「HRはじめっぞー」

ガラガラと扉が開いた。扉からは眼帯をかけたひとりの青年が現れる。
手には持ち切れないほどのたくさんの教材を抱えながら青年はゆっくりと教壇へと歩いた。

「おはよーございまーす」
「せんせー遅い」
数人はあいさつを、さらに数人は遅れてきたこの青年を咎め、残りは本や自分の趣味に没頭していましたがちらりと顔をそちらへと向けた。

「あー、悪いな。大人には色々と用事があるんだ」
青年はどさどさと教卓の上に抱えていた荷物を置く。
彼の名前は伊達政宗。英語と数学の教員免許を持つ、このエスカレーター式の学校にて小等科を担当する1‐Aの担任。

「ん?何かやけに静かだと思ったら真田がいねえな。お前ら知らねえ?」
休みだとは連絡来てねえんだけど。出席簿を片手に伊達は生徒を見回す。
「あー?朝から見てねえよ」
「旦那のことだから多分また、でしょ」
一番前の長宗我部と後ろから2番目の窓際に座る猿飛が口を開いた。

「…あんにゃろう、また遅刻か」
はあとため息をもらし出席簿に赤字でペケ、と記入する。
これで1週間連続遅刻だなと伊達が思っていると廊下を走る音が聞こえてきた。

「お、っおは、おはようございまする!伊達せんせぇえええ!!…あいた」
ばぁあああん、とものすごい音をたてて扉が開く。その衝撃で扉に付いてある1‐Aと書かれているプレートがガタンと傾いた。
ただでさえボロい校舎なのに最近、日に日にボロくなっている気がする。伊達は思った。犯人はコイツだ

「こーら、廊下走んなつってんだろ真田」
伊達先生は出席簿の角を真田の脳天に、ぺしっと軽い音を立てて当てる。
ちなみにこれは体罰じゃありません、俺流の愛のムチでーす。がこういう時によく言う伊達先生の口癖。なかなかいい性格
「まあいい、とりあえず席につけ真田」
「はい!」

真田が席に着くのを見届けてから伊達先生は出席を取り始める。
「真田…は、いるな。猿飛ー」
赤ペン片手に間延びした声で呼びかけた。

「はいはーい」
「はい、は一回」
「はーい」

「長宗我部ー」
「目の前にいんじゃん」
「うるさい。いいから答えろ」
「へーい」

「(途中省略。)前田ー」
「はいはーい」
「…お前いい加減猿をガッコに連れてくんな」
「えー、夢吉は俺の親友だぜ?伊達せんせーの頼みでもそれは無理な話っつうことで、ごめーん」

「…毛利ー」
「なんだ」
「なんだ、ってお前な、出席だよ。本ならいくら読んでもいいから話ぐらいは聞け」
「我には関係ない」
「…………。」

「…休みは、徳川と竹中か」
ペケペケと赤ペンでメモをする伊達の顔は若干疲れていた。いったい何が原因なのだろうね。
「…ふふふ、おかしいですね…私の名前が呼ばれてませんよ伊達先生…?」
「…明智先生、アンタも先生です。ほら、はやく保健室に戻ってください」
しっしっと手で追い払うと明智先生と呼ばれた白い髪の青年はゆらりと姿を消す。意外と素直な人だよ。

「……では、また…」
「もう来んな」
何故朝からこんな疲れているのかと伊達は思う。そして目頭をおさえながら出席簿を閉じた。
「いいんちょー」
毛利に短く呼びかけると1‐Aの教室の中で声が響く。

「起立、礼、着席」
そう言い終わると同時に、甲高いチャイムが学校に鳴り響く。
さて、こうして伊達先生の長い一日が始まるのだ

「伊達ー」
長宗我部がチャイムが鳴り終わると真っ先に伊達に話しかける。

「先生と呼べ」
「んじゃ、せんせーよぉ。俺、体ダルいんだけど」
「ん、風邪か?」
「いんや。昨日寝ないで鉄騎改造してた」
鉄騎。長宗我部の愛機。タイヤやハンドル、サドルなど至る所まで縦横無尽にカスタムした長宗我部の愛すべき相棒。簡潔に言えばチャリ。寝る時だって常に隣。
「自業自得じゃねえか」
「ねみー」
「…ったく、一限は確か片倉先生の授業だったよな。事情説明してやる」
「まじで!ありがとなせんせー!」
「…保健室行くのが一番なんだけどな」

しかし保健室の主を思い浮かべるとそんな考えもぶっ飛ぶ。俺の生徒が食われる。
伊達先生は害のある場所へと無理やり連れていこうとはしない生徒思いな先生なのだ。害=明智先生

