前回 からのちょっとした続きもの。 あのあと佐助ん家に行ってからの会話です。 というか蓋を開ければ今回とんでもなくパラレルでした。あと風邪とか関係ない。 苦手な方は注意注意。 ◇ 「…ねえ、伊達ちゃん」 一呼吸置いて、佐助は尋ねる。 「喋りたくないんなら、言わないでいいんだけどさ、ひとつ…聞いていい?」 「あ、何だ?」 「何で…片倉先生が、好きなの?」 熱に浮かされていなきゃこんなこと聞けないよなと他人ごとのように頭の隅で佐助は思った。 それはただ純粋な疑問と、少しの好奇心から出た言葉。 それだけだと思ってた。 「…片倉先生が」 「え?」 話してくれる確率ははかなり低いだろうなあと佐助が思っている所に政宗は口を開き始めた。反射的に聞き返してしまうが彼は気にすることなく、話を続ける。 「昔、剣道やってたの…知ってるか?」 話が区切れてしまわないように佐助は短く首を縦に振った。 「あの人、俺達と同じくらいの時に剣道でインターハイ出てたんだ。小さい頃に親父の付き添いで一度だけ見に行ったことあって、」 「…へぇ、強かったんだ、先生」 「そうだな…強かった。子供心にもそう思えた。……あの人の試合は、他の奴らとは根本から違ってたな」 「あの人が構えるだけで、空気が止まったように感じた。広い会場が、静かになった。気付いたら、誰も…あの人から、目が離せなくなって、俺もずっとあの人を見てた。」 魅せられる、ってこういうことだったんだろうと、今なら分かる 「どんな人なんだろうって、思った。こんな風に人を惹きつけることが、出来るなんて思ったこともなかった。興味がわいたんだ」 そこで政宗は少し嬉しそうに声を弾ませた。 「試合が終わったあと、会場から出てこうとするあの人のあと追って行ったんだ。廊下で歩いてるのを後ろからタックルする感じで突っ込んで、」 それ、先生驚いただろうね、と佐助もかすれた声を少し弾ませて笑うと政宗も笑った。 「…驚いてたな。それで、何か言おうと思ってたのに本人前にしたら言いたかったこと全部ぶっ飛んでな、ずっと口ごもってた。それでも、言いたいことがあったから思い出そうと頑張ってたら、軽くしゃがんで、頭撫でてくれた」 (落ち着いて、深呼吸。) 「そのあと、興奮して、何言ったのか全然覚えてないんだけどよ、こんな人になりたいって純粋に思ったな。親父にあの人の名前聞いたり、パンフで調べたりもした」 「なんか…すごいね、伊達ちゃん」 「…必死だったんだろうな。もう一度会いたいってずっと、思ってた。この学校で教師してるってわかった時、柄にもなく、泣きそうだった」 「そして今や担任かー…」 自分が伊達ちゃんだったら確かに泣くのかもしれないなと、痛む喉をさすりながら佐助は思った。 「しかも、片倉先生が俺のこと覚えてくれてたのがすっげえ嬉しい」 そう嬉しそうに話す政宗を見て、聞いてよかったなと佐助は微笑ましそうに笑う。 だけどその反面、何故か、少しだけ辛いなと思った。 (……なんでだ?) 「おい、話聞いてんのか」 ぼんやりしていた佐助に不満そうに政宗は声をかける。 「あー…ごめん、なんかぼーっとしてたかも」 なんか死にそー…といつものように困ったような笑顔を作る佐助に、これで話は終わりだというように政宗は表情を変えた。 「死にそうって時にまで、んな顔してんじゃねえよ」 薬飲んだんならさっさと寝ろ。政宗は布団を勢いよく肩までかける。 「…お手数かけまして」 「良いってことよ。」 その代わり、明日購買で俺の分もパン買ってきてくれんよなあ。にやりと笑う政宗。 「本当ちゃっかりしてるよね…伊達ちゃんのそういうとこ俺好きだよー…うん大好きー…」 「褒めてんのかそれ」 「一応」 「じゃあ許す」 「んー…ごめん、寝るね」 なんか薬効いてきたかもと半分しか開いていない目を無理やりまばたきさせる佐助。 「おー寝てな寝てな」 「…ねえ伊達ちゃん」 「んだよ」 「今、幸せ?」 いきなり何聞いてんだ。政宗に軽く小突かれた。俺、仮にも病人なんだけど。 「うるせえ。寝ろ」 「……はーい」 しぶしぶと目を閉じた。 徐々に意識がふわふわとしていく。この感覚に逆らわなかったら次起きた時には誰もいないんだろうなと思うと少し悲しくなった。 やだなあ。ひとり。 風邪を引いているからかどうやら今の俺は人恋しいらしい。 そのまま佐助の意識が本格的に遠のく一呼吸前。 とても、本当にとても小さな声で 「こんな間抜けな友人に出会えたくらいには、幸せだな」 なんて言葉がしっかりと耳に入った。 アンタはどうしていつもそういうタイミングで言うんだよ! 重くなる意識には耐えられなかったみたいで、しょうがないけれど次に目が覚めた時にはいつも以上に情けなくにへらと笑いかけようと決めた。 もちろん寝ている間に逃げられないようにしっかりと政宗の腕を掴んで。 君に些細な仕返しを (ふふふ、俺も幸せだよ) ◇ 佐助を看病する政宗とか書きたかったはずがなんだかまたもや小←政な話になってたよ。 とりあえず片倉先生片倉先生うるさいのはこれが理由でした。 小十郎の背中を追っかける政宗とか本気で良いと思うんだ。 |