「……えっ?」

「ごめん、もう一回」
「だから、…妊娠したんだって。今日病院に行って分かって、3ヶ月くらい」

電話越しの声がとても冷静に聞こえたせいで、一瞬事の重大さに気づくことができなかった。その一瞬にして、頭は高速に回り始める

「そっか…………嬉しい、嬉しいよ俺!」
「……本当?」
「ああ、本当だよ」
「……良かった。面と向かって話すの、少し怖かったから」
「大丈夫。ちゃんと嬉しいよ。後で会いに行っていい? 色々と話し合ったりしないと」
「うん……待ってるね。…………法介」
「なに?」
「喜んでくれてありがとう」

大丈夫。
嘘を見抜けるからこそ、嘘の吐き方はよく分かる

「当たり前だろ」

いつもの元気な声を意識した返事に、名前は違和感を覚えることは無かった様だ。
その後一言二言の会話の後に電話を切った途端に、上がっていた口角は下がり、自慢のセットした角も垂れ下がって頼りない男が出来上がる。

( どうしよう )

まさか、俺に、子どもができてしまうなんて。
俺に、家族ができるなんて。


家族ができる喜びに胸が燃えるように熱くなる
そして同時に、仄暗く漠然として得体の知れぬ苦しみが、俺の心に巣食うのだ


巣食う愛情



「はあ、またにてぃーぶるー、ですか」
なんだかそれは、大変そうだ。

成歩堂さんとみぬきちゃんの会話から頭に浮かんだそれは、なんとも間抜けで頭の悪そうな感想だった。
子どもができるのだと、事務所のみんなに伝えてからはみんなその話題で盛り上がった。今日は名前は定期検診でお休みをもらっているから、名前に直接話を聞いてみたいらしいみぬきちゃんと希月さんはソワソワと落ち着かない様子だ。

「結婚は?いつするんだい?」
「籍は今度の、記念日に入れる予定です。」
「オドロキ先輩オドロキ先輩! 式は!? 式はいつするんです!?」
「みぬき、名前さんの為に余興でマジックショーやってあげますよ!」
「あくまで俺のためでは無いんだ……。結婚式は、子どもが産まれてからにする予定だよ。でも、あんまり予算は無いから、事務所のみんなと名前の親とか、身内だけの式になる予定かな」

へぇーとかふーん、とか興味深そうにみんなうなづいて見せてから、またも会話は名前と俺の子どもの話に、というかマタニティーブルーの話に戻っていく。
まだ続くのか、その話。しかも、当事者の俺をそっちのけにして話はどんどん進んでいく
ただでさえ妊婦はホルモンバランスの関係だかなんだかで、精神が不安定になりやすい、とか。完璧な母親になろうと気疲れしてしまう、とか。夫となる者がしっかりしてないと家庭が崩壊してしまう、とか。いやそもそもマタニティーブルーとは産後の症状を言うのであって、とか。等々。
どれが本当でどれが嘘かも分からない情報を右から左へ聞き流しながらも、分かった事はひとつだけ。

俺がこんな不安を感じていてはいけない、という事だった。




「おい! 名前、何してるんだよ」
「え、何って、片付けしてるんだよ」
「いや、座ってないとダメだろ。妊娠は、初期の方が辛いって言うだろ」
「ええ、でも私、今日は調子が良いよ?」
「だーめ。ほら、お茶淹れて来てあげるから座ってて」
「私、コーヒーが飲みたいなぁ」
「コーヒーのカフェインは妊娠中には毒なんだよ」

それからの日々は、妊娠とか出産について勉強をする日々だった。成歩堂さんの言っていたマタニティーブルーだかなんだかにも気を遣えるよう、色々な本を読み漁って、最終的には妊婦本人の名前よりも知識が豊富になってしまったようだ。2人で住み始めた部屋の中、名前はいつもいつも見ていないと危なかっかしくて仕方がない。
荷台に乗って食器棚の上を片付けていたらしい名前をそうっと降ろし、手を引いてソファに座らせる。

「意外だなぁ。法介って妊婦さんへの気遣いも出来るんだ」

いたずらっぽく笑った名前に、むっと口を尖らせて見せる

「不満ならもうやらないぞ」
「……嘘。本当は知ってるよ、法介が気遣いも出来て優しい人だってこと」
「……ありがとう」

そうか。上手く出来ているなら、良かった

「…………っ……」

曇る心中を隠しながらキッチンへと向かえば、名前の視界から逸れた瞬間に、胸の苦しみに耐えきれず蹲る。妊娠が発覚してからというもの、時々こういった胸の苦しみに苛まれた。原因も分からない、正体不明の苦しみが胸に巣食う。
けれど、名前に相談することはしなかった。
それは、ある懸念が心の中に引っかかっているから。

