死ネタ、近親相姦?注意




リンクと共に旅をして、ガノンドロフを倒して、元の時代に戻ったって、また一緒に旅をして、ずっと一緒にいられるもんだと思ってたんだ。

かつての未来の夢を見る



「ここ、どこ…?」
「ハイラルっぽいけど、なんか少し違うネ」

先程ガノンドロフを倒し、ゼルダ姫によって元の時代に返してもらっていたはずだったのだが、何故かナビィと名前は平原のど真ん中に突っ立っていた。ただし、平原と言ってもハイラル平原の7年前の姿とは多少異なっているように感じる。ガノンドロフを討ち取った事による影響だろうか。いや、それならもっとのどかであってもいいような、なんだか少し平原が荒れている様な……。何処がどう違うのかと尋ねられたとしても具体的に答えられない様な違和感がある。

「それに、なんでリンク居ないんだろ…」
「きっと、私たちと違う場所にいるんじゃないカナ?」
「そうだね。ここで悩んでもしょうがないし、人が多そうなところ探してみよっか」



「リンク、見つからないね……」

リンクを探して早数週間が過ぎた。
散々探し歩いたのに、リンクは一向に見つからなかった。全身緑の服装なんて、キコリ族じゃない限り滅多にいないし、目撃情報も多そうなものなのに。
しかも、やはりここはハイラルで間違いなさそうだが、7年前とは違う、もっと未来、もしくは別の世界線なのではないかと名前は考えている。明らかに魔物の数が少なく、街で見る人々も見たことのない者ばかりだったからだ。そして何より、ガノンドロフの話を全く聞かない。
見慣れたはずの街なのに、見慣れない人々ばかりのこの世界が、居心地が悪くて仕方なかった。

「ねえナビィ。私…もう、リンクと会えないような…そんな予感がするの」
「なっ、何言ってるの名前!まだキコリの森は行ってないしさ、そこで見つかるかもしれないデショ?」
「仮にリンクがそこに居たとして、なんで私たちのこと探しに来てくれないんだろ…。だって、それって、リンクがいたとしても」

私たちを覚えてないかもしれないってことでしょ?

「名前…」
「……ごめん、こんな事言って、ごめんね…。でも、私もう疲れたよ…」

私たちはリンクを覚えているのに、リンクは私たちのことを覚えてないなんて、会えないこと以上に、もしかしたらショックを受けるかもしれない。ずるくて臆病な私は、事実を受け止める勇気が無いだけだ。

旅の途中も、私は怯えてばかりでリンクの足を引っ張ってばかりだった。勇者と共に旅をしていたくせに、とんだ皮肉だ。




私の身体に明らかな変化が出始めたのは、この世界で過ごし始めて3ヶ月ほど経った頃だった。
ナビィの、リンクが街をいつか訪れるかもしれないという言葉により、城下町の隅でひっそりと暮らしていた。時々魔物を狩ったりしては素材を売って生計を立てている。何事も無く、平和な日々を過ごしていた。魔王を倒すべく、襲いかかってくる魔物をやり過ごしながら旅をしていた時とは大違いだ。
ただ、最近はなんだか気分が悪くなったり、食欲が無かったり、逆に食欲が湧き出て食べ過ぎるなんてことがあり、ストレスが溜まってたりするのかなぁなんてのんきに考えていた。

「名前、なんかお腹大きくなった?」
「え、…最近食べ過ぎるもんなぁ」
「いや、太ったって意味じゃないヨ!…ねぇ、お医者さん行かない?食べ過ぎるよりも、吐いちゃう方が心配ダヨ…」
「ナビィ……分かった、ちゃんと診てもらうから」


それがまさか


「おそらく妊娠3ヶ月ほどでしょう」

「え、…え?」
「…ぇぇええええエエエ??!!」

驚いて叫んだのはナビィの方で、私は寧ろ何を言われたのか未だに理解が出来ず呆然としていた。
この医者は今なんて?
妊娠。つまりお腹の中に赤ちゃんがいるってこと?私に??

