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今回縮むのは幸村ではありません

真田源次郎幸村、縮む の続き





「こんにちは、独眼竜の旦那」

「……やっと変装は止めたか」
開けた障子の向こう、庭の木々から逆さ釣りで忍が手を振った。胸さわぎがすると思ったらこれかと政宗は濃度の濃いため息を吐く。

「最近良いネタがなくて」
侍女はもう飽きたし片倉の旦那は一番楽しいんだけど後が怖いしと一人で話し始めた。
「うるせえ、帰れ」
しっしっと手を払う。もういい。もう年甲斐もなく小十郎に怒られるのは十分だ。
「つれないなあ。」
枝に腰掛け足をばたつかせる佐助は懐に手を入れる。

「はい、旦那から」
手紙と包みを弧を描くように投げ渡した。
「なんだこれ」
手紙手紙と読む振りをする佐助に促され封を切り個性的な文字で埋められた文を読む。ああ、以前言っていた茶屋の団子か。律義なやつめ。腐る前に食べてほしいと書いてある竹皮の包みを開いた。

「茶もあるけど飲むかいお殿様」
「アンタが用意したものなんて飲むかクソ猿」
「ひっどーい」
ぶら下がりながら茶を飲む佐助を一瞥し手のひらの団子を口に運ぶ。甘い。

「どう?どんな感じ?」
「……Ah, まあ、悪くはねえよ」
「へえ、そうなんだ」

その表情に妙な違和感を感じた。腹の下がむず痒い。この違和感は何だ。

ぼん。



「…………」

嘘だ、こんなことが起きるわけ、ないだろう。
「……はっはっは」
「はははは」
「なにわらってんだくそざる」
「かわいいねえアンタ」

体が重い。違う、服が重いんだ。袖口から手が出ない。視界が広く感じるのは何故だ。
そんなの簡単だ。記憶をさかのぼれ、一人いただろう。
拾い食いをして体が縮んだと泣きついてきたあの馬鹿が!

「……おい、これはいったいどういうことだ」
「え、暇つぶし。」
というか旦那がアンタにあげるための団子食べちゃったのが原因なんだけど。悪びれもせず口を開いた。

「はあ!?」
「でも考えたらわかるでしょう。アンタは、旦那が目の前にある団子を食べないでいられると思うのかい?」
思わない。
あの男がそんなことできるわけがない。
俺が相手にしているのは誰だあの馬鹿虎だ!
「さなだァァァァァァ!」
俺の腹に渾身の力を込めてあげた声は開いた障子から部屋に入り込む佐助の手に塞がれた。
「ちょっと俺が来てるのバレちまうじゃない、静かにしてよ」
「〜〜〜〜〜っ!」
離せ、と叫ぶ声は薄い手のひらに飲み込まれる。噛みついてやろうとするとするりとそれは逃げた。
「で、団子買おうと思ったんだけど、ちょうど買い置きがあったので、それを持ってきました。」
「……てっめえ、まさか」
「そう、旦那が天井で拾った団子と同じもの」
「…………。」
「にしても竜の旦那も意外と甘いよね、そんなことに気づかないで何も疑わずに団子食べちゃうんだから。それとも何、旦那がくれたものだったら無条件に信じちゃうの?なにそれかわいいところあるう」

六爪を構える。
例え得物を掴むこの手のひらが小さくなろうが勝手は変わらなかった。

「あれ、独眼竜の旦那どうしたの?やだなあ室内でそんなもの振り回すなんて。今日の俺様は敵じゃなくてただの伝令な……」
随分と小柄になった。だが刀は振れる。
「おーけー、あーゆーれでぃー?」
「えっ、ちょっと待ってよ旦……ぎゃー!」
人を切らなくても怒りだけでバサラゲージは溜まるらしい。




次の日。
あの時の真田のように、一晩寝たら直るかと木にぶらさがるクソ猿を追い払い布団に頭を突っ込んだ。
のだが、現実はそう甘くもないようだ。

「……ももも、もどってねえ!」
まだ夢の中にいるぞ!と政宗は紅葉のような手のひらで頬をつねってみたり思わず部屋の中を走り回ってみるが、それは返ってこの現状を確認させることになった。
夢じゃない……だと?
「ころすころすまじふぁっきんあのくそざる」

爽やかな朝にお似合いの、ちゅんちゅんこやかましい小鳥たちのさえずりを余所に、政宗は呪詛のような声で呟いた。
ちょっと半泣きで。

「こーんにちはー」
気の抜けた声が背中から聞こえてきた。腹立たしいが、すでに声で誰か見分けられる。
「くっそざる、てめえよくもおめおめとそのまぬけづらをおれのまえにだせたな!」
振り返る。こんな体になろうが得物の扱い方を忘れたわけじゃねえんだよ!首かっ切ったらァァァァ!


