とん忠

深い意味はない。




充満する油の匂いに壁に染み付いた橙の模様。薄暗い店内の中央に鎮座する寡黙な主人のじうじうとんかつを揚げる音が響く。
主人は口を開かない。
故の閑静な雰囲気を求め足を運ぶ客が大半ではあるが、それとはまた別に足を運ぶ層がいる。

「店長ぉぉぉぉおおおお!」

今日も今日とて客が話の種を持ってきたようだ。


とんかつ屋と忠勝。


「てんちょー聞いてよう、もうなにも信じられないよ俺」
客の注文したチキンカツのタネをフライヤーに入れる。
この客はいつもチキンカツ定食だ。

「最近また恋人が冷たいんだ。話しかけてもシカトで、しつこくしたら往復ビンタくらうし一緒のベッドで寝てたら寝ている俺を突き落とすしさぁ…あ!でもそれだけならまだ普段と変わらないし別に気にしないんだけど。なんか、最近おかしいっていうか、怪しい。」

フライヤーを見下ろし気泡を眺める。ぶくぶくぶくぶく。綺麗な黄金色になるまであと、三十秒。

「旦那とばっかり遊びに行くし!なにしてんのか聞いても無視→殴られるだけだし!メールすらシカトだよ!ねえこれどう思う店長!ねえちょっとチキンカツばっか見てないで俺を見てよ店長ぉぉぉぉお!やだやだやだ俺絶対別れないからね!1ヶ月記念も忘れてないし誕生日だってちゃんとふたりでお祝いしたし!なにこれちょっと俺完璧じゃない!俺のなにがいけないんだよぉ!」

ぶくぶく、ぶくぷく。
泡立つ泡立つ鮮やかな黄金色に変わる染まる。
大きな泡が段々小さく消えていく。

「伊達ちゃぁぁぁん!俺のことを捨てないでー!!なにふたりで仲良くしてんだよぉ!明日は俺様の誕生日だよー!た!ん!じょ!お!…………あ。」

定食ができた。







*猿飛くんがチキンカツしか食べない理由。

チキンカツ→鶏→ムネ肉→政宗肉

まあ気持ち悪い(ё)







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