「兄さん、久しぶり」

私の名前は 王泥喜 名前。現在16歳。
日本とクライン王国という国の交換留学生として、クライン王国に在住している。

「名前!元気にしてたか?」

玄関を開けた先で笑う彼は私の実の兄で、名前は 王泥喜 奏介。
数年前から旅芸人として世界中をあちこち飛び回っていて、1年ほど前に結婚したという連絡が入っていた。今日はその結婚相手に会わせたいということで、私の住むクライン王国に旅行に来たのだ。

「うん。一人暮らしには慣れたし、ぼちぼちかな。文化的にはまだ慣れないとこもあるけど」
「2年ぶりくらいだったか?背、伸びたなぁ」
「そうかな?あ、それよりもさ、改めて結婚おめでとう」
「ああ!ありがとう。紹介するよ」

兄さんの後ろから、赤ん坊を抱いた女性が出てくる。とてもきれいな人だった。

「俺の嫁さんの 優海。それと、俺の息子、法介だ」
「よろしくお願いしますね、名前さん」

優海さんは私に向かってそう微笑んでくれた。
笑うともっときれいな人だ。

「は、はい!よろしくお願いします。……って、子どもができたなんて聞いて無いんだけど」
「ごめんな、驚かせたくってさ」

困ったような、照れたような笑い方で右腕を後ろに回し、左手で頭を掻くのは昔からの兄さんの癖だ。他の”きょうだい”曰く、私も似たような癖があるらしい。自分では全く気づかなかったが。

優海さんが抱えた、白い布で包まれた赤ん坊が、法介くん。
私の……甥っ子になるのか。
覗き込めば、ぱっちりと開かれたチョコレート色のお目々と目が合った。
法介くんにも兄さん譲りの2本のツノが生えているのが、なんだか可笑しかった。

「触ってみてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」

また優海さんは微笑み頷いてくれた。
この人の笑顔は、陽だまりのように暖かくて優しい。

恐る恐る、手を伸ばす。
赤ちゃんはとてもちっちゃくて頼りない存在に思えて、本当に触って潰れやしないかと心配な気持ち半分、でも好奇心には勝てなかった。


ぷにっ


「わっ……柔らかい」

試しにもう一度、ぷに。赤ちゃんのほっぺってこんなに柔らかいのか。
すべすべ ぷにぷに くせになりそう。
ずっと触っていたくなる。

ほっぺ以外もこんなに柔らかいものなのかと気になって、握られた手をつついてみたら、その小さな手に人差し指を掴まれた。
なんだっけ、確か、はあくはんしゃ?
小さな手で一生懸命私の指を掴んでいるのがすごくかわいい。暖かくて、ふにふにしてて、優しくて。

法介くんが私の目を見ながらきゃっきゃと笑いたて足をばたつかせる。

「私は 名前。よろしくね、法介くん」


天使みたいだ、 そう思った。