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ロミオとシンデレラ

現代佐政




「今日は、もう帰るのか?」

寝台の上から一人の男が起き上がる。薄暗い室内の中で橙の髪を揺らしながら足元に追いやられた衣服に手を伸ばした。
その物音に気づいたのか、穏やかに寝息を立てていたもう一人も目を覚ます。しかし起きる気はないらしく、気だるげに体を反転させその様子を眺めていた。

「ごめんね。」
「気にしてないから、いい。」
「そっか。」
そこで橙の髪の男は背を向ける。しわのできた衣服に眉を寄せながらも袖を通した。
それを邪魔するようにもう一人は背中から腰に手を回す。機嫌を損ねた子供のように頭を腰にくっつけて離れようとしなかった。

「……こら、邪魔したらいつまで経っても帰れないじゃない。」
その様子に橙の髪の男は困ったように笑う。
「帰らなきゃいい。」
「それが無理なのは、アンタだってわかってるでしょう。」
そして絡めてくる指をそっとほどいた。
「アンタは冷たいな、猿飛。」
猿飛と呼ばれた橙の髪の男は唇をとがらせる。
「しょうがないじゃない。ねえ、伊達のお坊ちゃん。」
「俺はアンタの恋人なんかじゃない、友達ですらない、ただの使用人なんだ。」
「……それくらい、知ってる。」
伊達と呼ばれた男は子供のように呟いた。
「だったら、俺をこんなことに使わないで。」
その言葉に、背中を向けたままの男をにらみつける。
「嫌だ。」
「嫌だじゃないでしょう、伊達のお坊ちゃん。」
「……やめろよ。」
猿飛は一々丁寧に、伊達の気に障る言い方をして煽る。
もちろん、わざとだ。
猿飛の性質を知っている伊達はそれが嫌がらせになるとわかっているのだ。
今だけは、その名前で呼ばないで。
その色付きの悪い唇に呼ばれたい名前が他にあるのだと言えば、何かが変わるのだろうか。

「アンタの言い方、固いんだよ。」
本当に伝えたい言葉は出てこずに。
「そういう口調なの。」
「嘘つき。」
アンタがほしい。戸惑うように弱々しく触る手も、寝台の上で鮮やかに揺れ動く髪も、色付きの悪い薄い唇も、いつも困ったような表情のくせに射抜くように見つめる目も、なにもかもがほしいのに。

「ずっとうじうじ悩んでる野郎は死んじまえ。生きてる意味がねえよ。」
「俺がアンタの理想像と違うならやめればいいじゃない。」
「うるさい。」
いい加減に気づけよ。
俺が何もわかってないとでも思ってるのか。

「なあ、佐助。」
するりとシーツの中から抜け出し男のシャツを引っ張った。
「俺はアンタが好きでアンタは俺が好きだ。」
これで綺麗にハッピーエンドを迎えられるってのにどうしてアンタは逃げるんだ。
「違うならこの手を振り払え。」
俺達は勘違いなんてしていない。
「アンタは俺が好きなんだ。」
なあ、連れ出してくれよ。
子供の頃に読んだ童話のように。

悲劇で終わるジュリエットより夢見がちなシンデレラになりたいんだ。








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