「法介ー? 早くー」
「……ちょっと待ってろって!」

嘘を吐き、隠し事をしている自覚をしながらも、俺は優しく、出来る夫でありたいのだ。
新しくできる家族を、手放さない為に





妊娠が発覚してから早数ヶ月。名前のつわりなんかも大分落ち着いてきて、事務所での簡単な仕事も再開出来るようだった。名前との割と久々の再会に、みぬきちゃんも希月さんも浮き足立って名前に話かけている。

「名前さん、赤ちゃんもう動いたりしてますか?? お腹の中で蹴ったりは?」
「うん、もう胎動は始まってるよ。なんだか、"生きてるんだなぁ"って実感するよね」
「わあ、生命の神秘!って感じがします! もう、女の子か男の子とかは分かってるんですか?」
「今度の検査で分かるだろうって」
「すっごく楽しみですね! 名前さん、私達にも是非知らせて下さいねっ」

それにしても、事務所の冷房が少し効きすぎている。俺にとってはあまりなんともない寒さだが、女性の身体には少し冷えるかもしれない。
きゃあきゃあと盛り上がっている女性陣の中心へと近づいて、名前へとカーディガンを差し出した。

「ほら、名前。カーディガン。」
「あ、ありがとう法介! 少し肌寒かったから」
「へえ、オドロキ先輩、なんだかスマートで"出来る夫"って感じがします!」
「そうなの。法介、家でも私の事よく気遣ってくれてすごく助かってるんだ」
「ええ、オドロキさんが!? そんなの、全然、これっぽっちも信じられません!」
「ちょっとは信じてくれてもいいだろ……」

そして、話は俺を置いてまた盛り上がってしまう。すごすごと自分の席へと戻る俺に、今度は成歩堂さんが声を掛けて来た。

「はは、オドロキくん、良き夫が出来てるみたいだね」
「成歩堂さんまで……。今では、名前よりも出産の知識があるんですからね」
「まあまあ、良い事だと思うよ」

ははは、とまた顎を摩り笑いながら、成歩堂さんは少し意味ありげな視線を俺に寄越した。

「でも、オドロキくん、最近少し疲れてないかい?」
「?? 何の、事ですか?」
「いや、"大丈夫"かなって、思っただけだよ」

じっと、見下ろされる。
そして、俺は何か分からない子どもの様に、無邪気に返事をして見せた。

「……はい、俺、大丈夫です!」
「…………そっか。頑張って、名前ちゃんを支えてあげなね」
「はいっ!!」

元気に返事をしてから、名前達の元へ戻る俺は、後ろで成歩堂さんが厳しい顔をしているのに気づくことは出来なかった。

( オドロキくん……サイコ・ロックが出てるんだよ。でも、僕が口を出せる事では無いし、名前ちゃんも気づいてるみたいだから……今はまだ、様子見かな)








『必ず迎えに行くからな』

「…………っ!! ……はぁ、夢か……」


魘されて夢から飛び起きると、身体は汗でびっしょりと濡れていた。スヤスヤと寝息を立てて隣で眠っている名前を起こさないよう気をつけながら、キッチンへと向かい水を飲んだ。そのまま、ちょろちょろと流れる水を眺めながら先ほど見た夢のことを考える。
最近、毎日のように、クラインでのことを夢に見る。そして毎回、迎えに来ると誓ったドゥルクを最後に、夢から覚めるのだ。迎えに来てくれるような続きは、見たことが無い。
当たり前だ。実際、ドゥルクは迎えになんか来なかった。
無駄な考えを振り払うようにして、もう一度コップいっぱいの水を煽る。

魘される原因は、迎えに来ないドゥルク以外にも分かっているのだ。
キュッと、水道を止めてから、蛇口からポタポタと滴り落ちていく水を眺める。その光景はあまりにも現代的で、自分の幼い頃との光景とは違い過ぎた。

(川を流れる水の音)
水道から落ちる水の音

(獣臭くてスパイスの効いた味)
少し塩気の多い調味料の味

(森に漂う草花の香り)
柔軟剤のカモミールの香り

俺の中に残る"家族"と、これから先できる"家族"のギャップに、頭がクラクラする思いだった。
俺と名前とでは育ってきた環境が違い過ぎた事に、彼女の妊娠が発覚した、よりによって今に漸く思い至ってしまったのだ

