いつもいつもおかしな話ばっかなんだからたまにはありがちな話だっていいじゃない! というわけでほさす、第三話。 佐助の家(=武田邸)にてはじまりはじまり。 「ねーえ政宗ー……」 寄り添うように隣に座っている佐助が何か言っているようだがそれを無視した。少し前からだろうか。この真っ白なジグソーパズルを佐助の部屋の持ち込むようになったのは。 パズルなんて好きだった。そう問われても、理由は言わない。 「なあ佐助」 「ん、なに?」 「アンタが保育士なんて仕事してる理由わかるぜ。子供って可愛いなあ」 佐助の顔を見るとまるでアヒルのような顔をしていた。 「……ひっでえ間抜け面」 「え、なになになに、なんなのその心境の変化」 「別に、なんでもねえよ」 その会話を切り目に部屋の中にはパズルをはめる音しか聞こえなくなる。穏やかな時間だ。隣の男がちらちら俺を見てさえいなければ。 「で?さっきから何の用なんだ」 「あ、わかる?あのさー……その、ね、なんといいますか」 わからいでか。目を泳がせてもごもごと要領を得ずに話しかける佐助に珍しいなと思った。 「子供達が『せんせーのかのじょにあいたい』って言うんだけど」 「……………で?」 「女装し「それ以上言ったら殴る」」 以前幼稚園に行った時に知ったがこの男は園児達に気持ち悪いくらいに俺のことを話していたのだ。あほかと。しばらくその話で揉めていた期間がありその時は『人にむやみやたらに話すな、TPOを考えろ、マックおごれ』と政宗に軍配が上がった。 「えー!せっかく服も用意したのに!?」 びろんと女性用清掃員作業服、いわゆるメイド服を取り出す佐助。 「そんな私服の女いるわけねえだろ!」 ずれるツッコミ所。 私服がメイドな女は嫌だし、佐助の趣味だとも思われそうだし、第一そんな服どこから持ってきたと政宗はとりあえず声を張り上げた。それでうやむやにしたかったとも言える。 しかしその結果、あまり知りたくない事実を知ることになる。 「え、旦那から借りたんだけど」 「…………………は?」 最近なんか耳が遠くなった気がすると耳に手を当てる政宗。再度佐助に今の言葉を聞き直す(one more)。 「だから、旦那」 旦那。 (1)寺や僧に金品を寄付する人。施主。檀家(だんか)。 (2)商家の奉公人などがその主人を敬っていう語。 (3)商人などが男性の客を呼ぶときに使う語。また、役者・芸人などが自分をひいきにしてくれる人を敬っていう語。 (4)妻が他人に対して自分の夫をいう語。また、他人の夫をいう語。 余計な知識が頭から流れる。違う違う。佐助の言う旦那に当てはまる人物なんて一人しかいないだろう。幸村だ。 約十年前から現在進行形でストーカーな幸村は、そりゃあベクトルの方向こそ他人と少しは違うが、馬鹿なくらいまっすぐで素直な人間だったはずなのに。 今度ばかしは走る方向を間違えてはいないか。 「…………………。」 ちなみに最近、幸村の部屋のクローゼットの中の大半は女装というかコスプレというか、日常生活で着る必要性のない服が占めているとか。 この11年で幸村は色んな意味で変化、否、進化したらしい。 幸村のことを頭を振り記憶から消した。 その様子を眺めていた佐助は自身の要求を受け入れてもらえないと思い、なんでさと文句を言う。頬を膨らませながら頬杖をつくその姿は、なんというか。 「佐助、正直、それは無い」 お前何歳だと、まだ声変わりもしていない中学生に冷静に諭される23歳。 佐助の頬の空気を無理やり抜いてやり、誰が女装なんて気味悪いことするかと政宗は鼻で笑った。 「えーでもさ!ほら!確か次の水曜日って学校代休じゃん!だから!!」 「いーやーだー!休みの日くらいはどこにも行きたくない。家にこもる。断じてこもる。こもらせろ!」 「インドアぶんなー」 「ガキどもなんて適当に言いくるめばなんとかなるだろ。俺を巻き込むんじゃねえよ馬鹿」 「さっきあんなに可愛いって言ってたのに」 「元親は別だ」 「あ!あのパズルやっぱり親ちゃんからもらったんだな!なんだ!浮気か!」 「うるせえ!」 「口が悪い!!」 昔はあんなに可愛かったのに!と泣き真似をする佐助に苛立ち、政宗も思わず言い返す。 「あーあーあー!そうですね!どうせお前はガキの時の俺にしか興味がなかったんだろうよ!」 この変態!と叫んだ。 「男なら誰しも一度は通る道なんだからしょうがないじゃん!」 それに対し男の浪漫という名の屁理屈を返す佐助。しかしロリコンは誰しも通る道ではない。 「そんなに変態が好きなら制服とか着て喜ぶような奴と付き合えよ!馬鹿!」 「じゃあ政宗が着ちゃえばいいじゃない!」 「なるほど!……って、は?」 「セーラーもあるよ!」 気持ち悪いくらいに目を輝かせた佐助にいつの間にか手に持っていた制服を押し付けられていた。よく見るとウチの学校の女子の制服だ。何やってんだ真田。 そんなことに気を取られていると服の上からセーラー服を被せられる。 「うわっ、何すんだよ!」 「これ以上文句言うと旦那のタンスの奥に眠ってる秘蔵コレクションが出てくるよ!」 「どんな脅しだよ!」 「さあ、どうする?セーラー服を着るか、秘蔵コレクションを着るか!」 「……秘蔵って何だ」 「ヒントを言うと、神社、プール、オフィス、耳、飛行機、病院、サンタ、」 「もういい!」 はああ、と重いため息をついてセーラー服を脱ぐ。 「これ、着るから、それでいいか」 「…………いっっっっっやっほぉぉぉおおおおおおおい!」 十年前の俺に、本当にこの男でいいのか聞きたい。 ◇ 提供、明鏡国語辞典。 |