「父親に心当たりは…?」
「…あります」

まだ鮮明に思い出せる。サファイアの様に澄んだ青い瞳。陽光に煌めく金の髪。凛と佇む緑の背中。
忘れもしない。

忘れられる訳がない



「名前…本当にいいノ?」

あの後、医者からはもう少しまともな物をもっと食べる様にと注意を受けたりして、今は家路を歩いている。

「うん、いいの。」

少し膨れた様にも感じるお腹を撫でながらナビィにうなづく。
私が出した結論は、この子を産むことだった。ナビィは、リンクが居なくなったショックを未だに引きずっていて更に父親が居ない子を産む不安を抱える私を心配してくれているのだ。

「名前が良いならいいの…でも、…」
「…私ね、ナビィ」

きっと同じ不安や悲しみを抱えているのに、私を心配してくれる彼女はなんて優しい妖精だろう。なんて素敵な友達だろう。

「ずっと不安だった。リンクを覚えてるのは私達だけ…知ったような街なのに、知らない人がいっぱいいる。そしたらなんか…リンクと一緒に旅をしたことなんて、夢だったんじゃないかって、…リンクなんて勇者は本当は居なかったんじゃないかって…」
「……名前…」
「でもね、今は…リンクの子どもがこの中にいるんだよ?」

彼がいた証明が、このお腹の中にある

「だからね、私この子を産むよ。リンクを忘れないように。ずっと、リンクのこと覚えてられるように」

いつの間にか私とナビィの歩みは止まり、黄昏の中、お互いに向かい合っていた。

「ナビィ、今まで心配かけてごめんね。立派なお母さんになれるよう頑張るから、一緒に、この子を見守ってくれないかな?」
「〜〜っ、当たり前デショッ!今までずっと一緒だったんだから!」

泣いてるのかな
妖精の表情は見えないけど、ぐしゃぐしゃに泣いて笑っているような、そんな気がした。




数ヶ月後、私は無事に元気な男の子を出産した。
青い目も、金の髪も、どこもリンクにそっくりだった。一生懸命こちらに手を伸ばしてくる姿は愛おしくて仕方がない。

「ほら、リンク、泣かないで。怖い夢でも見たの?」
「いないいないバァ!いないいな〜い…バァ!」
「ふふ、ナビィ、リンク余計に泣いちゃってる」
「そんなぁ!」

私の言い様に、ナビィは八の字に飛び回りながらポコポコと怒っている。それを見てリンクはやっと笑ってくれた。


リンク、と呼んでいるのは、まだ私が時の勇者にもう一度出会えることを諦め切れていない証なのかもしれない。

でもね、今はもう、リンク、貴方がいなくても笑えるようになったよ
貴方がいない生活は少し寂しいけれど
ナビィと、リンクと、私の3人でここで待ってるから

私、今とても幸せ




迂闊だった。
戦える奴なんて、それが女なんて、真っ先に狙われるのは明白だったのに。リンクを抱え、咄嗟に盗んだ馬に乗り、ナビィと共に追っ手から逃げ惑う。

「まさか戦争が起きるなんて…!」

まだリンクも産まれたばかりなのに。
とにかく、森まで行けば撒けるだろう。それまでに後ろから矢を射って来る兵士からこの子達を守らねば。

「待て!」
「誰が待つかっての…!」

リンクを片手に抱え、もう一方の手は手綱を握っている為矢は使えない。それを知ってか、兵士は次々に矢を射って来る。
王政側だか反王政側だか知らないが、子連れの女を狙うなんて卑怯だろ!
仕方なく盾で身を守っていたが、それにも遂に限界が来てしまった。兵士の放った矢がリンクに当たりそうになったのだ。

「だめ…!」

私はリンクを咄嗟に庇おうとして、右肩に矢を受けてしまった。そのまま落馬してしまう勢いのまま、兵士の頭めがけてブーメランを投げつけ、足を勢いよく捻りながら地面に尻餅を着くような形で投げ出される。すぐさまリンクの様子を確認したが、どうやら無傷な様でナビィと同時にホッと息を吐いた。

「名前、大丈夫…?」
「うん、なんとか。それより、兵士は?」
「馬から落ちて気絶してるみたい。死んではないヨ」
「良かった…」

まあ落馬してるんだから足の一本二本折れてるだろうが、命があるだけ良しとして欲しい。…こっちは殺されかけたっていうのに甘いだろうか。

「名前、動いちゃダメ!安静にしてなきゃ!」
「平気だから。ここにいる方が危ないでしょ?」

ナビィも私も、傷だらけで、髪はドロドロで、一言で言ってしまえば満身創痍だった。今は一刻も早く安心できる場所で休みたい。

「っ…」

ズキズキと痛む肩に、もうだめかもしれないなんて、馬鹿なことを思った

その時

「名前!危ない!!」

兵士を撒いて油断していた私は、突然強い力で背中を押され、辛うじてリンクを庇いながらも地面に転がった。急いで振り返った先では、ナビィが魔物に襲われ羽を折り地に伏していた。

