The Release

最初の朝
クロックタウンの中心にある広場は音楽と人で溢れかえり、実に楽しそうな空気が漂っている。2日後にはここもガラガラに空いてしまう訳だけど、それをまだ知らない人達の顔はとても幸せそうに見えた。僕ら、リンクとナマエは時計塔の前でそれらをただ呆然と眺めている。

「もう一回やり直さなきゃね」
「うん…また大岩を壊さなきゃなあ。まずはゴロンシティに行こうか」

なんか足が重いなあ。もう何度もこの朝を繰り返しているけれど、何度も出会い何度も忘れられるというのはやはり凄く疲れる。関係も信頼も一からまた作り直さないといけないし。

それに、ハイラルで7年後から戻ってきた時のことを思い出しちゃうし。
ガノンドロフを討ち倒す為にハイラルの各地を走り回った末にできた、ほんの数人の僕の友達は、7年の時を遡った末に僕のことを綺麗さっぱりと忘れてしまっていた。ゼルダ姫のせいじゃないこと分かってるけど、彼女のことでもやっぱり許せない気持ちのほうが大きくて。でも、嫌いにもなりきれなくて。そんなもどかしくて胸の中を掻き乱すみたいな複雑な気持ちが、三日間を繰り返す度に思い起こされる。

昨日までは牧場でお化けを追い払う仕事をしていたが今回はそれを失敗してしまい、マロンはどこかへ連れ去られてしまった。
でもその光景を見たのは、昨日で3回目だった。

「マロンのこと助けても、その次にはクリミアさんのミルク運びか……今度こそ失敗出来ないなあ」

ナマエは疲れた様にそう言ってから、ハッとしたように口を噤む。きっと自分で言ったことに今頃冷や汗をかいているんだろうな。もしくは、気分でも悪くなったかもしれない。そのナマエの気持ちは、僕にもよく分かった。こんな三日目を繰り返していれば、この世界の人たちの行動は大体把握してしまう。なんだかそれに慣れてきてしまって、この世界の人たちの行動をイベントとか何かのゲームとかみたいに無意識に捉えてしまってきている自分が、怖いんだ。

ああもうなんだか、すごく疲れてしまった気分だ。
サリアもダルマーニもルト姫もゼルダ姫もナビィも、ロマニーも。
みんな僕を置いていくんだ

「ねえ。ナマエは、僕のこと置いて行かないよね?」
僕は追い縋って見える様にそう言えば、ナマエはぎこちなく頷き笑った。

あはは、ひどい顔してるよ。笑っているのに今にも咽び泣きだしそう。
でも多分僕もそんな顔をしている。
僕の為に笑って見せたナマエに、僕は何も言って返す事が出来ない。そのまま二人、いやチャットを入れたら三人か。まずは預けたお金を降ろす為に重い足を動かしゆっくり街を歩き始めた。

僕ら何度も心をすり減らして、お互いに支え合って立っているのがやっとなんだ。ナマエは最近笑顔を見せてくれなくなってしまった。というより、表情がハイラルを一緒に旅していた時よりも減ってしまった。まあ、こんな毎日を繰り返していればそうなるのも当たり前か。

ナビィを探しに出たのは間違いだったのかなあ。

僕はハイラルの勇者ではなくなってしまった。僕は、闘うことに勇気を必要としなくなってしまった。だからもう、僕はナマエと旅をする資格なんて本当はない。元々、僕が”絶対に死なない”ことを条件に、ナマエを無理矢理時間の旅から連れ出しているんだ。

いっそこのまま、ナマエとふたり運命や使命なんてのも忘れてずっと一緒に旅を続けられたらなんて。
何度も何度も思ったよ

分かっている。ナマエを繋ぎ止めておけるのはもうできないって。ナマエは時のオカリナなんて無くても、長い時を飛べる力を得てしまった。
ムジュラの仮面を取り返したその後に、きっとこのオカリナを君に返すよ。

だからせめて、
もうすぐこの旅が終わってしまうまで


せめて僕が、他の勇者の誰よりもナマエを独占していたい


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