「伊達せんせーここ教えてくんない?夢吉に落書きされて読めなくなっちゃってさ」
「だから言ってんだろ猿連れてくんなって。うちのクラスにも猿いんだろ、猿飛が。それで我慢しろ。あー、これはな…」
前田が教科書を持って伊達に聞きにくる。まあ勉強熱心と言えなくもない前田の頭を少し撫でた。感心感心。どうせ中学高校じゃこんなことしなくなるんだろうし。
しかし

「待ってぇえええええい!!伊達先生はそれがしの話を聞くのでござる!」
それらをかき消すほどの声で、真田が猛スピードで後ろから伊達の腰に抱きついた。みしっと伊達の体から鈍い音が鳴る。
「ぐは!」
「せんせー!?」
その衝撃で頭を撫でるどころではなくなり、ふらふらとものすごく不安定にかろうじて立っている伊達。前田は少し物足りないという顔をしていたがすぐに伊達の心配をした。
「しんでしまうとはなさけない ゆうしゃよ!」
「…お前心配してないだろ」
最近ファミコンに熱中してる前田なりの慰め。そんなネタ、もちろん伊達は知りません。

「ちょっと旦那!伊達せんせーに引っつかないでよね。」
そしてまた話に入る生徒がひとり。
ここは俺の特等席なんだから。猿飛が横から入り込む。話にも腰にも。
べりっと真田をはがして伊達にはりつく猿飛の衝撃にまたぐえ、と小さく呻き声をあげる。

「何をするのだ!佐助の癖に生意気な!」
「そんなの知ーらない。」
伊達の後ろから顔を出す猿飛。ふふんと人の神経を逆撫でする笑顔で思わず真田は殴りかかろうとする。しかし、何故か苦しそうにしている伊達に止められた。幸村はしぶしぶと真正面から抱きつく。

「…むー。佐助ばっかズルいでござる」
「アンタ普段もっといい思いしてるんだからいいじゃん」
「確かに真田だけズリーよな。」
「放課後いっつもせんせーと一緒じゃねえアンタ?な、夢吉」
そう聞くとキキッと前田の頭に座りこんでいる夢吉が同意するように首を縦に振っていた。
「…ならお前らも一緒に補習するか?こーら、目をそらすな目を」
しかし伊達が補習、のひとことを出すと一斉に顔を横に向ける生徒たち。

「いや、俺勉強出来るから…」
「結構です!!」
「生まれつき体弱いから無っ理ですせんせー」
「あっそう」

全く、何故そこまで補習を嫌がるのだろう。確かに勉強はいやでも、大好きな先生と放課後まで一緒にいられるチャンスでもあったりするのに。

ちなみに参考程度に言うと昨日の真田の補習の内容は応用問題集のプリント書き取り。間違いにつきスクワット10回。3セット。
真田の昨日の総スクワット数、3375回也。

「ふふふふふ…伊達先生とふたりっきりの放課後密会の時間は誰にも渡さぬわ!悔しければそれがしの様に毎日スクワットをやれる体力をつけてみやがれボウヤども!でござる」
伊達先生には聞こえないように真田は小声で勝ち誇った。なんという子供
それを悔しそうに睨み返して長宗我部、猿飛、前田は顔を見合わせて目で会話する。

(真田ぶっころ)
(同感。)
(右に同じく。…今はそれより、放課後だろ)
(絶っ対、邪魔してやる。野郎共俺についてきな!)
(兄貴!!…じゃあ作戦は?言っとくけど俺補習はやだかんね)
(俺だって嫌だっての)
(んじゃこういうのは…)
(いいなそれ)
(決まり!)

この間、0.3秒
練習もせずに見事アイコンタクトを実行させた。
「おいそこの教師」
「お前らは俺に対して敬いってもんを知らねえのか…なんだ委員長」
「なんでござるかこの陰険陰鬱陰気オクラ!伊達先生はそれがしのものだ!!」
「…その目障りな男を我の前から消せ。今すぐ」
「気持ちはわかるが落ちつけ」


(俺が最初に…)
(それじゃせんせーにバレるよ)
(野生のカンがすごすぎるんだよなせんせー…じゃあ夢吉に…)
(…危険すぎじゃない、それ?)
(いや…リスクがある方が必死になれるもんがある、だろ?)

最後にまた顔を見合わせニヤリと笑い合う。まるで悪魔のような笑顔。なんだこの餓鬼共。
しかしその本性には全くもって気付かない伊達。のんきに仲良きことは良きかなとか思ってたり。
すると

「伊達先生!どこを見ているのですか!!それがしの話を聞いてくだされ!」
「教師!何をもたもたしているか!!」
ふたりの生徒にシャツを掴まれがくがくと伊達は揺らされた。もちろん今まで考えていたことは雲散霧消。
お前ら小学生だろ。果たしてどこにそんな力を持っているのかと、ぐらぐらする頭を働かせ伊達は口を開いた。

「…それより手、離せ…」




そこでチャイムが鳴り響く。長いとも短いとも言える伊達の一日が今から始まるのだ。












伊達先生はみんなの人気者です。

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