とん忠A




「亭主、聞いてくれるか」
神妙な面持ちで現れたのは体格に似合わず時折定食を残していくオールバックの男。今日も胃薬を持参しているようだ。


とん忠
(胃痛持ちの編集の悩み)


「俺は確かに仕事しろ仕事しろとうるさかった…だが相手も社会人だ、プロだぞ。だから信用していたし、期日までには上げていたから何も言わなかった。」
注文はとんかつ定食。
胃にもたれるだろうにこうして食べに来るということはこの男はこの店を気に入っているのだろう。
静かな店内でぷくぷくと黄金色に染まるとんかつを店主はつつく。
どうせこの男が来れば客は皆帰ってしまうのだ。好きに喋らせてやろう。

「おかしいと思いはじめたのは作業机に酒ビンが置かれてからだ」
元より酒が好きな人だった。最初の頃は、昨日は飲んでいたんだと思うことができた。そう嘆く声が段々と声が小さくなる。
とんかつをフライヤーから掬い上げる。次は高温の油へと入れ直した。ぶくぶくと勢いよく泡が出る。

「まさか、酒のために〆切投げてまで脱走すると思うやつがいるかいいやいない!俺の編集人生であんな馬鹿野郎は初めてだ!」

開いた扉が慌てたように閉じられた。怒気にあてられた客が逃げてしまったようだ。
「…………。」

今日は店じまいをしたほうが良いかもしれない。
泡が小さくなる。出来上がりまで、あと10秒。




小説家から片倉さん出張。





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