とある昼下がり。


真っ黒で少しだらしなさそうにしわのつく学ランを着た少年がとある幼稚園の中をちらちらと覗いていた。
少年の名前は伊達政宗。この市内にあるとある中学校の二年生である。
少し不審な様子で何をしているのかというとこの園で先生をしている恋人を待っているのだ。
ちなみに先生は男。政宗も男。
そういう世界もあるものさ。

「いねえ、な」
政宗は身をかがめて子供達の遊ぶ様子を眺めているが子供が目的というわけではない。ただちょっとかがんでた方が向こうにバレにくいからだ。
別に他意はない。ないんだったら。
というわけで会社へ早足で向かうサラリーマンやママチャリに乗った道行く通行人こっちみんな。訴えんぞ。

「……って何言ってんだ俺」
誰に対しての言い訳なのかは知らないがとりあえず頭を振って政宗は気持ちを入れ替えたのであった。


保育士佐助と中学生政宗。
ぐだぐだと2話目はじまりはじまり。






昔の自分は憧れていた。
憧れていたんだ。
年上の、自分のことを一番に考えてくれる優しいお兄さん。
自惚れているとは思っていた。けど、いつも自分にだけ特別優しくしてくれていた気がしていたのだ。
勝手にそう思うだけでも胸が暖かくなった。

そんな曖昧な関係が、いつ変わったのだろう。
佐助が今まで見たことの無い真剣な表情で好きだと言ってくれた。

今では恋情。
自分だって、ずっとずっと好きだった。
その気持ちを本当に意識したのはこの時からかもしれない。
何故佐助が自分を選んでくれたのかなんて理由はわからない。でも、好きだって初めて言ってくれた時は泣いてしまうくらい嬉しかった。
涙腺は歪んだけど、これ以上子供扱いされたくなくて必死に涙を堪えた。
まだまだ子供な自分が隣にいても良いのだろうかと何度も思い悩んだ。
それでも、そのたびに佐助が自分の体を包んで大丈夫と言ってくれたからそんな思いも薄れていったのだ。
あの困ったような笑顔と、優しい声。

「…………」

ああ、もう!
なんであんなにカッコ良いんだよアンタ!

思わず顔が赤くなるのを感じ校門の石柱を叩いてごまかす。
道行く通行人に再度不審な目で見られながらも政宗が悶えつつ一人百面相をしていると足元から声が飛んできた。

「あんた、こんなところでなにしてんだ?」
怪しむような表情を浮かべ小さな園児が自分を見上げていることに気づき、顔付きも元に戻った。
「……あ?なんだお前」
「あんたこそなんなんだ。ふしんしゃか?」
「うるせ、ガキに興味はねえよ」
見知らぬ子供の闖入にノスタルジーな気分は吹っ飛ぶ。
しかし昔の自分と佐助のような身長差に別の懐かしさを感じた。膝を折り顔の高さが同じになるようにかがむ。
「なあ、俺は政宗。お前は?」
「もとちか。あんたもがんたいつけてんだな」
「まあ、な」
元親と名乗った少年を見て、昔の自分と佐助の視点はこんなに違ったんだと改めて思った。

「お前は佐助のクラスの子供か?」
ぼんやりと低くなった視界を眺めながら政宗は元親に話しかける。
「いや、おれのせんせいはかすがせんせいだぜ」
「え……かすが、先生?」
もしかして金髪で、身長の高い女の人かと聞いてみるとなんで知っているんだと驚かれてしまった。

佐助が大学に入ってからたまにその名前を聞いた覚えがあった。
綺麗な人だと佐助の実習生の時の写真を見て何度も思い詰めたことは政宗の記憶に新しい。
佐助はいつも笑って否定をしていたが仕事場が同じだなんて聞いていない。
「あの人が、ここにいるのか……」
あんなに舞い上がっていた気持ちが急にしぼんだ。馬鹿、馬鹿佐助。
浮気なんてしてないと信じているのにそんなことを思う自分に腹が立つ。

「…で、元親はなんでこんな所にいるんだ?」
この話題のままだとまた佐助に当たってしまいそうだったから無理やり話を変えた。
少し不思議そうな顔をしていたがすぐさま原因を思い出したらしく元親はわかりやすく怒りはじめる。
「あいつがおれのじゃまするから!」
そう叫びながら元親は今まで抱えていたそれを政宗に見えるように出す。

「…jigsaw puzzle?」
政宗が流暢な英語で呟いたそれは子供が遊ぶにしては難しすぎるような真っ白なパズルだった。
普通この年ならキャラクター物や動物乗り物が定番なはずで、それなのに元親がそれで遊んでいるというのには酷くアンバランスに感じた。
現に小さなピースはバラバラに積み重なっており元親がそれに苦戦しているのは目にも明らかである。
「あいつって誰だよ?」
「もとなり!!」
「? 友達か?」

〜数十分前〜

「ああ…謙信様ぁ…」
「せんせーあそぼうぜー」
廊下で年長組のクラスを覗くかすがを控えめに元親はエプロンの裾を引っ張って呼んでいた。
「え、あ、ああごめんなさい。」
かすがは笑って振り返ろうとしたが。
「――って、ああ!!」
目の端に映ったその光景を見過ごすことは出来ずに首からぶら下げているそれを構えた。
「けけけけけけけけけけけけけけけ…っ」
「せ、せんせい!?どうしたんだよせんせい!!」
いきなり震え出したかすがを元親が慌てながら揺さぶるがかすがはレンズごしに一点しか見ていない。
元親がレンズの先に視線を向けるとそこには――

「けっ謙信様が家康君に高い高いを!!なんて素敵なお姿!!ああもしあれが私達の子供…つ、つまり謙信様との間に出来た…あ、ああああああ愛の結晶だったら…はっ!シャッターチャンスっ!!」
「なあってばー」
「今度は忠勝君に高い高いを!!ああん!引きつった笑顔な謙信様も素敵だ!!」
「せんせいあそぼうぜー」
「先生は今忙しいの!!」
うおりゃあああと何かよくわからない奇声をあげながらかすがは常日頃首からぶら下げている相棒のデジカメを光らせる。
ショット!ショット!ショット!まばたきをしている暇があるのなら手を動かせ!一瞬たりとも謙信様の表情を取り逃してなるものか!うわあああああ今の表情!良い!たまらん!!

は、とふと我に帰ると足元には酷くつまらなさそうにこちらを眺めている元親の存在を思い出す。

「あ、元親くん…」
がまだいたんだったという本音はさすがに心の中に仕舞い込む。
そしふとなにかを思いついたのかかすがは盗撮行為を一端止めて猛スピードで職員室に向かう。そしてひとつの玩具を抱えて戻ってきた。
渡された箱の中に入っていたのは白い白いジグソーパズル。元親の体から少しはみ出す程度の大きさで少しよろけた。
「先生はちょっと忙しいからこれでしばらく遊んでなさい!終わったら一緒に遊ぼうね!ね!!」





かすがせんせー職務怠慢の段。

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