「それだとかすが先生の仕事放棄しかわかんねえんだけど」
「まだつづきがあるんだよ!」
というか子供相手に無地のパズル渡すとか教育者としてそれはいいのか。

〜数分前〜

「……こんなんできるわけねえじゃん」
先生の職場放棄に付き合わされ年中組には精神的に中々達観した考えの持ち主が多い。多いとはいえ所詮幼稚園児。
無地のパズルの難易度を舐めるなという話である。
ぶつぶつ呟きつつ元親は四隅から順にぱちぱちと組み立てようとしてみるもののそのピース自体を探し出すのにも一苦労だった。
それでもへそを曲げずに頑張っているのはひとえに人一倍の負けず嫌いのせいだろう。

そんな元親のそばに不機嫌そうな表情の少年が近づいた。
「む、なにをやっている」
「あ、もとなり」
かくかくしかじか。事情説明事情説明。
「……くだらん」
そう言い元就はパズルを一瞥した。
「そんなことにじかんをついやすひまがあるのなら、われのまいをみていろ」
と言いながら腰に下げた浅黄色のフラフープを元就は器用に回す。
くるりくるりと回っているそれはなかなか上手いものですぐに縁がぼやけていった。

しかし自慢気に何度も何度も、何度も何度も見せられていた元親はうんざりとした表情を浮かべ再度パズルに取りかかる。
「われをなぜみない!!」
そんな態度に気を悪くした元就はこの眼帯野郎とフラフープで元親の頭を殴った。
ぽかりと小突かれた衝撃で持っていたピースを落としたが集中していた元親はそれに何の反応も返さず黙々とピースを探す。
その様子に元就はさらに怒り出した。沸点の低い園児は自分を無視されることを殊更嫌うものである。

かんしゃくを起こした元就はフラフープを振り回す。
それが元親の後頭部にぶつかりその反動で机に額をぶつけてバラバラなジグソーパズルはさらにバラバラに。
それにはさすがに怒った元親はパズル抱えて走っていたら、政宗を見つけたというわけである。

よく見たら元親の額が少し赤くなっていたことに気づいた。
「…………………」
政宗は何も言わずに元親の頭を撫でる。
同情なんかじゃない。ただ単に頭を撫でたくなっただけだ。撫でたくなっただけなんだったら。

「なあ、まさむねはさすけせんせいのなんなんだ?」
「え?あ、ああ……友達だ」
政宗は元親と対峙するように腰を下ろし門の前でぱちりぱちりとふたりでパズルを解きながら会話をしていると元親が急に話題を変えた。少し戸惑ったがとりあえず当たり障りの返答を返す。
「それならさすけせんせいのこいびとってどんなひとかわかるか?」
「………は?」
目を見開いて固まる政宗。
え、何、お前ライバルか。

そんな視線に気づかず元親は話を続ける。
「あのせんせい、『俺には年下の可愛い恋人がいるんだ』とかたまにおしえてくれるから」
「…え、ああ、そうなのか」
そんな風に、思ってたんだ。
思わぬ人からの情報に軽く顔を赤らめた。
嬉しいけど、そんなこと園児相手に何言ってんだアンタ!もう!今度弁当作って持っていってやるんだからな!
てれてれと色づく頬を隠すためにうつむいているとなんで政宗が照れてんのと元親に不思議そうにされたがそんなことを気にする余裕もないくらい政宗の気分は高揚していた。
高揚していたのだが。

「『髪は暗い茶色で肩にかかるくらいで目は切れ長。背筋は凛として、どこまでも響き渡るような声。街中を歩いていたら見る人見る人が絶対に一度は振り返っちゃうくらいに可愛いんだよねえ』って、にやにやしながらのろけられたときにはこのせんせいのあたまのなかは、はなばたけなんだとおもった」
次の瞬間には下落。

「…………」
本気で何言ってんだお前。馬鹿、馬鹿馬鹿。

園児にまで哀れまれている佐助を慰めるべきか、何を人前で言っているのかと注意すべきか。
難しい所である。

「……そういえばまさむねもにてんだよな」
思いもよらなかった一言に政宗はうろたえた様子でごまかす。その態度はどう見ても何か知ってますオーラが出ていたのだが相手は園児。
というか恋人の職場で彼が特殊な性癖の持ち主なんだとはさすがに言えない。
「あ!?え、えっとな!そう!実はそれ俺の妹なんだ!」
「え、まじか!」
「ああ、マジだぜ」
驚いて政宗を見つめる元親。
腕を組み爽やかに笑いかけているが現在政宗の内心はやべーとんでもない嘘ついちまったとか冷や汗でだらだらである。
嘘はいかんよ。嘘は。
しかしそんなことを他でもないこの幼稚園の前でやるのは単なる自殺志願である。この園にはびこる神。この近くに住む住人達に近いうちに犯罪を起こしそうなランキング堂々第1位に入ってたりもする。
そんな親馬鹿園長様、上杉謙信その人がモップを持って颯爽と登場してしまうからである。

「わたくしのかわいいこどもたちにはゆびいっぽんふれさせません!もとちかくんをかえしなさいこのぺどやろうが!!」

大声で叫ぶ声が聞こえその方向を思わず向く政宗と元親。
身に覚えのない政宗はきょとん。
園長の言っている意味のわからない元親もきょとん。

ちなみにぺどとはかすが先生の愛情が謙信から園児達に移ったりするようなことです。ありえないけど。

唖然と立ち尽くす政宗にその細身の体を器用に駆使し渾身の力で殴りかかる謙信。
しかしそこで元親はいつもの園長の言葉を思い出す。
なにかあやしいひとがちかづいてきてもあんしんしてください。わたくしがとんでかけつけますからね。
そこまで考えて一つ気付いた。

(ま さ む ね が な ぐ ら れ る!)

「せ、せんせいだめ!まさむねはさすけせんせいのともだち――」
「……え?」
事情を知る元親が誤解だと叫ぶが時すでに遅し。
勢いのつき過ぎたモップはその場に留まることは叶わず頭にごつん。慣性の法則に逆らうことは無理なのである。発見したニュートン先生すごいね。
「あ!」
勢い余ってモップが頭に当たる。その光景に謙信が口を開けてポカーンとマヌケ面を日陰から見ていたかすが先生はレアショットだ!とか叫びながらデジカメを構えていたとかなんとか。ちなみに彼女がご近所さん犯罪ランキング第2位。
この園にまともな大人は、多分いない。

そんな園内事情は露知らず糸の切れた人形のように政宗は力無く倒れこんだ。
「う、うわあ!まさむねがしんだ!」
犯行第一発見者な元親は先生の人殺しとわんわん泣き叫び。
その様子に謙信おろおろ。
日陰からかすが先生は鼻血を出しながらにやにや。

「あ、あのまちがえてしまいました。ごめんなさいもとちかくん」
でもこの不審し…いや、このお兄さんは死んでいませんから泣かないでくださいとうろたえながら答えるがそんな園長が誰よりも一番うろたえていたのである。

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