The Ocean

「ねぇ、ナマエはさ、時間を操ることができるんでしょ?」

海の底に眠る宝箱をサーベルで引き上げる作業に飽きた風の勇者は、船の後方に腰掛ける女に唐突に話しかけた。名前を呼ばれた事に気付いた彼女は、赤獅子の語る古代の言葉に耳を傾け、そこでやっとうなづきをひとつ返してきた。


ナマエは、過去から来たんだってさ。
ホントは、過去じゃなくて未来から来た?らしいんだけど、赤獅子の小難しい話は眠くなっちゃうや。
まあ、だから、ナマエはボクの言ってる言葉が分からないらしい。ボクも、ナマエの言う言葉はさっぱり分からない。と言うより、ナマエはほとんど喋らないんだけど。古代の言葉だろうと最初はもうちょっと話してくれてただろうに、今ではボクがナマエに話しかけたら赤獅子を通してうなづいたり首を振ったりして反応を返してくるようになった。
全然笑ったりもしないしいっつも下向いてるから、ここだけの話、一緒に旅をする事になった時はちょっと嫌だったんだよね。時間を操れることとか過去から来たことだって最初は信じられなかったけど、赤獅子もデクの樹様もナマエのことを前から知ってたみたいだから、ナマエは本当に過去?未来?から来たみたいだ。

ただ、最近はあんまりそういうことは興味ないんだ

「それだけじゃなくてさぁ、海を泳ぐこともできるし、ビヨーンって伸びる…えっと、フックショット?ってアイテムで壁に張り付くこともできるでしょ?すごいよね!」

今度は、首を振った。

”すごくないよ”って言いたいのかなぁ。でもボクは海でずっと泳いでいると溺れそうになっちゃうし、壁に張り付くこともできない。それに、ナマエはすごく強くて、魔力も沢山あって、ボクがピンチになった時はすごい速さで敵を倒してくれる。ホントはピンチになる前にナマエが敵を全部倒してくれたほうが早いと思うんだけど、ナマエはそれをしない。ただ、ボクが1人で敵を倒せたら、頭を撫でて褒めてくれるんだ。言葉はやっぱり無いけれど、ちょっと目が細くなって笑ってるみたいにも見える。
なんだかそんな時は、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁと思ったりもした。

ボクは、今はナマエと旅をする事が好きだ。


「ねぇねぇ、ナマエはテトラ達みたいな海賊好き?」
少し考え、うなづく。

「ナマエはこの大海原の先を見たことある?」
首を横に振った。


「ナマエの故郷って、どこにあるの?」
また少し考えてナマエは夜空を見上げた。

そしたら、ナマエはスッと指を指す。
その先には満天の星空が広がるだけだ。

「?…えっと、ナマエはリト族だったの?」

ボクの言葉に驚いたように目を丸くし、それから目を細めて首を横に振った。
あ、笑った

結局ナマエの故郷は分からなかったけど、今はまだいいや。
旅が終わった頃には、教えてくれるかな


The Ocean
海洋

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