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酔ってもどうせできない

「随分と、遅かったな」
扉の前で片倉が腕を組んで立っていた。

「あ、片倉さん」
ご所望の人は背中にいますよと佐助は少し肩を下げてそれを見せる。顔が赤い、目がうつろで、酒臭い。ただの酔っぱらいがそこにいた。
「おかえりなさいませ、政宗様」
どうやらただいまと返しているようだがろれつの回らない舌ではただのうわごとにしか聞こえない。
「じゃあ伊達ちゃん下ろすよ」
「いーやーだー」

動くと気持ち悪いーと子供のようにぐずる酔っぱらいを佐助の手から受け取ると一層酒の臭いがした。思わず顔をしかめる。
「飲ませすぎじゃねえのか」
「勝手に飲んだんですよ、しょうがないでしょう」
どっかの誰かが飲み会に付き合わないせいでねと佐助は言った。

「…………。」
「じゃあ帰りますんで、伊達ちゃんのお世話よろしく」
その一言に小十郎の胸に顔をうずめて大人しくしていた政宗が暴れ始める。さすけ、さすけと舌足らずに名前を呼ぶので小十郎が体を反転すると肩から政宗の顔が覗かせた。
「今そちらを向きますから、暴れないで、危ないでしょう」
「まあかわいらしい」
政宗は手を伸ばして佐助を掴んだ。
「さすけー」
「なーに」
そのやり取りにまるで兄弟みたいだなと小十郎が頬を緩める。が、

「ちゅー」
「はいはい、ちゅー」

「…………は?」
思わず目を見開いた。
聞き捨てならない言葉が聞こえてきたと思えば次の瞬間にはちゅ、とかわいらしい音を立て政宗が佐助の頬に唇をくっつけられている。そしてそれを当たり前のように受け入れる佐助がいた。

「……おい猿飛、今のは何だ今のは!」
「やだなあ片倉さんそんな怖い顔。伊達ちゃんって酔うとキス魔になるんですよ」
「なん、だと……?」
「こじゅうろううるさーい」
「酒飲む日は大体こんな感じですね」
爆弾を軽々しく放り込む佐助に小十郎は放心する。
「じゃあね伊達ちゃん、片倉さん」
そうして佐助は背中を向け、手をひらひらと振りながら帰っていった。
「ぐっばーい」
佐助の姿が見えなくなると政宗が小十郎の背中をぺしぺしと叩く。どうやら部屋に帰ってさっさと寝たいらしい。
「こじゅうろう、ねる、ふとんつれてけ」
「…………。」
しかし今は政宗の足である小十郎は一向に動く気配がない。
「おいこじゅうろう、むしすんな」
「……政宗様、この小十郎めには、その、キスはないのですか?」
「…………。」
「政宗様」
小十郎が名前をもう一度名前を呼ぶと政宗も再度小十郎の背中を叩く。
「いやだ」

「そう、そうですか、あの猿はよくて私は駄目てすか、泣きそうとは言いませんが若干視界がぼやけてきました」

「酔った勢いとかじゃ、いやだ」



小十郎は政宗を落とした。







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