(まただ……)

また、得体の知れない苦しみが、胸の中を支配する。どうしようもなく、息が詰まるような苦しみに、思わず胸を抑える。

その時。後ろからそっと、暖かな体温が触れて、俺の背中を包み込んだ

「法介、眠れないの?」
「…………名前か。ダメだろ、こんな時間まで起きてたら。身体に障るよ?」
「私は、大丈夫だよ。それよりも、法介の方が心配だよ。最近眠れてないでしょ?」
「そんなことないよ。俺は、大丈夫。何にもないったら」
「法介、嘘をつくのは止めて」

ドキリ、心臓が止まるかと思うほどに緊張してしまい、身体が無意識のうちに強張る

「何もないなんて、あるわけ無いでしょ」

そう言って、名前は俺の背中に顔を埋める。名前の声は少しだけ涙声で、本当に心配してくれているのだと分かった。

「ねぇ、法介。何を悩んでるの? ずっと、最近眠れない程に、何を考えてるの」

その問いに、俺は答えることが出来ない。
だって、それを言ってしまえば、これから出来る家族が、俺の家族が崩壊してしまうんじゃないかって、それだけが恐ろしかった
けれど、俺の恐れや葛藤に気づいている筈の名前は、押し黙る俺を許してはくれなかった。

「法介、無理しないで。子どもが生まれること、本当は、あまり嬉しくはなかったんじゃないの?」
「っ!!」

ヒュッと喉が鳴り、決定的な反応を、俺は示してしまう

「…………どうして」
「だって、妊娠が分かってからの法介、ちょっと変だったから。……いや、私も、最初は分からなかった。だけど、膨らんでくるお腹を見る度に、法介が妙に優しくて、変だなって」
「別に、妊婦に優しくするのは、当たり前だろ……」
「違う、違うよ。法介は妊娠である私に優しくしてたんじゃなかった」
「そんなことない……」
「法介は、寧ろ私たちのことを怖がって」
「もう、やめてくれよっ!!!」

俺の背中を抱く名前の身体が強張る。本当は俺だって、こんな大きな声で名前を怖がらせたくなんかないのに、言葉は止まらなかった。

「じゃあ、俺が、俺は、どうしたら良かったんだよ!? 子どもが嫌いとか、家族が出来ることが嬉しくないとか、そんなことない筈なのに!! どうしようもなく苦しくて、産まれてくる赤ん坊が、こ、こ、怖い、だなんて……!」
「…………。」
「俺は、おれは、子どものことを愛せないんじゃないかって……誰にも、名前になんて尚更、言えるわけないだろぉ…………!!」

俺には、名前みたいにそれを聞いてくれる家族も居ないのだから。
知らず知らずのうちに息は荒くなり、過呼吸の時の様に呼吸が苦しく感じた。またも胸を押さえて、巣食う苦しみをやり過ごす。
遂に、遂に俺は言ってしまったのだ。他でもない、妻である名前に、子どものことを愛せないと。夫である、この俺が。
しかし、絶対に拒絶されると思っていた名前の答えは、俺には意外なものだった。

「法介。……大丈夫、大丈夫」
「 !! 」
「法介……怖がらないであげてよ、私達の赤ちゃんを」

子守唄を歌う様な、優しい声で、彼女は続ける

「あなたは、ちゃんとこの子を愛せてるよ」

「どういう、ことだ……?」
「それだけ法介が、この子の事で悩んでくれてるってことは、それだけこの子を愛してくれてるって事だと思うよ」
ほら、好きの反対は無関心って言うじゃない

その言葉に、王泥喜は目を瞬かせる。
この苦しみや悩みは、自分が心の底で子どもを忌み嫌っているものではないかと恐れていた。だからこそ、その恐れを隠そうと、名前に良き夫として、良き父親として振る舞おうとしていた。
だからこの苦しみが、子どもへの愛から来るものだなんて、考えつきもしなかったのだ。

「いやでも……こんな苦しみは、愛なんかじゃ無いよ。俺がほんとに子どもを愛しているなら、こんな苦しい訳、ないじゃないか」
「私には、法介の苦しみを完全に理解することは出来ない。けどね、子どもに対してそうやって、自分の気持ちに悩んでくれることは、間違いなく愛だと……私は断言出来る」