「……政宗、殿?」
目の前にいたのはクソ猿と元服したばかりか、一人の青年がいる。誰だ?考えなくてもわかるだろう。忍の主。忍である猿飛佐助の主は誰だ。そんなのこの男しかいない。
「おーう、さなだ」
おいクソ猿てめえなんで真田が一緒に来てるんだ、よ!反射で構えた刀を降ろし佐助に視線で訴えた。

「まっままままさっま政宗殿!?政宗殿!?政宗殿!」
「うるせえ、なんどもよぶな」
「これは、その、認知?」
「ほんにんだ!」
間抜け面で政宗のそばに膝をつく真田。俺は立っているのに顔の位置が同じだった。泣きたい。

「やあ独眼竜の旦那、随分とかわいいねえ」
「こっこっこっこっこっこ……!」
この野郎!と言うつもりが怒りのあまりか鶏のようになる。
「鶏の物真似ですか?かわいらしい」
「ちーがーうー!」
穏やかに笑う幸村が頭に手を置いたがそれを払いのけた。小さな手を広げ暴れるその姿はかんしゃくを起こした子供のようだ。

「おいくそざる!さっさとなおせ!」
「え、知らないよ」
「ははは、もうこのままでも良いではないですか」
「だよね、今のままの方がかわいいよ」
「ふふふっふざけんな!」
ぎゃいぎゃい叫ぶその姿が小動物のようだと、二人を和ませていることに気づかない政宗はさらに地団駄を踏む。
「ふざけんな!こんなすがたで、これからどうしろってんだよ!」
「幼少の頃それがしが使っていた小袖はまだあっただろうか」
「確か、蔵のほうに」
「おい、さなだ!あっあんたはおれのらいばるじゃねえのかよ!おれがこんなすがたのままでいいのか!」
「ううん、色はエンジにするかそれとも浅葱か……」
立ち上がり腕を組んで政宗のまわりをうろうろ回り出す幸村はすっかりと自分の世界に入っていた。
「きけよばか!」
仮にもrivalがこんな情けない姿になったというのに、この男はなんておかしな男だ。思わず忍ぶように笑うと、低く、冷え冷えとした声が聞こえた。

「小さくなったアンタにはそんなことを求めていないんじゃないの」

ぼそりと呟かれた声に上を見上げた。
佐助が細めた目を向けて政宗を見ている。
「……あぁ?」
「もしこのまま小さいままだったら、旦那はアンタのことをそういう対象に見なくなるだろうね」
よっこいしょとうやうやしく腰をおろし佐助は幸村のように手のひらを乗せる。
しかし優しさは感じられなかった。

「そんな姿のアンタは、旦那にとって何の価値もないんだよ」
黙り込む政宗に佐助は顔を歪ませて醜く笑った。
「(なーんてね、最近旦那の反応が淡白でつまらないから、ちょっとイタズラ。今日はどんな風に怒るかな……っておや、反応がないぞ。)」

「独眼竜の旦那?」
「政宗殿?」
うつむいたらまま黙り込む政宗の様子に二人が思わず互いに顔を見合わせると、小さな嗚咽が聞こえた。
あ、あれ……?

「く、くそざるがっ…おれを、こんななさけねえすがたに、しっしたのにっ……」

「やっやべえ!19歳がガチ泣きだ!」
やりすぎた!と思わず叫ぶと幸村が佐助の頭を殴る。
「佐助!このばかちんが!」
「アンタも悪いじゃない!」
「うあああああああああん!」
「うわああごめんよってば!泣くなよアンタ独眼竜だろぉ!」
「かっ、かためじゃないもん……ばけものなんかじゃないもん……」
「そうだよアンタは奥州の偉い人だよ!」
「そしてそれがしのおっ、思い人でござる!」
「ノロケは後にしろ!」

情けなく口を開けて童が泣いた。体に伴って心まで幼児化してるなんて旦那の時にはなかったのに!
「ご、ごめんねそんなに嫌がってると思わなくて」
「政宗殿の泣き顔……政宗殿の泣き顔……」
「ほら!この薬飲めばすぐに戻るからねー泣かないでー!」
「それがしはこのままの政宗殿でも何ら問題はないでござるぞ!」
政宗を凝視する幸村の頭を殴る。
「ね、ごめんね?ちょっとしたイタズラだったんだよ、独眼竜の旦那が小さいままなら害にならないし旦那も手合いだとか言わなくなるしそれを止めなくていいから俺の負担が減るし、そう俺の負担が減るから!」

「へえ、そういうことかい……」
「へ?」

今までそこにいた童は消え去り見覚えのある美丈夫が現れた。

「え、泣き……真似?」

「歯ァ食いしばれ 『HELL DRAGON!』」
稲光に巻き込まれ佐助の体は紙のように吹き飛ばされた。
「ぎゃー!」

「自業自得でござる!」
そう呟く真田の声が静かに耳に聞こえる。
アンタが元凶の癖に!薄れゆく意識の中、そんなことを佐助は思ったとか。





とうとう伊達さんが縮みました。

真田に「このばかちんが!」と言わせたかっただけですごめんなさい。







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