前回からの続き。
読まないと意味わからないかもしれないので簡単に説明。

幸村幽霊になる。
幸「成仏出来ない」
政「ここにいれば」

そんだけ。
では続きをどうぞ。











「政宗殿ー」
ふよふよと伊達政宗のまわりを漂う真田幸村は不思議そうな表情を浮かべながら顔をのぞく。
「政宗殿に執務はないのですか?」

幸村は自身が取り憑いて以来、調練の時以外は何もせずにただぼんやりと縁側に座ってばかりの政宗を訝しく感じていた。調練の時も幸村との一騎打ち後はどこか腑抜けていると兵達が話していたのを耳にしていたのだ。
最初はこんな体の自分に気を使って時間を作ってくれているのだろうと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
今も縁側で柱に体を預けてぼんやりと庭を眺めている政宗はその一言でこちらに向く。
「そんなわけじゃねえさ。ただ……」
なにかを言いかけてまた口を塞ぐ政宗に首をひねる。
この頃政宗はなにかおかしいと思う。出会ったばかりの幸村にもわかるのに、彼の家臣は何故なにも言わないのだろうと再度首をひねった。




政宗様は今日も気分が優れないのだろうか。

近頃は何を聞いても上の空で、どこか陰りのある笑顔をするようになった。
笑っているのに泣いている。そんなちぐはぐな印象を受けてしまう。
小十郎は最初から何が原因となっているのか分かっていた。しかし分かっているからこそ深く踏み出せないこともあるのだ。

小十郎は筆を走らせてはいるが一向に文机の上の書は減りはしない。手先を集中させようとしても小十郎の頭を埋め尽くすのは主のことばかり。幾度も自身を叱咤し筆を走らせるも気が付くと考えは霧散していた。
筆を硯の上に起き眉間に手を伸ばす。思わずため息が漏れていた。

あの人の心の中には今もあの野郎がいる。
何故そこにいるのが自分ではないのだ。彼の隣にずっといたのは自分なのに、笑わせることさえ出来ないなんて。
こんな時に手を差し伸べることさえ出来ない自分は、こうして執務を減らすことしか出来ないのだと自虐的な笑みを浮かべた。

ああ、そうだよ。
嫉妬しているんだ。未だにあの人の心に居座るあの野郎に。

「……ろう…ま」
思い浮かぶのは主の寂しげな微笑みだけ。
ああ、そんな泣き出しそうな風に笑わないでほしい。
あなたには、笑っていてほしいのに。


「……小十郎様!」
ふいに大きな声が聞こえ小十郎は思わず素っ頓狂な声を出して顔をあげる。そこには困った表情で部下が見下ろしていた。
「あ、ああ…悪い、なんだ」
「いえ、その少し休んだほうが良いと……」
膝を折り顔を覗いてくる部下は顔色が酷いことに心配を隠そうともしないで告げてくる。考えていることをそう簡単に悟られるのはどうかと思ったが、良くも悪くもそこが直情的な伊達軍の特徴であり、心配してくれているのだと思うと少しだけ気持ちが軽くなった。
しかしそれでも顔に出てしまう自身に不甲斐なさを感じたが気持ちと裏腹に顔付きはまた険しくなる。思わず顔に手を伸ばして確認をしてしまった。
そんなことをして分かるわけではないけれど。

「悪い、少し……休む」
座りっぱなしのせいか少し痺れた足に気にもせず立ち上がる。軽くふらつく小十郎の背中を心配そうに部下は見ていたが詮索はせず自身の仕事に戻った。




足痺れた小十郎。


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