そして水曜日。 「……髪はこのままで良いんだよな」 朝早くから武田邸にやって来て制服を着るとかどんな罰ゲームだと。きっと今俺の顔はしかめにしかめたとんでもない不機嫌面だろう。 人生最悪の朝だ。 ……何度だって言ってやる。 人生最悪の朝だ! 紺色のセーラー服に赤いリボン。スカート丈はややひざ上で真っ黒のハイソックス。まさにテンプレートな制服を改めて見直す。 制服自体は可愛い、が! 「なんで、サイズがピッタリなんだ幸村君よぉ……!」 「うっわ!政宗似合いすぎ!!!ムネ子ちゃん可愛いよムネ子ちゃん」 「やめろ気持ち悪い!というかムネ子ちゃんてなんだよ」 「俺の彼女の名前!」 「……もうやだ本当に気持ち悪いこいつ」 目をきらきらと輝かして賞賛する佐助に本日何度目かのため息をつく。誉められているのにこうも嫌な気分にさせられることがあるのかと驚き、そして第一何故俺がこんなことをしなければいけないのかと強く拳を握りしめた。 佐助、とりあえず殴らせろ。 幼稚園へと向かう佐助の数十分程後に家を出る。太陽はこれでもかと地面を照らしセミ共はみんみんと耳元で鳴り響き雲一つない。 今年は例年以上の猛暑日が続くとニュースで言っていたことを思い出した。立ち止まり太陽に手をかざす。 目の前で誰かが立ち止まり同じように手をかざして空を見ていた。この暑さに参っているのは俺だけじゃないようだ。手のひらに隠れて顔は見えなかった。 陰に入りながら幼稚園に向かおうと手を下ろす。 と目の前によく知っている男がいた。 「真田?」 「えっ…………あ、あああああああああああ政宗殿!?」 はっ!名前呼んでどうすんだ!! 「馬っ鹿!名前呼ぶんじゃねえよ!あと声小さくしろ」 夏服姿の真田の胸ぐらを咄嗟に掴み小声で話す。 その間も真田の視線は上下左右さまよっていた。 「ままま政宗殿……その格好は、まさか……」 「……罰ゲーム」 暑い暑いと思っていたのに何故か冷たい汗が出てきた。 どうするどうやって口止めするというかこいつなんでこんなに顔赤いんだよ何なんだ本当に俺の周りの男は何なんだよおい。 「おい真田ァ、女といちゃついてねえでさっさと部活来いよ」 どうやら部活の先輩らしき人が幸村に声を投げる。 制服のせいか一応女に見えたらしい。急いで顔を真田で隠す。 「いっ、いちゃついてなどおりませぬ!」 その反応に男は笑いながら歩いていった。というかこんだけで真っ赤になる真田君どうよ。 「……やーいピュアボーイ」 「笑わないでください…」 どうやらこいつは今から朝練らしい。暇だったんならこのまま壁にしようと思ったのに。ちっ。 「アンタ今から朝練なんだろ?さっさとあの先輩追っかけたらどうだ」 「そ、そうですが、でも」 暑い暑い暑い。なんか真田の反応が予想通りすぎてつまんねえ。手で扇いだくらいじゃ全然涼しくならなかった。やばい頭がなんか暑い。ぼーっとしてきた。ふわふわする。あとうじうじしてる真田にいらいらしてきた。暑いから。 「いいから早く行けよピュアボーイ」 掴んだ胸ぐらを引っ張り目の前に見えた赤い頬に唇を近づけた。耳元に聞こえるリップ音。 「まっままままま政宗殿!?」 「あっはっは!」 胸ぐらから手を離し笑いながら逃げた。後ろからとんでもなくどもっている真田の声が聞こえる。 よし、気分転換になった。 ◇ なんてビッチ。 |