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ひとりきりの男の話


※死ネタ注意
なにが書きたいのかと言われると。



00

何かが倒れる音がした。


「……佐助」
ごふり、と地に伏せた忍の体から赤い液体が流れていた。
膝を折りその体に身を寄せる。
「佐助、」
うつ伏せに倒れた忍の顔を上を向けた。顔を歪ませ、腹に添えられた手の下からは血が流れている。
「佐助」
「早く、行け、」
「お前を置いていけるものか」
抱き抱えようと手を伸ばすが忍は力なくその手を払いのける。
「早く、行ってくれよ、」
じわじわと装束に浸透する赤く黒い、血。
「今、手当てをする、だから」
「……旦那!」
不意に下腹が熱くなる。顔を下げると赤く鈍く光る直刃の刃。
主は血を吐き出した。その色は忍と同じように赤く、黒い。
忍は叫ぶ。目の前で起きたことを信じられずか、糾弾すべき相手を見たのか。
主は忍へと体を傾ける。体には何の力も込められてはいない。
呼吸は少しずつ荒くなり、そして止んだ。


01

「……ん、」
「ようやくお目覚めかい」
目を開くと目つきの悪い優男が枕元に座っていた。見覚えのない場所だった。
「どこか痛いところはねえか」
心配そうに眺めている優男には見覚えがあるのだが思い出せない。

「あのさ」
「ん、なんだ」
「……アンタ、誰?」

恐る恐る切り出すと優男は目を見開いて俺を見る。

「記憶が、ないのか?」
「自分が誰かもわからない。何があったのか、ここはどこなのか、全部」
「……そうか」
そう言うと優男は何かを考えているのか目を閉じた。

「アンタの名前は、佐助だ。猿飛佐助」
「……佐助」
確かめるようにその名を口に出した。優男がそう呼ぶがあまり実感がわかない。
「何度も呼べば慣れるだろ」
「だといいけど。あ、そういえばアンタの名前は?」
「秘密」
優男の表情に何故だか頭が少し痛んだ。
「なんだよそれ」
しかし痛みはすぐに止む。気のせいだろうか。



02

「戦国の世は終わったんだ
これからは徳川の時代が始まる」
「アンタは失敗したの?」
この男が何もせずに諦めるようには見えないと不思議と思った。
「失敗なんてしてねえ。ただ、俺が生まれた時はそんな争いも終わっていたのさ」
「ふうん」
おもむろに古い記憶が頭を掠めた。顔は霧がかかっていてよく分からないが、若い男が俺に強い眼差しを向けている。何かを力強く語っているようだった。

「不思議と、誰かとこんなことを話したことがあるような気がする」
「…………」
「誰だろう、思い出せない
頭の中にもやがかかったようなんだ」
暖かい。他のことは何も思い出せないのにその記憶だけは酷く恋しい。
大切なことだと自分が分かっている癖に、何も思い出せないのは何故だろうか。

「本当に大切なことなら勝手に思い出すだろ」
「そんなもんかな」
「アンタならきっと思い出せるさ」
俺の知っているアンタはそんな男だと笑う。
少しだけ記憶のものと、被った。
「ありがとう」
なんだか照れくさくなって思わず優男から顔を背けた。
こんな思いを抱く相手がアンタだったらいいのに。そんな馬鹿なことを思っていたなんて口には出さなかった。




03

「騙していたのか。」

「敗将の忍を手元に置いて、主のことさえ忘れた俺を、さぞ滑稽だと笑っていたんだろう。」

目の前の男は無言のままだった。
何も思っていないようなすました面に酷く黒い苛立ちを感じる。これは殺意だ。敵の大将へ向けるには似つかわしく相応しい感情だと体が理解をする。

「何とか言ったらどうだ。伊達政宗!」
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い!

「Ha, 人でなしの忍が人みてえな顔をするかい」
滑稽、滑稽と笑う男に切っ先を向ける。
「黙れ」
「      」
もうこの男に耳を傾ける意味はなかった。
俺は男が口を開ききる前に獲物を降りかざし――




首が飛んだ。




















04

「主従ってのは似ちまうもんだな、真田」

ひとりの男が呟く。







幸+佐

味方の傷ついた兵士を看病していたところを襲われ生涯を閉じた六文銭の人(@wiki)と忍を眺めていた眼帯の人の話。







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