名前から断言されようと、俺にはまだ、よく分からない。しかし、名前は、俺のささくれ立った心の針をひとつひとつ取り除くみたいに、また優しく声をかけ続ける。

「でもね、法介。私が法介の苦しみを分かってあげられないのは、法介のことを知らないからだよ」
「俺たちは、十分、分かり合ってるよ。」

好きな食べ物、嫌いな言葉、初めて泣いた映画、思い出の場所。彼女のことなら、きっとそれら全てを分かっていると、そう思う。なのに、名前はそれを否定する。

「ねえ、法介。それだけじゃ、ダメだよ」
「でも、これ以上、何を話すんだよ」
「何でもいいよ……法介の考えてること、法介のこと、何でも教えて。私は、法介を知らなすぎるよ」
「…………俺は、」

本当は、分かっている。俺は、基本的に誰にも、過去を話す事は無かった。育ての親が、国家反逆者で犯罪者だなんて、悪い冗談みたいだ。生みの親さえも片方行方知れずで片方死んじまってるなんて、誰に言っても面白くなんか無い話だと。

ただ、結婚するこの人になら、或いは。

そうして俺は、少しずつ、過去を語り始める。
名前は、ただ黙って、俺の過去を聞いていた。そして、犯罪者であるドゥルクのことを言うことも、先程の告白並みに勇気が要ることだったけれど、名前は俺にとっての優しい父を否定することも、そしてその父に育てられた俺を否定することも一切無かった。そうして全てを語り合えた俺と名前との間に静寂が落ちる。

そして、
名前は小さく問う

「……法介」
「なに」
「寂しい?」
「………………。」


どうして、子どもの事を考えると胸が苦しくなるのか。俺を残して死んだ父親。行方の分からない母親。迎えに来ることのない、父。
忘れようとしていた、忘れられない事実。
それが全て、俺の子どもの存在によって強制的に思い起こさせられる。眠れぬ夜を過ごす程に。
この苦しさの名前が、ずっと分からなかった。


「そうかも、しれない」


声が、少し震えた

寂しい。寂しいのか、俺は。
俺の側に誰も居てくれなかったことが、寂しかったんだ
くるりと身体を反転させて、名前と正面から向き合う。最近ますます大きくなってきたお腹は、嫌でも俺の目に入った。しかし、寂しさを自覚した途端に、この得体の知れない苦しみが少し和らいだ様に思えた。

「法介、寂しいとか、苦しいとか、言ってもいいんだよ。私たちは、家族になるんだから」
「家族……」
「私ね、結婚とか、妊娠とか分かったりしてから、法介のこと何にも知らなかったんだなって、気づいたよ。もう、付き合ってから随分経つのにね」
「そんなこと、無いよ」
「ううん。法介が、法介の家族のことを話してくれたこと、凄く嬉しいよ」

名前が、俺の頬に手をやって拭ってみせてから漸く、俺が泣いていた事に気づく。涙が出るなんて、いつぶりなのか。葵が亡くなった時だって、泣かなかったのに。
いや、泣けなかったのかも、しれない。

そして名前も、静かに涙を落としていた。
たまらなくなって、思わず名前を抱き締める。密着する事で名前の膨らんだお腹が俺にも当たるのを感じて、俺達の子どもも一緒に抱き締めてるみたいだった。
名前が、子どもをあやすみたいに背中をポンポンと叩いてくれながら、涙声で続ける

「法介、私を信頼して、話してくれてありがとう」
「……うん」
「法介の気持ちに、気づいてあげられなくってごめんね」
「…………うん」
「きっとね、寂しいなんて言ってられないくらいに大変で、忙しい日常が待ってるよ。大丈夫。忙しくて大変だけど、きっとそれが愛おしくてたまらないから。
でももしもそれでも寂しい時は、私もこの子もずっと隣に居てあげる」

喉がカラカラに乾くみたいな寂しさを、2人が埋めてくれるなら。きっとそれは幸せで、悪くないのかもしれない。そう思える。
ただ今は、胸がいっぱいでその言葉に肯定の言葉さえも出せなかったから。

名前を更に、強く強く抱き締めた








「オドロキさん、なんて言うか……」
「最近浮かれちゃってるねぇ」
「喜びの感情が、爆発してますよ!」
「ま、もうすぐだって言うし、仕方ないのかな?」

成歩堂なんでも事務所のみんなが見つめる先には、お腹の大きな名前の周りを、忙しなく動き回っている王泥喜の姿があった。お茶を用意したり、転ばないよう周りを片付けたりと、せかせか世話を焼きながらも、同時に弁護士としての仕事もこなしていた。

