数日経つと幸村も今の体に慣れた様で、勝手に城内を漂ったり壁から壁を通り抜けて帰って来たりと好き勝手動いていた。
「政宗殿!庭にある大きくまるで太陽の様な花は何でござるか?」
へらへら笑いながら壁から現れるのも、もう数え切れない。

順応性が高いなと微妙に感心したりするが、こいつみたいな浮遊霊になる気なんてこれっぽっちも無いので、結局はこれも無駄な考えなんだろう。
毒されたのかも、しれない。


「Ah 向日葵だろ」
そこに一輪だけ特別に植えてあるのは、少しでも太陽に近づきたくて首を目一杯伸ばし、陽に近付こうとする健気な花。
そして俺の天下への願賭けだった。
子供だましな物だとは思うがそれでも叶えたい思い。

目的が達成した時には、一輪だけの向日葵を花畑になるぐらい増やしたい。視界の全てが向日葵で埋まるくらいに。
太陽で埋まるくらいに。

気が向いたらアンタにも見せてやるよと、聞こえない様に独り言ちた。

「ひまわりですか。では政宗殿も見に行きませぬか?花を咲かせている姿が実に健気で、綺麗なのですよ」
返事も聞かずに壁をすり抜ける真田に静止の言葉をかけた。

「ちょっと待て、アンタと俺の歩幅は違うんだ。もっとslowlyに歩け、な?」
何せアンタ空飛んでんだから。



「やはり見事な花だ」
向日葵の周りをぐるぐる回って感嘆の声を挙げる真田はとても無邪気で、年相応の顔付きになっていた。
忘れていたが彼は自分よりも若いのだ。それに戦場の時とも違う。
あの時の幸村はとても精悍だった。
思わず見惚れてしまうくらいに。


甲斐の若虎は戦場だけの存在なんだと改めて思う。
赤を纏う幸村の姿に何度となく見惚れた。たとえ場違いな思いでもあの時、殺し合っている時に本当にそう思ったのだ。

赤を纏う気高き虎、主君の為なら何を犠牲にしたって構わないその姿。
俺は、

そんなアンタが、




これ以上は考えてはいけない事だと無理矢理に思考を遮断した。頭に鳴り響く警報に従う。余計な思考を冷静に消して行った。
今更気付いてはいけないんだこんな事。


何て馬鹿な事を考えているのだろう。自分はどうしてしまったのだろうかと思うよ。
これも全部アンタのせいだ真田。


「政宗殿?」

どうなさったのかと不思議そうに問われ、ようやく自分が上の空で話を聞いていた事が分かった。

「あ、ああそうだな。自慢の花だ」







何故かこの時。もう、あの気高き若虎には会えないのだと思った。








思いを自覚するには遅過ぎて、それを伝えるには早過ぎる?鈍感な奴等は大切な事にだけ気付かないものだ!

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