真田と、伝票に書き手続きを済ます。宅配便のお兄さんは一旦外へ出て、扉の外に置いてあった荷物を持ってきた。
にこやかにサービス精神旺盛な笑顔をもう一度浮かべて立ち去る。
おお、素晴らしき接客精神。

扉を閉めて抱えたままの荷物を床に降ろした。狭い狭い四畳半の部屋のド真ん中に鎮座する、それ。

「……これは、何が入っているのだ?」
差出人さえ不明。
そしてダンボールにはわざと複数の小さな穴が空けられており、ますます不思議な気分になる。思わず首を傾げてみるがそれに答えてくれる者はいない。
こういう時、一人暮らしだと寂しくなるものである。

なんとなく佐助のツッコミが懐かしいとぼんやり思った。
ああ、あの過保護すぎる親友の手料理が食べたくなってきた。そろそろ掃除もしなければいけないが、どこから手をつけてよいのかさっぱりわからん。
よし、今度呼ぼう。

もちろんそんな脱線した思案ばかりを巡らせても、目の前のそれが何かわかるわけもなく、とりあえず渡された伝票を眺めた。
両親かルを見下ろす。尚もがたがたがたと揺れていた。上下縦縦横横左に回って一回転。
え、何これ何これ何だこれ。
到着した途端にスイッチが入る時限爆弾とか何かだったのかこれは!
いきなり動き出した箱に恐怖を感じ、思わず壁際まで後ずさる。

もしあれが本当に爆弾とかだったら、俺は何をすればいいのだろうか。赤か白どちらかを切れとか、最後の部分しか知らんのだが。というかこれは俺が解体しなければいけないのか。厄介な。解体する工具どころかハサミもカッターもないような家に何故送って来るのだ。それをわざわざ狙ったのか。しかし俺ひとりを狙ってどうする。脅しても金は無いぞ。
長々と止まらない思考と連動して、止まる気配の無いダンボールの対処にふと一つの案が浮かんだ。

「そうだ、お湯だ」
以前佐助の家で、パソコンに熱い茶をぶっかけてご臨終させた経験があることを思い出す。
おお、名案じゃないか。
なんだかこれ以上にない対処法に思えてきた。

そばにあった講義で使うための新聞を広げて体を覆う。体を隠しながら片手だけを精一杯伸ばしてやかんを体から離し、じりじりとダンボールに近付いた。

「せ、精密機械だろうが何だろうが、お湯をこぼせば一発だろうと畳が焦げたような音がしたが今は気にする暇はない。
ガムテープを無理やりはがし中を見た。
すると、










「うにゃ」
いきなり差し込んだ光に目を細めて驚いている、猫がいた。

猫が、いたのだ。


「……………」
さぷらーいず。
とりあえず無言でふたをする。怒り狂ったような鳴き声と、ダンボールごしに振動が伝わってきたが、それでも構わずふたをする。非人道的な行為だとはわかっているが俺の心の安静のため、しばし猫には耐えてもらいたい。
本当に、すまない猫。

落ち着いて頭の中を整理してみた。
差出人不明目的不明な荷物から出てきたのは猫。

「母からの仕送りだろうか……?」
以前現金よりも現物(主に食べ物)を送ってくれとは言った。言ったのだが、誰が猫を送れと言った。
「……これを食えと?」
いやいやいや。まさかそこまでする人ではないか。そうだと信じたい。
第一差出人不明だから違うとわかっているのに何を言っているのだ、俺。混乱し過ぎだろう、俺。

とりあえず、いい加減猫をダンボールから出してやることにする。
「すまぬな、猫」
毛を逆立てて怒る猫に何度か引っかかれながらも脇の下に手を入れて持ち上げた。
顔るのか、耳を逆立て尻尾でぺしぺしと叩かれていたりする。

どうしたものかと猫とにらめっこをしてみるが、この状況が変わるはずもなく、とりあえずため息をついた。
「お前はどこから来たのだ?」
もちろん返事はない。
あっても困る。
再度ため息をつきながら猫を抱き、ダンボールを持ち上げて立った。
しかし若干重さの残るダンボールを訝しく思い中を覗くと、ドライフードの残骸や色褪せた毛布が入っていることに気づく。
餓死もせずここまで元気な理由はこれかと、ぼんやり思いながら冷蔵庫を開けた。
まずは何か食わせてやろう。牛乳あったかな。




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