「ま、ちょっと過保護過ぎる気もするけどね……。」
「そんなに過保護になるなら、なんで名前さんをわざわざ事務所に連れてくるのかって聞いたんです。そしたら、"側に居ないと不安" なんだそうですよ!」

一方、事務所のみんなが後ろで噂するのを聞きながらも、王泥喜は名前の世話を甲斐甲斐しく焼くことを止めなかった。

「名前、寒くはない?良かったらカーディガン持ってくるよ」
「大丈夫、別に寒くないったら。さっきも言ってたじゃない、それ」
「あれ? そうだっけ? でも、名前の身体に何かあったら、お腹の子にも影響するんだぞ。 あ! 俺、麦茶淹れてくるよ、カフェイン入ってないから」
「あ、法介いいったら! ……行っちゃった。」

給油室へと駆け込んだ王泥喜の背中を眺めながら、名前は小さく息を吐く。そこへ、後ろから眺めていた事務所のみんなも集まって名前に同情した。

「なーんか、オドロキさんソワソワしっぱなしですね!」
「そうなの。法介ったら、お父さんがそんなにソワソワしてたら、私がしっかりしてないといけないじゃない」
「あはは、確かに。名前ちゃんも子どもができるまでは少しおっちょこちょいな所があったのに、すっかり母親らしくなっちゃって」
「いやいや、私もまだまだですよ。でも、法介がこんな感じだから、最近は私がしっかりせざるを得なくなっちゃって」
「最初はオドロキさんの方が"出来る夫"してたのに、今は子どもみたいですよ!」
「ほーんと、0か1かじゃなくて、間を取ることって出来ないんですかね。先輩は」
「まあでも、それがオドロキくんの良い所なのかもね。常に全力ってやつ」

そうして4人で雑談をしていた所に、噂の渦中の人物が戻ってくる。その手には、事務所全員分のお茶を持って。みぬきや心音にもお茶を渡してから、名前の前に麦茶を置く王泥喜に、成歩堂は微笑んだ。

「なんか、オドロキくんも大丈夫そうだね。なんだかんだで良いパパになれそうだ」
「……はい、俺、大丈夫です!」

もう、偽りの笑顔を浮かべることも、サイコ・ロックが出ることも無かった。

もう子どもがお腹にいる事実を突きつけられようと、以前の様な苦しみはもう無い。

「もうすぐですね〜どんな赤ちゃんかなぁ!」
「ふふ、名前さんに似て可愛いに、絶対決まってますよ!!」
「俺にも似てて、可愛いに決まってるだろ!」
「産まれたら、お見舞いに行くからね」
「はい、ありがとうございます」

名前は、温かな気持ちで事務所のみんなの言葉を受け取る。名前と王泥喜を見守る3人の事務所の仲間。
そう、まるで一つの家族の様に
隣に座る法介にも、いつかそれを感じることが出来れば良いと思う


「元気に産まれて来いよ……」
「法介、そんなにお腹さすったって、予定日が早まったりはしないよ」
「……別に、良いだろ。楽しみなんだよ」

子どもみたいに拗ねる俺の様子を見て、名前も、成歩堂さん達も笑って見せた。



だって、早く会いたくて仕方ないんだ

君の体に、巣食う愛情に。




imagesong ふたりごと/RADWIMPS


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Elleさんへ

お久しぶりです、覚えていらっしゃいますか? Elleさんの書くオドロキ先輩の話が大好きなアズマです(笑)
この度は、ご出産おめでとうございます。
去年のブログからお知らせを見て、私にも何かお祝いが出来ればと思ったのですが、なかなか筆が進まずこんな時期になってしまいました(^^;)
一応出産直前を想定して書いたものですが、間に合ってなかったら申し訳ないです…。
せっかくならElleさんの好きなオドロキくんが、夫としてドキドキさせてくれるスパダリな話を書きたかったのですが、私には到底、Elleさんの描く最高にドキドキする夢小説は書けそうにないと撃沈(笑) また、出産に掛けた話が書きたかったけど、オドロキくんと結婚・出産が私の中でどうにも噛み合わず、悩み続きの半年間でした。
今回の話は、もしかしたらモヤモヤする終わりであったかもしれません。私には結婚も出産も経験が無く、Elleさんにとって失礼な内容を知らず知らずのうちに書いてしまったかもしれません。もしもご不快な思いをされた場合には、申し訳ありません。突き返して下さって構いません……(´ω`)
こっそりとうちのリンクを張っていただけたこと、気づいた時はとても嬉しかったです。ありがとうございました。

Elleさんとその家族が幸せな家庭を築いていくことを願っています。