「ナビィ!」

ナビィに更に攻撃を加えようとする魔物からナビィを抱え上げて逃げる。私も背中に攻撃を受けながらも、なんとかコキリの森まで入り魔物を撒いた。



「あ"ぁーー___」

橋を渡りキコリの森の民家を抜けながら、デクの樹サマの元を目指す。両腕にリンクとナビィを抱え、足を引きずり、這うように、まるで私が魔物になったかのような酷い喘ぎ声をあげて。目が霞む。手足が痺れて冷たく感じる。なのに肩は燃えるように熱くて、息は勝手にあがっていく。

せめて、リンクだけでも

きっとデクの樹サマならリンクを助けてくれるはず

(この時感じていた、腹の底に渦巻く奇妙な違和感に蓋をしていた)


やっとの思いでデクの樹サマの御前に辿り着くことが出来た私は、膝から崩れ落ちながらも最後の力を振り絞ってデクの樹サマに乞い願う。

「デクの樹サマ…無礼を承知で申し上げます。この子を…リンクを…救ってやっては貰えませんか」
「…お主はハイリアから来た者か。戦火を逃れ、ここまでその赤子を預けに来たと言うのか?」
「はい…私はもうこの様に、立てる力も残っておりません。この子を、どうか…どうか…」
「…しかしな、ハイリアの女よ。その子はハイラル人。いずれ大人になる種族なんじゃ。一生こどものままでいるコキリ族と一緒に暮らすことは難しいじゃろう」
「!」
「悪いが、その子を引き取ることは出来ん」
「そんな…!どうして…」

リンクは、時の勇者は、ハイラル人でもコキリ族としてこの森に暮らしていたじゃないか

そこで私の中にずっと渦巻いていた違和感がハッキリと顔を出す。何か、この状況は、聞いたことがなかったか?
そう、違和感が確かなものになった瞬間だった

リンクの左手の甲が強い光を放ったのだ

「これは…」
その言葉は、デクの樹サマか私か、どちらの言葉だったのか。リンクの手の甲に光るそれは、確かに勇気のトライフォースだった。
ずっとずっと感じていた違和感が、やっとひとつに繋がった



そうか



今、やっと気がついた

ここは未来なんかでも、別の世界なんかでもない
このハイラルはガノンドロフが現れるずっと前で


この子が、時の勇者そのものなのだ


「リンク」


こちらを不思議そうに見つめるリンクの頬を、感覚が無くなった手で撫でる。


ずっと傍にいてくれたんだね


涙が溢れて止まらない。涙が伝う頬が熱い。
それならば、私がしなければならないことは一つだ。

「デクの樹サマ。この子はいずれハイラルにとって善い存在となります。私が約束します。だからどうか…」

「ワタシからもお願いします、デクの樹サマ…」

私がうずくまる様にデクの樹サマに頭を下げていた下から、ナビィが折れた羽によろけながらも飛んで出て来た。

「おぬし、名前は…?」
「ナビィといいます。ワタシは…2人の友達です」
「ふむぅ…おぬしの様な妖精は見たことも聞いたことも無いが…。」

自分の父親の様な存在に、”知らない”と言われる気持ちはどれ位のものだろうか。

この悲しみは、胸を引き裂かれる様な辛さは、きっとデクの樹サマにも理解出来ない私達だけのものだ

「お願いです…リンクを助けて…」
「デクの樹サマ…お願いシマス…」
「…分かった。ふたりに代わり、私がその子を引き取ろう」
「! ありがとうございます…!」

感謝してもしきれない。やはり涙は未だ止まらず視界が滲んでリンクの顔が良く見えない。
ゆっくりゆっくりと私とナビィはリンクに寄り添う。身体は凍える様に寒いが、リンクに触れた手と心は陽だまりの様にあたたかい。いつもはリンクの体は良い匂いがしたのだけれど、今は鼻が詰まって分からないのがひどく惜しい。

「リンク、大丈夫。大丈夫だからね。また会えるよ」

「キコリの森のみんなと仲良くネ…リンクに優しいヒトもきっといるカラ…」

「よく食べて、ちゃんと寝て、身体、壊さないようにね」

「寝坊助さんなのも、今は許してあげるヨ…」

リンクが笑う
めいいっぱいにこちらに手をのばして

頬に小さな彼の手が当てられて
私は寒気すら感じる心地よいまどろみに目を閉じた




「今日、1匹の妖精が産まれたところだ。その子にナビィと名付け、いずれその子どもがハイラルの役立つ日が来たとき供に着かせよう」


ああ、それは良い
また3人で旅をしよう

約束だよ


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