「政宗様ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

奥州の朝は彼を敬愛する臣下の雄叫びから始まる、というわけではない。
叫んだのは片倉小十郎その人だ。

「お、気づいたな」
「気づきましたな」
片やにやりと、片や困ったように笑った。
前者は城主である政宗であり、後者は客人(一部にしか知られていないが)である幸村だ。
二人は政宗の自室ではなく普段人気のない突き当たりにいた。奥は倉庫になっており誰にも見つかりたくない時にと、政宗がよく使っていた通路である。

「ここならしばらくは見つからねえ。しばらく隠れ……」
きしきしと床がきしむ音がする。侍女達が忙(せわ)しなく走り回っているためかと思ったが、違う。
その足音は確かにこちらに向かって歩んできていた。
音が近づいてくると確信し心拍数が上昇した。
思った以上に近い。この距離では立て付けの悪い扉を開けて倉庫に入るのは居場所を知らせると同じだった。

「アンタちょっと壁に埋まってろ!」
小声で幸村を壁に押し付ける。本当に押し付けられはしないのだが、幸村はなんとも不思議な表情で体を埋め込んだ。
間髪入れずに政宗はそれに覆い被さる。
通路の手前で足音が止まった。苛立つような声が聞こえる。そしてそれは今一番出会いたくない人物のものだった。
「……小十郎だ」
「苛立っているようですな」
低い声色で二言三言呟いていたが、最後にため息が聞こえると共に足音が遠ざかっていった。

「……行ったか」
顔を見合わせ思わずため息を吐く。
「霊魂にも驚くような鼓動があることに驚きです」
ふふ、と忍ぶように笑い声をあげる幸村に政宗も釣られて笑い出す。
「Really? そいつはすげえな!一度経験したいもんだ」
「なかなかどうして楽しいものですぞ。……片倉殿には悪いが、たまにはこういうことも良いですな」
「まあたまには、な」
そう言って政宗は手に抱えたそれらを見た。
「しかし、少々やりすぎた気もしますが」
苦笑する幸村の目線の先にあるそれらを目にやった。

「ははは、働こうにも書くべきもんがなけりゃあなんもできねぇだろ!」
文と筆、硯である。
「あいつは働きすぎなんだ、あれがいわゆる masochist ってやつだ」
「まぞ?」
「自分をいじめて楽しむド変態ってことさ」
「…………」
「生々しいの想像すんなよ」
「し、してませんぞ」
「アンタは本当、わかりやすいな」
小十郎も少しはそうなればいいのにと政宗は呟いた。気を効かせているのか知らないがこんな無理を誰も頼んでいないのだ。
場所を変えるかと抱えた荷物を持ち直す。
倉庫を背に歩を進めた。

「ほーう…私のことをそんな輩だと思っていたのですか」

「あ」
「あ」
そして仁王立ちで進行を塞ぐのは、片倉小十郎。

「あなたには色々と話をしなければいけないようですねぇ…!もちろん真田、お前もだ!」
ばきり、ぼきり。
手を鳴らしながら小十郎が一歩また一歩と近づいてくる。
その表情は影により読めない。

「Oh,ご立腹かい小十郎?」
「かかか片倉殿、これは、そのですな」

「問答無用!」






\アッー/

なんか気をつかって伊達さんの仕事を減らそうと毎日がんばってた片倉さんとそれを止めさせようとしてる伊達さんの話。

小十郎はこれでも喜んでいるんだぜ、見えないけど


*同盟罷業=ストライキ

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