっていた様な、とても奇妙な感覚だった

背中を預けることに躊躇なんて抱かなかった。
側に居ることが当たり前に思えた。
それこそ、周りから指摘されるまでその不自然さに気づかなかったくらいに。

君との関係に名前を付けようとしたこともある
友達か?師弟か?はたまた家族か?
そのどれも当てはまる様で少しずつ違うようにも思えた。
だって、君に抱く感情は実に様々で複雑だ。幼馴染みたいになんでも分かる様でいて、全く知らない人の様に君のまだ見ぬ部分を知りたいと思うことがある。姉の様に頼りにしているのに、時々君を手放したくなくてどうしようもないことだってあるんだ。
ああ、でもね、これは今も”昔”も変わらない

ナマエ、俺はいつでも君の幸せを願っているよ
ただひとりずっと側にいてくれた 大切な大切な俺の相棒





回生の祠を抜けた先
朝日に照らされ振り向いた君は、この世でとても美しいものに見えた。

そして俺は100年前の時と同じ様に
あの日、知らない筈の君の名前を呼んだんだ


The Dear
親愛なる人

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